仮面ライダーゼロワン ― Avengers: Age of Ultron ―   作:吉野家

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第3話「鋼鉄の英雄」

 

 ゼロツーの拳が銀色の装甲へ突き刺さる。

 

 鈍い衝撃音と共にウルトロン・ドローンの身体が宙へ弾き飛ばされ、駐車していた車へ激突した。

 

 車体が大きくひしゃげ、火花が散る。

 

 しかし、ドローンはすぐに立ち上がった。

 

 赤い双眼が怪しく光る。

 

「Target confirmed…」

 

「Destroy.」

 

 無機質な電子音。

 

 その言葉に感情は一切ない。

 

 ただ命令だけを遂行する兵器。

 

 ゼロツーは静かに構え直した。

 

『或人社長。』

 

 イズの声が脳内通信に響く。

 

『敵機の装甲を解析中。』

 

『未知の金属を確認。』

 

『飛電インテリジェンス保有データベースに一致する素材は存在しません。』

 

「やっぱり完全に別世界か。」

 

『はい。』

 

『現状では情報不足です。』

 

『なお、ゼアとの通信不能により演算能力は本来性能を発揮できません。』

 

 或人は苦笑する。

 

「分かってる。」

 

「なんか身体が重い。」

 

 本来なら。

 

 ゼロツーは敵の未来を読み切り、2兆通りの未来から最適解を導き出す。

 

 しかし今は違う。

 

 演算の大半を担っていた衛星ゼア本体との接続は完全に途絶えている。

 

 イズの内部とゼロツープログライズキーに保存されたゼアだけでは、能力を完全には引き出せない。

 

 それでも。

 

 十分だった。

 

 市民を守るには。

 

 ドローンが再び突撃する。

 

 右腕が変形し、レーザー砲が展開された。

 

『高エネルギー反応。』

 

『照射まで0.7秒。』

 

「十分。」

 

 ゼロツーの姿が消えた。

 

 いや。

 

 一般人には消えたようにしか見えなかった。

 

 次の瞬間にはドローンの真横へ移動している。

 

 回し蹴り。

 

 鋼鉄同士が激突する。

 

 ドローンは横転しながらビルの壁へ叩きつけられた。

 

「すげぇ……。」

 

 避難していた男性が思わず呟く。

 

「あの黄色い奴……。」

 

「アイアンマンじゃないぞ。」

 

 ゼロツーは振り返ることなく叫ぶ。

 

「皆さん!」

 

「まだ危ないです!」

 

「地下鉄の入り口まで避難してください!」

 

 その声で人々は我に返る。

 

 逃げ遅れていた親子も走り始めた。

 

 或人は安堵する。

 

「よし。」

 

 その瞬間。

 

『或人社長。』

 

「ん?」

 

『敵増援。』

 

 空を見上げる。

 

 ビルの谷間からさらに6体。

 

 ウルトロン・ドローンが飛来してくる。

 

「多いな……。」

 

 ゼロツーは腰へ手を添えた。

 

 本来なら。

 

 ここでプログライズホッパーブレードを生成することもできる。

 

 だが。

 

『推奨。』

 

『現時点では武器生成は行いません。』

 

『演算リソースを戦闘へ優先します。』

 

「了解。」

 

 拳一つで十分。

 

 ゼロツーは地面を蹴った。

 

 黄色の残光だけが残る。

 

 高速移動。

 

 ドローンが反応した時には既に懐へ潜り込まれていた。

 

 左。

 

 右。

 

 肘打ち。

 

 蹴り。

 

 わずか数秒。

 

 3体のドローンが地面へ転がる。

 

 しかし。

 

 その時だった。

 

 上空から赤い光が降り注ぐ。

 

 リパルサー光線。

 

 残る3体のドローンを正確に撃ち抜いた。

 

 爆発。

 

 煙が立ち込める。

 

 ゼロツーは静かに空を見上げた。

 

 赤と金。

 

 見覚えのあるシルエット。

 

 いや。

 

 見覚えがあるはずがない。

 

 だが映像では見た。

 

 ニュースで。

 

 先ほど大型ビジョンに映っていた人物。

 

