ヲタクが文明にもっと輝けと囁いている【配信中】   作:いかのしおから

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#9「言葉が通じない相手」

「あれから伝道を続けてどんどん各地の村が傘下入りしている。

 こりゃあ完全に流れが来たな。

 山岳地帯を俺色に染め上げるのも時間の問題だぜ」

『いいぞー』

『なんかフラグ臭いんだけど』

『すごい一体感を感じる。

 今までにない何か熱い一体感を。

 風……なんだろう吹いてきてる確実に、着実に、俺たちのほうに。

 中途半端はやめよう、とにかく最後までやってやろうじゃん。     

 ネットの画面の向こうには沢山の仲間がいる。決して一人じゃない。

 信じよう。そしてともに戦おう。

 工作員や邪魔は入るだろうけど、絶対に流されるなよ』

『追いフラグやめーや』

「……それはともかく」

 

 配信画面の左下に記されたのは同時接続者数。

 その数値を見て喜びよりも困惑が先立った。

 

「同時接続者数50……急に増えたな?

 昨日までは30人ぐらいしかいなかった筈だけど」

『切り抜きから来ました』

『俺も切り抜きから』

「切り抜き? 切り抜きって、切り抜き動画のことか?」

『そうそう』

「マジ!? 超嬉しいんだけど!

 完全に人気配信者ルート乗っかり始めてるじゃん!

 なあなあ、その動画ってどうやったら見れんの?」

『見れないねぇ』

『今は無理』

『一周目はなぁ』

「一周目?」

 

 どういう意味だ?

 

「……もしかしてこの神様ごっこって、2周目があるのか?」

『【表示できません】』

『【表示できません】』

『ごめん、検閲される』

『まだ説明できないっぽい』

 

 またそれかい。

 とはいえあくまで俺の予想だが、分かったことがある。

 神様ごっこにはクリアないし失敗しても、再挑戦できる可能性がある。

 そしていずれ動画視聴が解禁される。

 となれば他の人の配信も見れるようになるかもしれない。

 そうなれば科学技術とかも仕入れられそうだな。

 

『今日も配信してくれてありがとう/1000GP』

「! スーパーチャットセンキュー☆

……てかマジか!?

 初めて四桁ゴッドポイント貰えたかも!」

 

 分からないことが多いが、今考えたところで仕方がない。

 ならばとにかく今は目の前の成功を喜ぼう。

 

「よっしゃ、同接50人に千GP。

 この記念に歌ってみた動画でも出してみるか。

……いいや、ああいう動画って結構作るのに手間と金がかかるらしいんだよな。

 ならカラオケ配信だ。

 音源ないから俺のアカペラになるけど』

『歌上手いの?』

「別に上手かないな。

 でもイケボなら多少下手でも需要あるだろ」

『イケボ……?』

『尽く需要から外れた選択を選ぶ男であった』

「お前らがそういうこと言うから、女性視聴者が集まらないんだよ。

 女性人気にはイケメンブランディングが重要だってのによぉ──ん?」

 

 どうやら村に進展があったらしい。

 カメラを拡大して様子を伺う。

 

「……エルヴィス?」

 

 送り出した伝道師たち。

 村に帰ってきた彼らは皆一様に肩を落としトボトボと歩いていた。

 

==

 

「ではその魚三尾とこちらの鹿肉を交換してくれ」

「ほー、良い肉じゃねえか。

 いいぜ、交渉成立だ」

「おすすめの調理方法はあるか?」

「この魚は余計な味付けをしなくても美味いから、塩焼きがおすすめだぜ」

「ふむ、塩焼きか、妻に伝えておく」

 

 魚を香草に包んでもらい、袋に入れて家に向かう。

……それにしても伝道の成功が、このような結果に繋がるとはな。

 エルヴィス様たちの伝道が成功していくにつれ、定期的に村で市が開かれるようになった。

 市では各村の住人が店を開き、持ち運んだ道具や食料などを店頭に並べて販売している。

 そうした中には山沿いに住まう我々では手に入らないものも多く、市の成功に伴い我々の生活水準は大きく向上した。

 神様から預言を託された時点で確信はしていたが、これだけの成果を上げたのだ。

 エルヴィス様の次期村長の座はこれで盤石なものとなっただろう。

 

「エルヴィス様が帰ってこられたぞ!」

「おお! エルヴィス様が!」

 

 おっと、噂をすれば。

 我らの敬愛なる伝道師エルヴィス様がご帰還なさられたらしい。

 今回はどんな成果を持ち帰られたのだろうか。

 人だかりの隙間を縫って覗き込む。

 

「……エルヴィスさま?」

 

 帰ってこられたエルヴィス様は酷く落ち込んでおられた。

 エルヴィス様だけではない、そのお付たちすらも意気消沈の様子。

 よく見れば衣服がかなり汚れ、かすり傷程度だが怪我を負っている者もいる。

 

「エルヴィスよ、何があった?」

「父上……申し訳ありません。

 伝道に失敗しました」

「なに!?」

 

 伝道に失敗……?

 

「英雄譚は話せたのか?」

「一応は……」

 

 嘘だろう?

 あの英雄譚を聞いて心を奪われない人間などいない。

 いるとすればそれは人ではない何か、魔物の類いだ。

 

「言葉が通じなかったのです。

 かなり訛りが独特といいますか、我々の普段使っている言葉と、丘の上の村人が普段使っている言葉が異なるようで。

 一応同じ言語圏ではあるようですが」

「方言か……」

 

 ああ、そういうことか。

 それなら納得した。

 一度遠目で丘上の人間を見たことがあるが、奴らは俺たちと比べて肌が暗めのやつが多かった。

 もしかすれば俺達とは言語のルーツが違うのかもしれない。

 

「……食糧はどうした?」

「……話を聞いてもらうために」

「食糧は余分に渡していた筈だ。

 お前たちが行きと帰り、満足な食事ができるようにな。

 にもかかわらず、どうして持ち運び用の袋や紐すら持っていない」

「……」

「そもそも、そのボロボロの体はどうした。

 誰にやられた」

「……奪われました」

 

 その一言を聞いた瞬間、点と点が線で繋がれた。

 おそらくエルヴィス様たちは丘村の連中に追い回され、逃げ続けていたのだろう。

 一瞬で頭に血が上る。

 それは俺だけではないようで──

 

「蛮族共が!」

「許せん! 神より預言を賜ったエルヴィス様にそのような無礼など!」

「これは我々だけではない! 神への反逆行為だ!」

「血祭りに上げてやる!」

「無礼者共を殺せ!」

 

 確か槍は蔵に入れていた筈だ。

 家に帰ったら直ぐに手入れをしなければ。

 皆に置いていかれるわけにはいかない、一番槍は俺がいただく。

 

「お待ちください!

 彼らもまた神話に描かれし英雄の末裔なのです!

 本来なら同じ神を崇める友であった相手!

 一度布教が失敗しただけで諦めるのは早すぎます!」

「だがどうするのだエルヴィス。

 相手は言葉が通じない相手なのだろう?」

「……もう一度、もう一度挑戦させてください」

 

 エルヴィスさま……あなたは慈悲深すぎる。

 一村人として誇らしくは思うが、この世界は優しさだけで回ってはいない。

 エルヴィスさまがまた傷つけられるようであれば、その時は俺の手で。

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