ヲタクが文明にもっと輝けと囁いている【配信中】   作:いかのしおから

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#6「防衛戦」

 村の中央には物見やぐらが建てられている。

 頂上からは村全体だけではない、村の外、川の向こうまでも一望できた。

 これは余所者が攻め込んできた時に備えて建てられたものだった。

 その頂上にて、周囲の監視を続けていた俺は一人ごちる。

 

「ああ、くそう、腹減った。

 どうして俺がこんな目に。

 今日で三日目か?

 あと二日も続けねえとならねえのかよ。

 あいつ早く来ねえかなぁ」

「おっすヴァル、飯食ってたらトイレ行きたくなってよ」

「おせえぞグレン!

 もう少しでこっちはへそと背中がくっつきかけてたぞ!」

「ハハハ、そのでけえ腹じゃ無理だろ」

 

 ようやくグレンのやつが飯を食い終わったらしい。

 ああもう、チンタラハシゴを登ってんじゃねえよ。

 こっちは腹が減って死にそうだってのによぉ。

 

「今日で三日目か、あと五日も俺達だけで監視を続けなきゃいけないなんて」

「元はといえば、てめえが強さ議論に作り話を持ち込まなければ」

「乗っかったてめえも同罪だろうが、俺ばっかり悪く言うんじゃねえよ」

「最初に仕掛けたてめえが一番悪いっての。

 お前が張り合わなきゃ、神官たちに話が届くことも……ん?」

「どうした?」

 

 グレンのやつが、何かに気づいたような表情を浮かべた。

 グレンの視線の先を追う。

 するとそこには、数十人の武装した集団がこちらに向かっているのが見えた。

 

「──へへへ、強欲な蛮族共が攻め込んできたぞ」

「こいつは退屈せずに済みそうだな」

 

 俺達は顔を見合わせ笑い合った。

 

==

 

『体調管のためにカップラーメン以外の食事を摂ることを推奨します』

「健康に気を使えるほど金がねえんだよ。

 だから一先ず心の充電だ。

 よし、そろそろ3分経ったかな」

 

 蓋を外して箸で麺をほぐす。

 今日も今日とて食べるのはカップラーメンだ。

 とはいえいつもの200GPのカップラーメンではなく400GPの高価なもの。

 器もまた縦長のコップ型ではなく、お椀型、パッケージも高級感に溢れている。

 最近頑張ってる自分へのご褒美として奮発させてもらった。

 

「そんじゃ、いただきまーす」

『略奪者が村に攻め込んできました』

「ぶほっ!? ──お、俺の一風堂がああああ!?」

 

 驚いた拍子に器をひっくり返し、ラーメンを地面に落としてしまう。

 せ、せっかく奮発して買ったのに……。

 いいや、それよりも今は、

 

「せ、攻め込まれたって。

 ど、どうしよう、戦争になるのか?

 てかもうなってるのか?

 ま、また人が死ぬ!?

 やめてくれよぉ、ようやく人口が増え始めたのに……!」

『いったん落ち着け』

『冷静になれ。

 こういう時のために、今まで村の防衛力を高めてたんだろ?』

「そ、そうだよな。

 侵略に備えてちゃんと準備してきたんだ。

 でも俺、軍事技術とか全然教えてやれなかったし……。

 と、とりあえず俺は何をやればいい?」

『ありません』

「え、ないの?」

『一度戦争が始まれば、あなたの立場でできることは多くありません。

 強いて言うなら戦況の観察でしょうか』

「せ、戦況の観察」

 

 画面の視点を動かし、村の状況を確認する。

 村は現在ぐるりと丸太の柵で囲われており、出入り門は一つだけ。

 村の男衆たちは内側から出入り門を囲んでいる。

 陣形としては前方に木の板を置き、その隙間から男衆が弓矢をつがえる形だ。

……け、結構強そうな陣形だぞ。

 略奪者は林の中に隠れている。

 

「どうしても何かをしたいと言うならば、ゴッドポイントを半分消費して、激励の言葉をかけられますが』

「……やめとく。

 手は尽くした、後は果報を待つことにするよ」

『それがいいと思われます』

 

……頼むぞ皆、生き残ってくれ。

 

==

 

「あいつら攻めあぐねてるな。

 出入り口が門一つだけだと不便だとか言うやつもいたが、やはり柵を作っておいて正解だったぜ」

「しっかし、こうも睨み合いが続くと息が詰まるな」

「よぉし! 俺が誘い込んでやる! 少し待ってろ!」

 

 グレンはそう言うと、村に戻って物見やぐらを登り始めた。

 神官たちは「持ち場を離れるな!」と怒声を上げている。

 いったい何をするつもりだあいつ。

 

「やーい腰抜け共ー!

