仮面ライダーゼロワン ― Avengers: Age of Ultron ―   作:吉野家

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性懲りも無く思いついたことを書いちゃった。


第1話「衛星のない空」

 

 高く澄み渡る青空の下、飛電インテリジェンス本社は今日も静かに街を見下ろしていた。

 

 人類とヒューマギア。

 

 かつて激しく衝突した両者の関係は、未だ完全にわだかまりが消えたわけではない。

 

 それでも、世界は確実に前へ進んでいた。

 

 飛電或人が信じ続けた未来へ、一歩ずつ。

 

 飛電インテリジェンス社長室。

 

 大きな窓の前に立った或人は、朝日に照らされた街並みを眺めながら小さく息を吐く。

 

「今日もいい天気だなぁ。」

 

 その声に応えるように、自動ドアが静かに開いた。

 

「或人社長。」

 

 銀色の髪を揺らしながらイズが入室する。

 

 タブレットには今日の予定が表示されていた。

 

「おはよう、イズ。」

 

「おはようございます、或人社長。」

 

「本日の予定をご報告します。」

 

「9時30分より役員会議。」

 

「11時よりアメリカ企業とのオンライン技術提携会議。」

 

「13時よりゼア量子同期実験。」

 

「15時より記者会見。」

 

「18時より海外企業との会食です。」

 

「……相変わらず忙しいなぁ。」

 

 或人は苦笑しながらネクタイを整えた。

 

 社長になってから生活は一変した。

 

 ヒューマギア事業の再建。

 

 法整備への協力。

 

 海外企業との共同開発。

 

 日本だけではなく、世界中を相手にする会社へと飛電インテリジェンスは変わり始めている。

 

「11時の会議は全編英語で進行します。」

 

 イズの言葉に、或人は自信ありげに笑う。

 

「任せて。」

 

「もう昔の俺じゃないから。」

 

「1年以上勉強した成果を見せるよ。」

 

「現在の或人社長の英語能力はビジネス会話に支障のないレベルまで向上しています。」

 

「発音精度は89.6%。」

 

「海外企業との交渉実績も問題ありません。」

 

「そこまで言われると照れるな。」

 

「ですが。」

 

「“Technology”と”Artificial Intelligence”の発音には改善の余地があります。」

 

「まだダメかぁ!」

 

 頭を抱える或人を見て、イズはほんの少しだけ口元を緩めた。

 

 以前なら決して見せなかった自然な笑顔。

 

 或人はその変化を見るたびに嬉しくなる。

 

 AIにも心は宿る。

 

 その答えは、今こうして目の前にいる。

 

「でもさ。」

 

 或人は椅子へ腰掛けた。

 

「英語なんて学生の頃は全然やる気なかったのにな。」

 

「社長になると必要になるもんだね。」

 

「世界中の人を笑顔にしたいって言った以上、日本語だけじゃ足りないし。」

 

「はい。」

 

 イズは静かに頷いた。

 

「或人社長らしい理由です。」

 

「ありがとう。」

 

 或人が笑った、その時だった。

 

 机の端末へ一件の通知が届く。

 

『地下研究区画』

 

『量子同期実験準備完了』

 

「時間か。」

 

 或人は立ち上がる。

 

「行こう、イズ。」

 

「はい。」

 

 二人は並んで社長室を後にした。

 

 地下へ向かうエレベーターの中。

 

 静かな機械音だけが流れる。

 

「イズ。」

 

「はい。」

 

「今日の実験ってそんなに重要なんだっけ?」

 

「はい。」

 

 イズはタブレットを操作する。

 

「本日は衛星ゼア本体と、私のセントラルメモリー内に保存されたゼア、そしてゼロツープログライズキー内の演算領域を量子レベルで同期させる初の試みです。」

 

 或人は小さく頷く。

 

 ゼロツープログライズキー。

 

 それは衛星ゼアを失ったあの日、イズのセントラルメモリーを基に再構築された、新たなゼアそのものだった。

 

 もし本体との同期効率が向上すれば、ヒューマギア技術はさらに飛躍する。

 

 或人自身も楽しみにしていた実験だった。

 

