ヲタクが文明にもっと輝けと囁いている【配信中】 作:いかのしおから
村の中央には物見やぐらが建てられている。
頂上からは村全体だけではない、村の外、川の向こうまでも一望できた。
これは余所者が攻め込んできた時に備えて建てられたものだった。
その頂上にて、周囲の監視を続けていた俺は一人ごちる。
「ああ、くそう、腹減った。
どうして俺がこんな目に。
今日で三日目か?
あと二日も続けねえとならねえのかよ。
あいつ早く来ねえかなぁ」
「おっすヴァル、飯食ってたらトイレ行きたくなってよ」
「おせえぞグレン!
もう少しでこっちはへそと背中がくっつきかけてたぞ!」
「ハハハ、そのでけえ腹じゃ無理だろ」
ようやくグレンのやつが飯を食い終わったらしい。
ああもう、チンタラハシゴを登ってんじゃねえよ。
こっちは腹が減って死にそうだってのによぉ。
「今日で三日目か、あと五日も俺達だけで監視を続けなきゃいけないなんて」
「元はといえば、てめえが強さ議論に作り話を持ち込まなければ」
「乗っかったてめえも同罪だろうが、俺ばっかり悪く言うんじゃねえよ」
「最初に仕掛けたてめえが一番悪いっての。
お前が張り合わなきゃ、神官たちに話が届くことも……ん?」
「どうした?」
グレンのやつが、何かに気づいたような表情を浮かべた。
グレンの視線の先を追う。
するとそこには、数十人の武装した集団がこちらに向かっているのが見えた。
「──へへへ、強欲な蛮族共が攻め込んできたぞ」
「こいつは退屈せずに済みそうだな」
俺達は顔を見合わせ笑い合った。
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『体調管のためにカップラーメン以外の食事を摂ることを推奨します』
「健康に気を使えるほど金がねえんだよ。
だから一先ず心の充電だ。
よし、そろそろ3分経ったかな」
蓋を外して箸で麺をほぐす。
今日も今日とて食べるのはカップラーメンだ。
とはいえいつもの200GPのカップラーメンではなく400GPの高価なもの。
器もまた縦長のコップ型ではなく、お椀型、パッケージも高級感に溢れている。
最近頑張ってる自分へのご褒美として奮発させてもらった。
「そんじゃ、いただきまーす」
『略奪者が村に攻め込んできました』
「ぶほっ!? ──お、俺の一風堂がああああ!?」
驚いた拍子に器をひっくり返し、ラーメンを地面に落としてしまう。
せ、せっかく奮発して買ったのに……。
いいや、それよりも今は、
「せ、攻め込まれたって。
ど、どうしよう、戦争になるのか?
てかもうなってるのか?
ま、また人が死ぬ!?
やめてくれよぉ、ようやく人口が増え始めたのに……!」
『いったん落ち着け』
『冷静になれ。
こういう時のために、今まで村の防衛力を高めてたんだろ?』
「そ、そうだよな。
侵略に備えてちゃんと準備してきたんだ。
でも俺、軍事技術とか全然教えてやれなかったし……。
と、とりあえず俺は何をやればいい?」
『ありません』
「え、ないの?」
『一度戦争が始まれば、あなたの立場でできることは多くありません。
強いて言うなら戦況の観察でしょうか』
「せ、戦況の観察」
画面の視点を動かし、村の状況を確認する。
村は現在ぐるりと丸太の柵で囲われており、出入り門は一つだけ。
村の男衆たちは内側から出入り門を囲んでいる。
陣形としては前方に木の板を置き、その隙間から男衆が弓矢をつがえる形だ。
……け、結構強そうな陣形だぞ。
略奪者は林の中に隠れている。
「どうしても何かをしたいと言うならば、ゴッドポイントを半分消費して、激励の言葉をかけられますが』
「……やめとく。
手は尽くした、後は果報を待つことにするよ」
『それがいいと思われます』
……頼むぞ皆、生き残ってくれ。
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「あいつら攻めあぐねてるな。
出入り口が門一つだけだと不便だとか言うやつもいたが、やはり柵を作っておいて正解だったぜ」
「しっかし、こうも睨み合いが続くと息が詰まるな」
「よぉし! 俺が誘い込んでやる! 少し待ってろ!」
グレンはそう言うと、村に戻って物見やぐらを登り始めた。
神官たちは「持ち場を離れるな!」と怒声を上げている。
いったい何をするつもりだあいつ。
「やーい腰抜け共ー!
