ヲタクが文明にもっと輝けと囁いている【配信中】 作:いかのしおから
「あれから伝道を続けてどんどん各地の村が傘下入りしている。
こりゃあ完全に流れが来たな。
山岳地帯を俺色に染め上げるのも時間の問題だぜ」
『いいぞー』
『なんかフラグ臭いんだけど』
『すごい一体感を感じる。
今までにない何か熱い一体感を。
風……なんだろう吹いてきてる確実に、着実に、俺たちのほうに。
中途半端はやめよう、とにかく最後までやってやろうじゃん。
ネットの画面の向こうには沢山の仲間がいる。決して一人じゃない。
信じよう。そしてともに戦おう。
工作員や邪魔は入るだろうけど、絶対に流されるなよ』
『追いフラグやめーや』
「……それはともかく」
配信画面の左下に記されたのは同時接続者数。
その数値を見て喜びよりも困惑が先立った。
「同時接続者数50……急に増えたな?
昨日までは30人ぐらいしかいなかった筈だけど」
『切り抜きから来ました』
『俺も切り抜きから』
「切り抜き? 切り抜きって、切り抜き動画のことか?」
『そうそう』
「マジ!? 超嬉しいんだけど!
完全に人気配信者ルート乗っかり始めてるじゃん!
なあなあ、その動画ってどうやったら見れんの?」
『見れないねぇ』
『今は無理』
『一周目はなぁ』
「一周目?」
どういう意味だ?
「……もしかしてこの神様ごっこって、2周目があるのか?」
『【表示できません】』
『【表示できません】』
『ごめん、検閲される』
『まだ説明できないっぽい』
またそれかい。
とはいえあくまで俺の予想だが、分かったことがある。
神様ごっこにはクリアないし失敗しても、再挑戦できる可能性がある。
そしていずれ動画視聴が解禁される。
となれば他の人の配信も見れるようになるかもしれない。
そうなれば科学技術とかも仕入れられそうだな。
『今日も配信してくれてありがとう/1000GP』
「! スーパーチャットセンキュー☆
……てかマジか!?
初めて四桁ゴッドポイント貰えたかも!」
分からないことが多いが、今考えたところで仕方がない。
ならばとにかく今は目の前の成功を喜ぼう。
「よっしゃ、同接50人に千GP。
この記念に歌ってみた動画でも出してみるか。
……いいや、ああいう動画って結構作るのに手間と金がかかるらしいんだよな。
ならカラオケ配信だ。
音源ないから俺のアカペラになるけど』
『歌上手いの?』
「別に上手かないな。
でもイケボなら多少下手でも需要あるだろ」
『イケボ……?』
『尽く需要から外れた選択を選ぶ男であった』
「お前らがそういうこと言うから、女性視聴者が集まらないんだよ。
女性人気にはイケメンブランディングが重要だってのによぉ──ん?」
どうやら村に進展があったらしい。
カメラを拡大して様子を伺う。
「……エルヴィス?」
送り出した伝道師たち。
村に帰ってきた彼らは皆一様に肩を落としトボトボと歩いていた。
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「ではその魚三尾とこちらの鹿肉を交換してくれ」
「ほー、良い肉じゃねえか。
いいぜ、交渉成立だ」
「おすすめの調理方法はあるか?」
「この魚は余計な味付けをしなくても美味いから、塩焼きがおすすめだぜ」
「ふむ、塩焼きか、妻に伝えておく」
魚を香草に包んでもらい、袋に入れて家に向かう。
……それにしても伝道の成功が、このような結果に繋がるとはな。
エルヴィス様たちの伝道が成功していくにつれ、定期的に村で市が開かれるようになった。
市では各村の住人が店を開き、持ち運んだ道具や食料などを店頭に並べて販売している。
そうした中には山沿いに住まう我々では手に入らないものも多く、市の成功に伴い我々の生活水準は大きく向上した。
神様から預言を託された時点で確信はしていたが、これだけの成果を上げたのだ。
エルヴィス様の次期村長の座はこれで盤石なものとなっただろう。
「エルヴィス様が帰ってこられたぞ!」
「おお! エルヴィス様が!」
おっと、噂をすれば。
我らの敬愛なる伝道師エルヴィス様がご帰還なさられたらしい。
今回はどんな成果を持ち帰られたのだろうか。
人だかりの隙間を縫って覗き込む。
「……エルヴィスさま?」
帰ってこられたエルヴィス様は酷く落ち込んでおられた。
エルヴィス様だけではない、そのお付たちすらも意気消沈の様子。
よく見れば衣服がかなり汚れ、かすり傷程度だが怪我を負っている者もいる。
「エルヴィスよ、何があった?」
「父上……申し訳ありません。
伝道に失敗しました」
「なに!?」
伝道に失敗……?
「英雄譚は話せたのか?」
「一応は……」
嘘だろう?
あの英雄譚を聞いて心を奪われない人間などいない。
いるとすればそれは人ではない何か、魔物の類いだ。
「言葉が通じなかったのです。
かなり訛りが独特といいますか、我々の普段使っている言葉と、丘の上の村人が普段使っている言葉が異なるようで。
一応同じ言語圏ではあるようですが」
「方言か……」
ああ、そういうことか。
それなら納得した。
一度遠目で丘上の人間を見たことがあるが、奴らは俺たちと比べて肌が暗めのやつが多かった。
もしかすれば俺達とは言語のルーツが違うのかもしれない。
「……食糧はどうした?」
「……話を聞いてもらうために」
「食糧は余分に渡していた筈だ。
お前たちが行きと帰り、満足な食事ができるようにな。
にもかかわらず、どうして持ち運び用の袋や紐すら持っていない」
「……」
「そもそも、そのボロボロの体はどうした。
誰にやられた」
「……奪われました」
その一言を聞いた瞬間、点と点が線で繋がれた。
おそらくエルヴィス様たちは丘村の連中に追い回され、逃げ続けていたのだろう。
一瞬で頭に血が上る。
それは俺だけではないようで──
「蛮族共が!」
「許せん! 神より預言を賜ったエルヴィス様にそのような無礼など!」
「これは我々だけではない! 神への反逆行為だ!」
「血祭りに上げてやる!」
「無礼者共を殺せ!」
確か槍は蔵に入れていた筈だ。
家に帰ったら直ぐに手入れをしなければ。
皆に置いていかれるわけにはいかない、一番槍は俺がいただく。
「お待ちください!
彼らもまた神話に描かれし英雄の末裔なのです!
本来なら同じ神を崇める友であった相手!
一度布教が失敗しただけで諦めるのは早すぎます!」
「だがどうするのだエルヴィス。
相手は言葉が通じない相手なのだろう?」
「……もう一度、もう一度挑戦させてください」
エルヴィスさま……あなたは慈悲深すぎる。
一村人として誇らしくは思うが、この世界は優しさだけで回ってはいない。
エルヴィスさまがまた傷つけられるようであれば、その時は俺の手で。