 アイアンマン。

 

 ゆっくりと着地した赤い装甲の男はゼロツーを見る。

 

「初めて見る顔だ。」

 

 ヘルメット越しの声。

 

 軽い口調。

 

 どこか余裕を感じさせる話し方。

 

 そして。

 

「そのスーツ。」

 

「どこのメーカー製だ?」

 

 ゼロツーは少し首を傾げた。

 

「メーカー……?」

 

「飛電インテリジェンスだけど。」

 

 一瞬の沈黙。

 

 アイアンマンのヘルメットの奥で、トニー・スタークは思わず笑った。

 

「会社名まで答えるとは。」

 

「面白い奴だ。」

 

 だが。

 

 その直後。

 

「Tony!」

 

 後方からバイクが急停止する。

 

 飛び降りたのは青いスーツに身を包み、丸い盾を背負った男。

 

 キャプテン・アメリカ。

 

 その後ろにはブラック・ウィドウ。

 

 さらに少し遅れてブルース・バナーも駆け付ける。

 

 キャプテンはゼロツーを真っ直ぐ見据えた。

 

「その装備。」

 

「所属を聞こう。」

 

 街には緊張が走る。

 

 ゼロツー。

 

 アイアンマン。

 

 キャプテン・アメリカ。

 

 誰も動かない。

 

 互いに相手の正体を知らないまま。

 

 ただ静かに、次の一手を探っていた。

静寂が街を包む。

 

 爆発音も、悲鳴も、一瞬だけ遠くなったように感じられた。

 

 ゼロツーとアイアンマン。

 

 そしてキャプテン・アメリカ。

 

 互いに視線を外さない。

 

 或人は一歩も動かなかった。

 

 敵意はない。

 

 だが、この世界では自分たちは素性の知れない存在だ。

 

 不用意な行動は状況を悪化させるだけだと理解していた。

 

 キャプテン・アメリカ――スティーブ・ロジャースは盾を少しだけ下げる。

 

「質問を変えよう。」

 

「君は誰だ。」

 

 ゼロツーは少しだけ視線をイズへ向ける。

 

『或人社長。』

 

『敵意は確認できません。』

 

『警戒状態ですが、交渉可能と判断します。』

 

 或人はゆっくり頷いた。

 

 そして変身を解除する。

 

 黄色い粒子が舞い、黒いスーツ姿の青年へ戻った。

 

 その様子にトニーが目を丸くする。

 

「……変身解除?」

 

 スティーブも僅かに目を細めた。

 

 目の前にいるのは20代半ばほどの青年。

 

 武器を構えることもなく、静かに頭を下げる。

 

「初めまして。」

 

「飛電或人です。」

 

「飛電インテリジェンスって会社の社長をやってます。」

 

 英語は流暢だった。

 

 僅かな訛りこそあるものの、十分に聞き取れる。

 

 トニーが思わずブルースを見る。

 

「社長だってさ。」

 

「若いな。」

 

 ブルースも驚きを隠せない。

 

「日本企業か……。」

 

 その時だった。

 

「ママー!」

 

 幼い少女の泣き声。

 

 全員が反射的に振り向く。

 

 先ほど破壊されたバス。

 

 その陰へ取り残された少女が泣き叫んでいる。

 

 さらに。

 

 上空。

 

 ドローンが1体。

 

 少女へ狙いを定めて急降下してきた。

 

「危ない!」

 

 ナターシャが走り出す。

 

 しかし距離が遠い。

 

 間に合わない。

 

 トニーも飛び上がろうとする。

 

 その瞬間だった。

 

 或人は何も言わず駆け出した。

 

 ゼロツープログライズキーを握る。

 

Zero-Two Jump!

 

「変身!」

 

Zero-Two Driver!

 

Zero-Two Rise!

 

Road to Glory has to Lead to Growin’ path to change one to two!

 

仮面ライダーゼロツー!

 

It’s never over!

