ヲタクが文明にもっと輝けと囁いている【配信中】 作:いかのしおから
目が覚めると雲の上にいた。
「な、なんだここ」
「!? グレンさん、ヴァルさん……!」
「エルヴィス? ……どういう状況だこれは」
「わ、わかりません、気づいたら僕もここに」
「……これはまさか、伝説に語られる──」
『聞こえるか、エルヴィス、グレン、ヴァル』
「!?」
目の前には真っ白な髭を蓄えた老人がいた。
にも関わらず声は年若い。
伝承で聞いた通りのその特徴。
間違いない、神様だ。
「か、神様、いったい何の御用でしょう?」
「……ま、まさか俺達の広げた法螺話を戒めに」
「神様、悪さをしたのはこの二人です!
僕や他の村の皆は何も悪さはしていません! 罰を下すのは二人だけにしてください!」
「おいエルヴィス!?」
仕方がないだろう。
二人を庇おうものなら僕や村にまで咎が向かうかもしれない。
僕には次期村長として村を守る役目がある。
『静まれ……お前達に命じたいことがある。
文字は覚えたな? まずはこれを見よ』
そうして神が片手を振るうと、空中に文字が記された光の板が浮かび上がった。
なんという奇跡、やはり神は大いなる力を持った存在なのだろう。
いいや、感動している場合でない。
板には何と記されてある?
「炎の英雄ラグス、大地の英雄ドルガ、雷の英雄ゼクト、水の英雄ルキア……?」
『そうだ、彼らもまた、ケールやロアンと共に、この山の地で魔物と戦った英雄であり、山に住まう各部族の先祖に当たる』
「!」
『ラグスは南、ドルガは西、ゼクトは北、ルキアは東、それぞれ子孫をもうけ、その血統は脈々と受け継がれていった。
とはいえその歴史は既にその故郷ですら忘れ去られてしまったようだがな』
なんと……!
『この話を聞いて、お前たちは何かを感じ取った筈だ』
「なにか、とは……?」
『思い浮かんだだろう、彼らの物語を』
「!?」
胸が跳ねる。
確かに僕は4人の英雄の設定を読みながら、断片的ではあるが、彼らの物語が頭の中に描かれていた。
とはいえ僕以上に、グレンさんとヴァルさんの驚きぶりは凄まじかった。
話作りが好きな二人だ。
きっと次々に新たな英雄譚を思い浮かべていることだろう。
『それは時代を超えたインスピレーション。
かつて起こった歴史の記憶を、お前達に流れる血を通して呼び起こしているのだ。
その直感のままに物語として書き起こし、俺に読ませろ。
真実か偽りの歴史であるか、俺が判別しよう。
もし作られた物語の中に真実の物語があれば……エルヴィス、お前の望みは果たされる』
目が覚めた僕は急いでグレンさんとヴァルさんと合流した。
「やっぱりあれは、夢ではなかったのか」
「ああ、神が預言を齎してくれた。
我らが進むべき道を教えてくれたのだ!」
「おお……神よ! 感謝します!
しかし、我ら三人をお呼びになられたということは、協力して物語を描けと言うことなのだろうか?」
「おそらくはそうだろう。
早速執筆に取り掛かりたいところだが……」
「お祖父様に事情を説明しました。
すると神様の使命を果たすまでは他の仕事は休んでもいいと」
「流石は我が弟子! 気が利くな!」
「だからエルヴィスは俺の弟子だと言っているだろう!」
そうして僕らは英雄譚を描き始めた。
炎の英雄ラグス。
大地の英雄ドルガ。
雷の英雄ゼクト。
水の英雄ルキア。
彼らの出生や能力、性格に相応しい物語を。
とはいえ──
「なあこの話、もっと面白くできないか?
例えばヒロインを二人用意して三角関係にするとかさ」
「おい、神様は衝動のままに物語を書けと仰られただろう。
そして命令通りに書いた物語は既に完成している。
そういう途中からのテコ入れは違うんじゃないのか?」
「だが神様に読ませるのだぞ?
俺達の書いた物語をだ!
