ヲタクが文明にもっと輝けと囁いている【配信中】   作:いかのしおから

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#7「エルヴィス」

「……ふむ」

 

 物見やぐらから辺りを見渡していると、森の奥に人影を見つけた。

 人数は三人ほどで、畑に近づいては離れてを繰り返している。

 しかし槍を持った見張りが畑の周囲を警戒し始めると、彼らは慌てて逃げ出した。

 

「我が弟子エルヴィスよ、調子はどうだ」

「ああ……グレンさん」

「何を言っている、エルヴィスは俺の弟子だぞ」

「とヴァルさん」

「エルヴィスがいつお前の弟子になったというのだ。

 押し付けがましく師を名乗るなど、エルヴィスに迷惑だろう」

「それを言うならお前の方が──」

 

 グレンさんとヴァルさんはいつもの調子で口喧嘩を始めた。

 ほんと、仲いいなこの人たち。

 僕は彼らの作る物語が大好きで、幼き日は頻繁に家へ通い詰めて作り方を教えてもらっていた。

 別に正式に弟子入りした覚えはないけれど、今でも彼らのことは尊敬している。

 とはいえ、こういう子供っぽい部分はそろそろ抑え方を覚えてほしいものだ。

 一昨日もお祖父様たちに怒られていたし。

 

「先程別の村の者が三人、畑に近づいていました。

 しかし見張りが側を通ると、彼らはすぐさま逃げ出しまして。

 今から戦士団に伝える予定だったのですが」

「つまり言えばいつも通りか」

「戦を仕掛ける勇気もないのに鬱陶しい奴らめ」

「あれからうちの村は随分でかくなったからなぁ。

 神の使命により森を切り開き、畑を広げ、食料が増えた。

 そのせいで乞食共に狙わるようになってしまったが、とはいえ同時に人口も大きく増えた。

 もう山の地の部族では、うちの村に手出しすることはできんだろう」

 

 信じられない話だが、ケール一族は山の地で最も弱い部族だったらしい。

 今でこそロアン区と合併し、村全体を囲う丸太の防壁ができたが、昔のケール区は孤立し戦力も心許なく、略奪され放題だったと聞く。

 

「これもそれも神の導きあればこそ」

「ああ、まさしくその通り。

 風の噂によると他所の村は随分と悲惨な状況に陥っているそうだ。

 食料が足りず村同士が小競り合いを続けており、中には同じ部族同士で奪い合ってもいるのだとか」

「村の外の連中は神を信じぬ愚か者ばかりだ、当然の末路だろう」

「……」

 

……それは果たして、本当に受け入れていい言葉なのだろうか。

 

「……僕らのご先祖様も、初めから神様を信じていたわけじゃない」

「きゅ、急にどうした我が弟子エルヴィスよ」

「エルヴィスは俺の弟子だぞ」

「ええいうるさい、話が脱線する。

 とにかく、ガルド様とリアナ様の息子であるお前が、下賤な蛮族共を擁護するなど」

「しかし、大祖父ロアンより前の代では、我々は神話をすっかり忘れていたという話ではないですか。

 神の存在も漠然と感じていただけで、まともに信仰はしていなかったと」

 

 かつて祖父アルドはそう言っていた。

 大祖父エルンが神託を授かってから、我々の信仰は復活したと。

 

「僕の名前のエルヴィス──これは大祖父エルンを肖って名付けられたと聞きます。

 大祖父エルンは神より教わった神話を伝導し、仲違いしていたケール村とロアン村の友好の架け橋となりました。

 今の彼らもまた、神の導きを受けず迷える子羊であったかつての我々と同じなのです。

 他人事には、思えません……」

「……エルヴィスは、慈悲深いな」

「神に愛されぬ者たちにまで、そこまで気を配ってやれるとは」

 