 エレベーターの扉が開く。

 

 広大な地下研究区画。

 

 巨大な円形実験装置の中央には、ゼロツープログライズキーとゼロツードライバーが静かに安置されている。

 

 研究主任が深々と頭を下げた。

 

「或人社長、お待ちしておりました。」

 

「準備は万全です。」

 

「ありがとう。」

 

 或人は実験装置へ歩み寄る。

 

 そして静かにゼロツープログライズキーへ視線を向けた。

 

「今日もよろしくな、ゼア。」

 

 その一言に呼応するように、キーが淡く黄色く発光した。

 

 イズは装置中央へ立ち、ゆっくりと両手を端末へ重ねる。

 

「量子同期システム起動。」

 

 低い駆動音が研究室へ響く。

 

 巨大モニターに数値が表示される。

 

 同期率。

 

 12%。

 

 28%。

 

 41%。

 

 順調に上昇する数値を見て研究員たちの表情も明るくなる。

 

「過去最高ペースです!」

 

「ゼアとの通信も極めて安定しています!」

 

 或人も安堵したように頷いた。

 

「よし、このまま――」

 

 その瞬間だった。

 

 モニターへ見慣れない文字列が表示される。

 

UNKNOWN SIGNAL

 

 研究室の空気が一変した。

 

「……?」

 

 主任研究員が眉をひそめる。

 

「こんなログは……。」

 

 イズの瞳が黄金色へ変化する。

 

「未知の信号を検知。」

 

「発信源……不明。」

 

「衛星ゼアではありません。」

 

 同期率が急激に乱れ始める。

 

 73%。

 

 65%。

 

 81%。

 

 54%。

 

 あり得ない変動。

 

「解析急げ!」

 

 研究員たちが慌ただしく端末を操作する。

 

 その最中。

 

 イズが静かに或人を見る。

 

「或人社長。」

 

「私たちは以前にも近しい現象を経験しています。」

 

 或人の表情が僅かに引き締まる。

 

 世界そのものが歪み、常識が覆された、あの日の出来事。

 

「ああ……。」

 

「似てる。」

 

「でも。」

 

 イズは続ける。

 

「当時よりも空間干渉エネルギーは大幅に増加しています。」

 

「予測不能です。」

 

 その直後だった。

 

 研究室全体が激しく揺れた。

 

 非常灯が赤く点滅する。

 

 警報が鳴り響く。

 

WARNING

 

DIMENSION ERROR

 

 実験装置の上空。

 

 何もなかった空間がゆっくりと裂け始める。

 

 黒でも白でもない。

 

 光を飲み込むような巨大な裂け目。

 

 或人は思わず一歩前へ出る。

 

「……何だ、あれ。」

 

 誰も答えられないまま、その裂け目は静かに研究室全体を覆い始めた。

次の瞬間だった。

 

 裂け目の中心から、耳をつんざくような高周波音が研究室中へ響き渡る。

 

 ガラス製の実験器具が細かく震え、照明が一斉に明滅した。

 

 研究員たちが悲鳴を上げる。

 

「空間歪曲率が急上昇!」

 

「制御できません!」

 

「同期装置を停止します!」

 

「ダメです! 命令を受け付けません!」

 

 或人は咄嗟にイズのもとへ駆け寄った。

 

「イズ!」

 

「はい。」

 

 返事は冷静だった。

 

 しかし、その瞳には通常とは異なる情報が次々と映し出されている。

 

「未知のエネルギーがゼアとの量子通信へ直接干渉しています。」

 

「通信経路が……書き換えられています。」

 

「書き換え?」

 

「はい。」

 

「通常の電波障害ではありません。」

 

「空間そのものへ新たな接続経路が形成されています。」

 

 或人は裂け目を見上げた。

 

 それは空間が裂けているというより、世界そのものへ穴が開いているように見えた。

 

 底は見えない。

 

 色も存在しない。

 

 ただ、見ているだけで吸い込まれそうになる奇妙な感覚だけが全身を包み込む。

 

「全員退避してください!」

 

 主任研究員が叫ぶ。

 

「或人社長も!」

 

 だが、その声をかき消すように裂け目が一際大きく脈動した。

 

 ――ドォンッ!!