 

 黄色の粒子が爆発する。

 

 誰よりも早く。

 

 誰よりも迷いなく。

 

 ゼロツーは少女の前へ滑り込んだ。

 

 レーザーが放たれる。

 

 左腕で受け止める。

 

 眩い火花。

 

 しかし装甲には傷一つ付かない。

 

 そのまま拳を握る。

 

 ドゴォッ!!

 

 ドローンは上空へ吹き飛ばされ、遥か彼方で爆散した。

 

 ゼロツーは何事もなかったように少女へ膝をつく。

 

「もう大丈夫。」

 

「立てる?」

 

 少女は震えながら頷く。

 

 ゼロツーは優しく抱き上げると、走ってきた母親へ少女を預けた。

 

「ありがとうございます!」

 

 涙ながらに礼を言う母親へ、ゼロツーは親指を立てる。

 

「困った時は助け合い!」

 

「それが一番だから!」

 

 そう言って笑う。

 

 その笑顔を見て。

 

 スティーブはゆっくりと盾を背中へ戻した。

 

「Tony。」

 

「敵なら。」

 

「まず市民を助けたりはしない。」

 

 トニーも苦笑する。

 

「同感。」

 

 さっきまで警戒していた視線が少しだけ柔らかくなる。

 

 その時。

 

 ブルースの持つ通信機が鳴った。

 

「こちらバナー。」

 

 通信の相手はナターシャだった。

 

『Tony、Steve。』

 

『新たなウルトロン・ドローンの群れよ。』

 

『マンハッタン北部へ向かってる。』

 

 スティーブが周囲を見回す。

 

「被害が広がる前に動こう。」

 

 トニーは肩をすくめた。

 

「今日は休ませてくれないらしい。」

 

 その時だった。

 

 ゼロツーが静かに一歩前へ出る。

 

「俺も行きます。」

 

 スティーブはゼロツーを見る。

 

 初対面。

 

 正体不明。

 

 それでも先ほど、自分より先に市民を守った青年。

 

 スティーブは穏やかな口調で問いかける。

 

「……君。」

 

「どうしてそこまでして戦う?」

 

「君には関係のない出来事のはずだ。」

 

 ゼロツーは街へ目を向ける。

 

 煙が上がる道路。

 

 泣きながら親を探す子ども。

 

 必死に瓦礫を退かそうとする人々。

 

 その光景を見つめ、小さく笑った。

 

「関係ありますよ。」

 

「困ってる人がいる。」

 

「助けを求めてる人がいる。」

 

「それだけで十分です。」

 

「世界が違っても、人を助ける理由は変わりません。」

 

 その言葉にスティーブは静かに頷いた。

 

 短い会話だった。

 

 だが、それだけで十分だった。

 

 目の前の青年が何を信じているのか。

 

 それだけは伝わった。

 

 トニーがヘルメットを開き、或人を見る。

 

「君、名前は?」

 

 黄色の装甲がゆっくりと解除される。

 

 黄色い粒子が舞い、黒いスーツ姿の青年へ戻った。

 

 或人は少し照れくさそうに笑う。

 

「飛電或人です。」

 

「飛電インテリジェンスの社長やってます。」

 

「社長?」

 

 トニーが思わず吹き出す。

 

「若い社長だな。」

 

「まあ、いろいろありまして。」

 

 或人は頭を掻く。

 

 その様子を見ていたスティーブが静かに尋ねた。

 

「さっき君は。」

 

「自分のことを何と呼んだ?」

 

 或人は迷いなく答える。

 

「仮面ライダーです。」

 

 スティーブは少し首を傾げた。

 

「……仮面ライダー?」

 

 その言葉を聞いたトニーも興味深そうに或人を見る。

 

 “仮面ライダー”

 

 その聞き慣れない名が、アベンジャーズと飛電或人を繋ぐ最初の言葉となった。

 

 そしてその頃――

 

 街を見下ろす高層ビルの屋上。

 

 赤い外套を羽織った2人の男女が、静かにその一部始終を見つめていた。

 

「速い。」

 

 青年――ピエトロ・マキシモフが目を細める。

 

「あいつ……俺より速いのか?」

 

 隣でワンダは何も答えない。

 

 ただ、黄色の戦士だった青年をじっと見つめ続けていた。

 

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