狼少女は嘘を吐く 作:嘯く狼さん
『……昔々、あるお山に。一匹の親無し狼が住んでいました。
そいつは餌を取るのも下手な上、徒党を組むことはおろか協調という行為すらできない孤高の一匹でして。故に毎日、死ぬ様な思いをしながらその命を繋いでいた訳です。
幸いそのお山は広大で資源も豊富、加えて同族はのろまな狼なんかには滅多に近寄りませんから、弱っちい狼でも生息できる条件は揃っておりました、皮肉なことですが。
それが、そんな停滞しきった環境が大きく変わったのは、一匹の化け……いえ猛獣がそのお山に突如として現れたから。
その方は……えー非常に個性的な連中を集めてとある見せ物をやりたい、今はその為各地を巡り歩いていると仰る風変わりな方でした。
まあその後の些細は省きますが、その話に狼は乗って、猛獣の一座へと加わったのです 』
「 と言う経緯は無いんですが、私は今この場にいる訳です。感動しました?」
・あーはいはい頑張ったね(はぁと)
・感動しました! ……それが嘘だということに目を瞑ればよぉ!
・↑ガチでこれなの草
・嘘吐き!
「あっはっは。歴戦の
ちょっと哀愁が漂ってる様に感じられる(かもしれない)余白を入れてみる。
・目どころか顔すら笑ってねぇコイツ……
・純度100パーの褒め言葉(嘘)は辞めてもろて
・別に悔しいとも思ってないんだるぉん!?
「はい」
・うーんこの……w
・そもそも俺らが見抜くまでもなく自分から嘘言うてもうてますしこの方
・癖強えのは真実だぁが
・癖強集めて見せ物(配信)するってのはガチなんだろうなぁ……()
彼らも目が肥えて来ましたね、良いことです。
……嘘を見抜く目が肥える配信って何でしょうか、意味不明ですね」
・お前が言うな猟友会から通達『お前がっ! 言うなぁっ!!!』
・迫真で草
・いやほんとにおめーが言うことじゃねぇとw
・誰が始めた物語じゃい!
「はい、私です。……まあそれがここまで続いてこられたのは、その都度配信に参加して下さる狩人様方のお陰でもありますから、その点はいつも感謝していますよ、ありがとうございます」
・はいはい……ん?
・ペロッ、これは嘘……じゃ、ない?
・これがデレ!?
・デビューからどれだけ経ったんだ!?
・お赤飯買って来てー!!!
「あはは自覚はありますがやっぱり民度おかしいですね?」
テンションというか、情緒壊れてないか? 君達。
んーまあこれが動物園クオリティかぁ。
・皆忘れるな、こんな信じられない嘘吐きでもこの動物園の中でも良識枠だと言うことを……!
・ハッ……いや忘れさせろよ
・何思い出させてんねんお前から狩るゾ
・アーッ!
「あぁ……トラウマを再発させた方がいらっしゃいますね、ご冥福をお祈りします」
まあシンプルに可哀想、これも大体全てウサギ先輩って人の仕業でしてね……。
・勝手に冥福を祈るなw
・ウサギあいつほんま
・まあ動物園内だから……それでも脳破壊されてる奴多いケド
「ウサギ先輩は
・ほら証拠にオオカミがガチアドバイスしてる!
・嘘吐きトンチキなのに良識……妙だな
・いや他のも大概……まあウサギよかマシかぁ
・ウサギちょっまっなんでぇっ!?
「……こんばんは、ウサギ先輩。今日は誰の脳を焼いたんですか?」
・本人は草
・ウサギ、オオカミの配信よく見てるよねぇ
・↑まあウサギ被害から逃れ続ける数少ない同箱だし……
・肉食獣が獲物を逃すはずがないだろ! 良い加減にしろ!
・ウサギ理不尽ダー!
「いや理不尽では無いと……うーん、まあ理不尽かもです……か?」
・はいダウト
・100%ウサギの過失、良いぞもっとやれ
・↑正体表したな
・オオカミが庇おうとして即バレしてんのジワるw
わあ早い、今までで一番早いんじゃないですかね。
彼女も悪気はないと思うんですけれど……ええ、本当ですよ、本当に。
「さて百r……ん"ん"っ、ウサギ先輩の話もいいですが、そろそろ別の話題に切り替えましょうか」
・ウサギねぇ今百合って言おうとした! ねぇ今百合ってー!
・事実陳列罪だろ
・罪じゃねーか!!
・まぁこの場合は正当防衛が妥当ですかね……
・なら無罪!
「おやおや、今日も狩人の皆様に見逃されてしまいました。こんなに悪いオオカミだというのに」
・いつでも嘯くオオカミは狙いが定まらんのです……
・悪いって言うほど露悪的でないというか、他のが悪い
・これはガチ
私、これでも当初は色物枠目指していたのですけれど。
嘘吐きが色物でないわけないですし。
「ふふふ。私がここまで生き残って来られたのは、ウサギ先輩や他の皆様のお陰でもありますね」
そう、あれは……配信初日のあの日から。
いえもっと前でしょうか。あの台風の様な、もしくはその目のような……あの、社長との面接の時から?