 

 衝撃波が研究室全体を襲う。

 

 研究員たちは床へ倒れ込み、机や機材が次々と吹き飛ばされていく。

 

 或人も衝撃で数歩よろめいたが、すぐにイズの前へ立った。

 

「イズ、大丈夫か!」

 

「私は問題ありません。」

 

「ですが、このままでは研究区画全体が空間崩壊へ巻き込まれる可能性があります。」

 

「避難を!」

 

 その言葉が終わるより早かった。

 

 ゼロツープログライズキーが突然、眩い黄金色の光を放つ。

 

「……!」

 

 イズが目を見開く。

 

「ゼアが反応しています。」

 

「え?」

 

「自律防衛プログラム起動。」

 

 キーの周囲へ幾何学模様の光が幾重にも展開される。

 

 まるで裂け目から何かを守ろうとするように。

 

 しかし。

 

 裂け目の力は、それすら飲み込むように膨れ上がった。

 

「同期率異常上昇!」

 

「100%を突破します!」

 

「そんな馬鹿な!」

 

 主任研究員の叫びに、室内が凍りつく。

 

 同期率は100%で完了する。

 

 それ以上という数値は存在しない。

 

 にもかかわらず、モニターの数値はなおも増え続けていた。

 

 112%。

 

 138%。

 

 175%。

 

 そして表示そのものが乱れ、意味を失う。

 

 イズの瞳が黄金色から白銀へ変化する。

 

「或人社長。」

 

「ゼアより緊急メッセージ。」

 

「内容を表示します。」

 

 イズの周囲へホログラムが展開される。

 

 そこへ浮かび上がったのは、たった一文。

 

UNKNOWN WORLD DETECTED

 

「未知の世界……?」

 

 或人が呟く。

 

 その直後だった。

 

 裂け目から伸びた光が、或人とイズを包み込む。

 

「或人社長!」

 

 イズが咄嗟に或人の腕を掴む。

 

 或人も迷わずその手を握り返した。

 

「離すな!」

 

「はい!」

 

 周囲の景色が歪む。

 

 研究室。

 

 研究員たち。

 

 機材。

 

 すべてが渦を巻くように遠ざかっていく。

 

 或人は必死に踏みとどまろうとする。

 

 だが、足元そのものが消え始めていた。

 

「くっ……!」

 

 重力が消える。

 

 身体が宙へ浮く。

 

 まるで宇宙空間へ放り出されたような浮遊感。

 

 それでも或人はイズの手だけは決して離さなかった。

 

「或人社長。」

 

 イズの声だけが、はっきりと聞こえる。

 

「ゼアとの通信が途絶します。」

 

「現在、最終バックアップを実行。」

 

「ゼロツープログライズキー内演算領域へデータ退避完了。」

 

 或人は小さく笑う。

 

「さすがイズ。」

 

「抜かりないな。」

 

「或人社長の秘書ですから。」

 

 その一言に、或人も自然と笑みが浮かんだ。

 

 どんな状況でも、イズはイズだ。

 

 それだけで少し安心できる。

 

 しかし次の瞬間。

 

 世界から音が消えた。

 

 光も。

 

 重力も。

 

 時間さえも。

 

 すべてが白い奔流へ溶け込んでいく。

 

 意識が遠のく中、或人は最後に一つだけ思う。

 

 ――また世界を越えるのか。

 

 前にも似たようなことはあった。

 

 あの時も最後は帰ることができた。

 

 だから今回も、きっと帰れる。

 

 自分一人ではない。

 

 隣にはイズがいる。

 

 ゼアもいる。

 

 なら大丈夫だ。

 

 どんな世界へ辿り着こうと。

 

 困っている人がいるなら助ける。

 

 笑えない誰かがいるなら笑わせる。

 

 それが飛電或人。

 

 仮面ライダーゼロワンだから。

 

 そして二人の姿は、光の彼方へと飲み込まれた。

 

 誰も知らない世界へ。

 

 まだ誰とも出会っていない、新たな未来へ――。

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