そんな場所に隠れ続けて、ここまで何をしに来たんだよ!
怖いならさっさと帰ってママのおっぱいでもしゃぶってなー──うおっ」
物見やぐらに矢が突き刺さる。
グレンのやつは慌ててハシゴを降りたため死に損なったが、ロアンの族長に頭をぶん殴られてしまった。
あーあー。
「いてててて」
「おい、様子はどうだった?」
「向こうさん、顔真っ赤にしてたから、そろそろ攻め込んでくると思うぜ」
「──山村と川村の連中如きが俺達を馬鹿にしやがって……行くぞお前ら!」
「おおおおおお!!」
「ほら来た」
「総員! 武器を構えろ!」
俺達は配置していた木の板に隠れ、弓に矢をつがえる。
さあ来い。
今までの俺達とは違うことを教えてやる。
来た──略奪者が林を飛び出して現れた。
「うおおおお──」
「放て!!!」
「ぐああっ!?」
「ぎゃああああ!」
「ひ、ひぃい!」
一斉に放たれた弓矢は、略奪者を貫き針山にする。
飛び出した略奪者の中に、無傷の者は一人もいない。
それを見て、未だ林に隠れている略奪者も戦意を挫かれたようで、後ずさっている。
「撤退! 撤退だ!」
「ケール一族は俺に!
ロアン一族はカインについて来い!
逃げ出した略奪者を追いかけるぞ!」
「応!」
さあて、楽しい楽しい追撃戦の始まりだ。
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「うちの村強くね……?
防衛戦だけじゃなくて追撃戦も圧勝じゃん。
死人どころか怪我人も出ていないし」
呆気なく蹴散らされていく略奪者。
逃げ出した略奪者を追い、次々に駆逐していく村の男衆。
彼らが村を飛び出した時は不安でたまらなかったが、結果はまるで危うげのない勝利だ。
鍛錬はさせてたし、柵を作って防衛力は強化していたけど、こんなに強かったけ、うちの村。
『どうやら英雄譚の強さ議論が戦術研究に繋がっていたようです』
「ええ……? ケール英雄譚ってかなりファンタジーだぞ。
空も飛ぶし、手からビーム出るし」
『現実に転用できる要素も多かったのでしょう』
『一般的な神話と比べて戦闘シーンの解像度が段違いだったからなぁ』
『日本の少年漫画を参考にしたら、そりゃあね』
言われてみれば……そうなのか?
『なんにせよ今回の防衛戦は大勝利です。
おめでとうございます』
「お、おう、ありがとう」
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抗争から1年が経った。
我らの強さは山岳地帯全土に轟き、あの日以降襲撃は受けていない。
更に森林を切り拓き苦労して畑を作った甲斐があり、今年は飢餓者が一人も現れなかった。
神の庇護の下、我らは幸福と安寧を享受している。
そして、更にめでたきことが起きた。
「アルド様、カイル様、リアナ様が出産されました!」
「おお! リアナの様態は安定しているのか?」
「ええ、問題ないどころか元気が有り余っている様子です。
お会いなさいますか?」
「行こう!」
産婆の後を追い、部屋の中に入る。
するとそこにはガルドとリアナがいた。
そして二人の手には赤子が抱えられていた。
「お父様、カイル様、無事リアナが子供を出産できました」
「ふふふ、これで二人もおじいちゃんですね」
「まだそのようなことを言われる齢ではないが……性別は?」
「男の子です」
誇らしげに胸を張るリアナ。
ケール一族とロアン一族、その族長筋の間に子供が生まれることは、我らにとって長年の願いだった。
「よくやった、この子は我らを導く次代の長となるだろう」
「ありがとうございます、それで、名前は決まりましたか?」
「男児が生まれた場合はアルドが名付ける約束だったな……どうするアルド?」
「うむ……一つ考えていた名前があってな」
俺は一呼吸置き、こう続ける。
「──エルヴィス。
我らケール一族とロアン一族を繋ぎ止めた英雄にして、この子にとっては大祖父に当たるエルン。
その名に肖り、エルヴィスはどうだろうか」
「素晴らしき名前かと」
「ええ、これ以上はないと思えるほどに」
「ふふふ、決まりだな」
こうして、ケール一族とロアン一族を導く次期村長が誕生した。
──しかしこの時の俺達は知らなかった。
後にこの赤子が、山岳地帯全土に改革を齎す英雄になることを。