「懐かしいですねぇ。ここらで、あの時の、同期たちの初配信でも見てみるとしましょうか。アーカイブ残ってますし」
・ウサギエッ
・アオトリや、やめましょうよぉっ!?
・クロネコん、別にいいと思う
・同期わらわらで草なんよ
・1匹同期じゃないの混ざってますけれども……
・アレは全部と同期みたいなもんだから
・ウサギさんカワイソス、自業自得だけど
・あれは儂らには救えぬものじゃから
カチリ、とマウスをクリックする音が響きます。
心なしか音が大きく聞こえますね、緊張しているのでしょうか。
「いえ、してるのでしょうね。しないはずがありません」
数週間前までは、ただの女子高生だった私。
それが今では、デビューを控えた新人Vtuberなのですからね。
ふらふらと街を散策していた私を、猛獣の様な大柄の女性(社長)が見つけ直接スカウトを言い渡されたあの日。
そう、あの日から私は
「とても、胃が痛いです」
ええはい、こんな調子ではありますが全然プレッシャーを感じておりますよ。
私と、もう2人の新人は3期目のメンバーとなるので当然、1期目、2期目の先輩がいらっしゃる訳なのですが……。
それはそれはもう、キャラが濃い。
その例に倣ってなのか、同期の方々も中々奔放と言いますか、これ以上ないくらいの個性に溢れた方たちでして。
……ツーとスマホが震える音がする、ミュートにしてるはずですけどなんか聞こえるくらいこの部屋静かになったんでしょうか。
アオトリ『おなかいたいぐるぐるする吐きそう無理ぃ! 誰か助けてぇ〜!?』
クロネコ『ん、焼肉おいしいよ。食べる?』
アオトリ『うん食べられる訳ないよねありがとう!!!』
オオカミ『何してらっしゃるんですかお二方』
この調子なんですよね。ちなみにアオトリという方は今絶賛初配信中の同期のチャット名である、何故配信中に未公開の同期に助けを求めるんですか。
クロネコさんはなんで次の配信なのに焼肉食べてるんです、胃が鉄で出来てたりしてらっしゃるので?
……このチャットを使う時はそれぞれの特徴になぞらえたニックネームを使うのがここの会社から言いつけられたルールである。
仕事用と言うのもあるし、この会社が『動物園』という相性で親しまれているのもそれに拍車をかけていそうです。
アオトリ『うえっウサギさん来たぁ!?』
クロネコ『おー、先輩』
オオカミ『見ていらっしゃるものなんですね』
そう言われて同期の配信画面を覗くと。
・ウサギやほー後輩ちゃーん
『えっ……ええええっ!? う、ウサギ先輩ぃ!?』
おそらく本物のウサギ先輩がアオトリさんの配信にお邪魔してきていた。
私たち3期と先輩ライバーたちの時間はずらすと言っていたけれど、そういう経緯もあって彼女が見にきている、のだろうか?
さらに
・イッヌウサギがいると聞いて
・アカリスわぉ、飼い犬も一緒について来たね?
・アオリス賑やかになって来たぞう!
・2期もみーんなよう見とる
・ウサギに釣られて犬が来て、それに呼応してリスリスも来た
・ウサギハーレムかな?
・ウサギ違うからね!?
ウサギハーレム、というのは。
本人は否定していますが、ウサギ先輩と呼ばれる方にはなんと言いますか……モテるんですよね、同期とかコラボした相手とかに。
一々仕草が可愛い、癒される、いい匂いがする、手料理美味しい等々、先輩のその手の話題は尽きることを知りません。
そうやって言われ続けた極致が 通知?
「いきなり通話が……アオトリさん?」
何やってらっしゃるので?
あの、私たちまだデビューといいますか、初配信していませんけれど。
『クロネコちゃんオオカミちゃん助けてぇ!! 今私ピンチ、先輩たちに食べられる!』
『別に先輩たちは食べないと思う』
「……」
『そうだね先輩たちは食べないね! でも先輩たちのオーラに耐えられない私がキュってなる! 心臓弾ける!』
『……オオカミ、なんで喋らないの?』
「いえ、その。私とクロネコさんまだ喋ってはまずいのでは、と。配信まだですし」
『確かに』
『…………あっ』
限界までパニックになったアオトリさんによってもたらされた同期2人の声先行公開は……彼女の初配信を、同期2人の話題で塗りつぶすのには十分でした。
・まさかの先行公開!?
・2人とも声かわいい
・無機質なクロネコちゃんと冷静なオオカミちゃんね……メモメモ
『あ、あわわわぁっ!?』
「えっと……ご冥福をお祈りします」
『南無』
『勝手に召されさせないでぇ!?』
とまあ、こういうことでして。
あの社長がオッケーを出す人物というのは、良い悪いに関わらずこう……キャラが強いんですよねぇ。
私、こんな風にはなれませんけど?