全力を出し切らず中途半端な出来の話を奉納して、もし神様からこの程度かと呆れられてしまえば、お前は耐えられるのか?」
「……そ、それを言われると」
物語を神様に見せるということ。
そして物書きとしての習性も合わさり、僕達は思い浮かんだアイデアを次々に物語へと盛り込んでいった。
もっと面白く、もっと熱く、もっと感動的に、もっと楽しく──。
「か、完成だ……!」
「間違いない、これが俺たちの最高傑作だ……!」
そうして修正を繰り返して作られた英雄譚は、凄まじく面白い物語に仕上がった。
しかし神様から授かった設定以外、原型は跡形もなく消えている。
そこにはもう、衝動のままに書いた物語とは到底言えない出来だった。
「「「……どうしよう」」」
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「おもろすぎる……これ絶対コミカライズするだろ、なんならアニメ化も視野に」
『現在の文明力では漫画化も映像化も不可能です』
「分かってるよ。
俺が言いたいのはそのぐらい面白いってこと」
こりゃすげえもんが来たぞ。
構造的には目新しい部分はない。
とはいえ込められた熱意が凄まじい、王道を突き詰めればこんな傑作が作れるのだと感動してしまう。
「なにはともあれ、これで各村の英雄譚が揃ったな。
担当編集として最終チェックをした後は、これを新たな正典として布教させよう」
『なあ、これで本当に大丈夫なのか?』
「ん? なんだよ? 何か問題でもあるのか?」
『確かに面白くはあったが、面白すぎるっつうか……。
神話ってのは基本的に寓話だろ?
これエンタメに寄りすぎてないか?』
「面白さこそが正義だ。
なにより俺達の第一の目標は蛮族共を懐柔すること。
面白くなきゃあ読んでもらえないだろ」
『いやー、普通の神話でも、読んでもらえる気がするけど』
「だとしても面白いに越したことはないだろ」
よし、何度か読み直したが内容に問題はない。
神官に神託を行い、新たに生まれた英雄譚を語り聞かせる。
「後は任せたぞ、エルヴィス」
その後、エルヴィスはグレンやヴァルを含む総勢10人の護衛を連れて、伝道の旅に出た。
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「エルヴィスー! 頑張れよー!」
「グレン! ヴァル! 死んでもエルヴィスを守るんだぞ!」
「お前たちには神のご加護がついている!
後ろは振り返らず全力で使命を全うしろ!」
旅立ちの日。
出入り門に集まった俺たちは、激励の言葉を送られていた。
父や母などの家族だけではない、ほぼ全ての村人が集まっている。
そんな密集する人の輪を割るように現れたのは長老の一人。
僕の祖父であるアルドお祖父様だった。
「お祖父様」
「……本当に行くのか?」
「はい、僕は神より授かった使命を果たさねばならないので」
「……エルヴィスよ。
お前の名付け親としては宿命染みたものを感じざるをえん。
……神の御言葉には逆らえんか」
「お祖父様、お言葉ですがこれは私の意識で決めたことでもあります。
神は私の意志を汲み取り、その背を押してくれたに過ぎません」
アルドお祖父様は時折、神という存在に対して、疑問を投げかける時がある。
それはおそらく僕の大祖父にして、アルドお祖父様の父親に当たるエルンが、神の預言に従い略奪者と戦い、命を落とした出来事に起因しているのだろう。
「お前の気持ちは分かった、もう止めはせん。
だが一つ忠告をさせてくれ。
神は我々の守護者だ。
そこに疑う余地はない。
しかし神の視点は我々とは大きく異なる。
父エルンは神託に従い戦った結果、亡くなった。
おそらく加護とは個人ではなく、村全体などの大きな枠組みに与えられるものなのだろう。
生きて帰ってこれるよう、努々気をつけなさい」
「……はい。
では、行ってまいります」
僕らは早速川を超え、その先にある村に向かった。
川村は荒れ果てており、畑は狭く、柵すらない。
こんな恐ろしい環境で彼らは生き続けていたというのか……。
「と、止まれ!」
「!」
「う、うちの村に何の用だ……!」
姿を現したのは、一人の男。
手には農具が握られており、その先端をこちらに向けている。
しかしながら、哀れなほどに痩せ細っているせいか、まるで威圧感がない。
「私は山沿いの村からやってきたエルヴィスです。
まずはお近づきの印に、これを受け取ってください」
「これは……!」
「食料です、そちらの村を1週間は維持できる量を持ってきました」
「!?」
男は目を丸め驚きのあまり、手に持っていた農具の先端を地面に下ろしてしまう。
これは村の皆が持たせてくれた食料だった。
神の御言葉がなければ、こんな風に交渉用の食料も用意できなかっただろう。
「た、助かるが……なんために」
「我々は同胞を助けに来ました」
「同胞?」
「今からこの村の皆さんを集めてください、そしてどうか聞いてください。
失われた真の歴史を。
あなた達の先祖の英雄譚を──」
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『伝道の成功により、村の一つが我が村の傘下に入りました』
「しゃあ!」
『おめでとー』
『やったね』
拳を握りしめる。
やったぞ、またしても伝道師作成大成功だ。
「いいぞエルヴィス、この調子で上手くやってくれ。
さて、新たに仲間に加わった村は、どんな村なのかね……ん? なにこれ」
『やはり娯楽一つない山岳地帯の住民にとって、この英雄譚は劇薬だったのでしょう。
盛り上がりすぎて仕事に手がつかなくなりました』
『いつもの』
『実家のような安心感』
川村の生産力が回復するのは、それから二週間後のことだった。