 そんな場所に隠れ続けて、ここまで何をしに来たんだよ!

 怖いならさっさと帰ってママのおっぱいでもしゃぶってなー──うおっ」

 

 物見やぐらに矢が突き刺さる。

 グレンのやつは慌ててハシゴを降りたため死に損なったが、ロアンの族長に頭をぶん殴られてしまった。

 あーあー。

 

「いてててて」

「おい、様子はどうだった?」

「向こうさん、顔真っ赤にしてたから、そろそろ攻め込んでくると思うぜ」

「──山村と川村の連中如きが俺達を馬鹿にしやがって……行くぞお前ら!」

「おおおおおお!!」

「ほら来た」

「総員! 武器を構えろ!」

 

 俺達は配置していた木の板に隠れ、弓に矢をつがえる。

 さあ来い。

 今までの俺達とは違うことを教えてやる。

 来た──略奪者が林を飛び出して現れた。

 

「うおおおお──」

「放て!!!」

「ぐああっ!?」

「ぎゃああああ!」

「ひ、ひぃい!」

 

 一斉に放たれた弓矢は、略奪者を貫き針山にする。

 飛び出した略奪者の中に、無傷の者は一人もいない。

 それを見て、未だ林に隠れている略奪者も戦意を挫かれたようで、後ずさっている。

 

「撤退! 撤退だ!」

「ケール一族は俺に!

 ロアン一族はカインについて来い!

 逃げ出した略奪者を追いかけるぞ!」

「応!」

 

 さあて、楽しい楽しい追撃戦の始まりだ。

 

==

 

「うちの村強くね……?

 防衛戦だけじゃなくて追撃戦も圧勝じゃん。

 死人どころか怪我人も出ていないし」

 

 呆気なく蹴散らされていく略奪者。

 逃げ出した略奪者を追い、次々に駆逐していく村の男衆。

 彼らが村を飛び出した時は不安でたまらなかったが、結果はまるで危うげのない勝利だ。

 鍛錬はさせてたし、柵を作って防衛力は強化していたけど、こんなに強かったけ、うちの村。

 

『どうやら英雄譚の強さ議論が戦術研究に繋がっていたようです』

「ええ……? ケール英雄譚ってかなりファンタジーだぞ。

 空も飛ぶし、手からビーム出るし」

『現実に転用できる要素も多かったのでしょう』

『一般的な神話と比べて戦闘シーンの解像度が段違いだったからなぁ』

『日本の少年漫画を参考にしたら、そりゃあね』

 

 言われてみれば……そうなのか?

 

『なんにせよ今回の防衛戦は大勝利です。

 おめでとうございます』

「お、おう、ありがとう」

 

==

 

 抗争から1年が経った。

 我らの強さは山岳地帯全土に轟き、あの日以降襲撃は受けていない。

 更に森林を切り拓き苦労して畑を作った甲斐があり、今年は飢餓者が一人も現れなかった。

 神の庇護の下、我らは幸福と安寧を享受している。

 

そして、更にめでたきことが起きた。

 

「アルド様、カイル様、リアナ様が出産されました!」

「おお! リアナの様態は安定しているのか?」

「ええ、問題ないどころか元気が有り余っている様子です。

 お会いなさいますか?」

「行こう!」

 

 産婆の後を追い、部屋の中に入る。

 するとそこにはガルドとリアナがいた。

 そして二人の手には赤子が抱えられていた。

 

「お父様、カイル様、無事リアナが子供を出産できました」

「ふふふ、これで二人もおじいちゃんですね」

「まだそのようなことを言われる齢ではないが……性別は?」

「男の子です」

 

 誇らしげに胸を張るリアナ。

 ケール一族とロアン一族、その族長筋の間に子供が生まれることは、我らにとって長年の願いだった。

 

「よくやった、この子は我らを導く次代の長となるだろう」

「ありがとうございます、それで、名前は決まりましたか?」

「男児が生まれた場合はアルドが名付ける約束だったな……どうするアルド?」

「うむ……一つ考えていた名前があってな」

 

 俺は一呼吸置き、こう続ける。

 

「──エルヴィス。

 我らケール一族とロアン一族を繋ぎ止めた英雄にして、この子にとっては大祖父に当たるエルン。

 その名に肖り、エルヴィスはどうだろうか」

「素晴らしき名前かと」

「ええ、これ以上はないと思えるほどに」

「ふふふ、決まりだな」

 

 こうして、ケール一族とロアン一族を導く次期村長が誕生した。

 

──しかしこの時の俺達は知らなかった。

 

 後にこの赤子が、山岳地帯全土に改革を齎す英雄になることを。

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