……エルン様のロアン村への伝道が成功したのは、英雄ロアンの伝承あればこそだ。

 しかし他所の村に英雄がいたという話は聞かない。

 ただケール様とロアン様の英雄譚を教えただけでは、他所の村の心を開くのは困難だろう。

 

 それでも……どうにかできないものか。

 

==

 

「いいぞいいぞ、どんどん強くなっている」

『この数ターンでかなり戦力が整ってきたな』

『そろそろ征服に行ってもいいんじゃねえの?』

「征服かぁ……」

『山岳地帯全土を支配できる戦力はあると思うが』

「でも俺戦争したくねえよ。

 グレン先生やヴァル先生なんかの物書きが死んじまったら話の続きが読めなくなるし」

『またそれかい』

 

 こっちとしてはそれが生命線なんだよ。

 真っ白なパソコンしかない部屋の中、娯楽は神様ごっこと配信以外なにもなし。

 そんな状況に戻っちまったら、俺は遂に狂う自信がある。

 

「ん? ……何かイベントが起きたぞ」

『村の上層部が山岳地帯全土への征服計画を立てているようです』

「なにぃ?」

『周囲は村の食料をつけ狙う略奪者だらけ。

 私達の村には山岳地帯全土を征服できる戦力が揃いました。

 極めて自然な流れでしょう』

 

 ええ……困るんだけど。

 

「止めねえと」

『それは推奨できません』

「なんで?」

『現在、我々の村が山岳地帯において突出した戦力を誇っていますが、それを脅威と見なし同盟を結び始める勢力が現れるかもしれません。

 団結をされていない今のうちに叩くべきと考える、彼らの政策は間違っていないかと』

「くそ、蛮族共め、略奪なんてして何が楽しいんだ。

 皆で仲良く俺のために物語を作ってりゃあいいのによ」

 

 本当に腹が立つ。

 すりつぶしてやりたい気分だ。

 だが戦争を起こせばうちの村に死傷者が出るかもしれない。

 まさに二律背反である。

 

「お、またイベントが起きたぞ」

『どうやら征服戦争を起こす前に、布教を行いたいと提案が出たようですね。

 案を出したのは次期村長のエルヴィスです』

「……これって、もしかしてエルンの伝道と同じ流れか?」

『はい、どうやらエルヴィスはエルンの成功例に倣いたいようです。

 とはいえ村の住人の多くはエルヴィスの意見に賛同していません。

 次期村長を危険に晒したくないという思いもありますが、それ以上にロアン村と合併できたのはケール英雄譚に英雄ロアンが登場していたからこそ。

 他の村の先祖を描いた英雄譚は存在しないため布教は困難だと』

「つまり、また俺に何か書けってことか……?」

 

 はぁー。

 ついため息が漏れてしまう。

 

『嫌なのか?』

「俺は根っからの消費者なんだ。

 向いてないことなんてやりたくないし、下手っぴな物語なんて世に出したくねえよ」

『そうかなぁ。

 客観的に見てもお前の作った英雄譚は中々それらしく出来てたと思うが』

「んな見え透いたお世辞はいらねえよ。

 とにかく俺はやりたくねえ。

 どうしたもんか……あ、そうだった、忘れてた。

 こういう時のために「物書きの作った物語=過去や未来、異世界の物語かもしれない説」を採用していたんだ」

『どういうこと?』

「村の物書きに依頼するんだよ、こういう物語を作ってくれってな。

 そんで俺にとって都合がいい物語ができたら、それを正典と認める預言を神官に授ける。

 こうすりゃ手間を掛けずに他所の村の英雄譚の出来上がりだ」

 

 いい解決方法があったじゃないか。

 

「とりあえず各村の英雄の設定だけは決めておくぞ。

……あれ、これってよく考えたら、憧れの先生に、自分の書いてほしい設定で物語の執筆を依頼するやつじゃね?

 お、恐れ多いけどテンション上がってきたァ!」

『ほんと相変わらずだなこいつ』

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