韋駄天の少女が歩む野球道 作:睦冬
新越谷高校に入学してから初めての実戦となる大宮第一との練習試合の前日。
(クイックはそんなに早くないから走りやすそう)
金曜日の昼休み、私は昼食を取ってから、スマホで大宮第一の投手の映像を見ていた。
「それって明日の試合の投手?」
近くから同じように映像を見るのは飲み物を手にしている渡邊さん。
「うん。芳乃先輩に頼んで送ってもらった」
昨日の練習が終わってから、芳乃先輩に大宮第一の投手の情報を貰えませんかとダメ元で聞いてみたら。
『いいよ! 近本さんは走りやすいタイプだと思うから!』
芳乃先輩からは提供してもらえた。確認するまでは走りやすいって弱点があるのかなと思ったけど、牽制は上手いけど、クイックはそんなにうまくない。
「左打者に結構打たれてるよね。この投手」
「左打者には投げにくいってタイプだよ」
右打者よりも左打者に安打を打たれてる。弱点がある投手の攻略はそんなに難しくない。
「美南の時から対策はしてた?」
「してたよ。私の場合は走ることが求められたし」
美南ガールズにいた時から相手チームの投手の分析は念入りにやっていた。投手を含めた守備の動きを目で覚え、頭の中でイメージトレーニング。
(近本さんは小柄だけど強豪でベンチ入りするのはそんなに簡単じゃない。敵になったら嫌なタイプ)
渡邊さんってヨミ先輩と同じ中学出身だよね? 先輩を追いかけて同じ高校に来たのかな。
野球部の練習を終えてから、室内練習場を借りての自主トレ。
「あの子、野球部だって」
「珍しい」
「小柄で通用するの?」
練習場の近くには学生寮があり、寮生活を送っている先輩たちは珍しい物を見るような眼を向ける。
(夏場は体重が落ちてきて大変だけど、今の時期は動きやすい)
夏場は練習と試合での疲労で体重が落ちてくる。春先は動きやすいから、調子は悪くない。
「近本だけが注目されてる……。納得いかない」
「野村さんも即戦力に見られてるじゃん」
私の隣では野村さんがフォームを確認するように素振り。練習では基礎トレがメインで、ボールを使った練習はあまりないので、自主トレで不満を発散中。
「明日のスタメンもさぁ。何で、私が6番なのよ」
「めっちゃ愚痴る」
「他のメンバーよりも評価が上ってこと?」
明日のスタメンは上位が全員左。相手投手の弱点を攻めた形でのスタメンなら理解も出来る。
「私は9番だよ」
「打撃が苦手なタイプ……ではないよね?」
「苦手ではないよ」
私の打順は9番。上位が先輩たちだから、後ろに繋いでねという意図かな。
| 1 | 三 | 川崎 稜 | 右/左 | 2年 |
| 2 | 一 | 川口 息吹 | 右/両 | 2年 |
| 3 | 右 | 村松 京子 | 左/左 | 1年 |
| 4 | 捕 | 渡邊 詩織 | 右/左 | 1年 |
| 5 | 二 | 長谷川美咲 | 右/左 | 1年 |
| 6 | 遊 | 野村 瑞穂 | 右/右 | 1年 |
| 7 | 左 | 東条 蘭々 | 右/右 | 1年 |
| 8 | 投 | 斎藤 小町 | 右/右 | 1年 |
| 9 | 中 | 近本 美奈 | 左/左 | 1年 |
新越谷に入ってから感じているのは、中学とは別の景色。楽しみながら勝利を目指すのは聞いていたけど、中に入ってから練習風景を見ると、和気藹々としており、全国を目指していることからもチームの士気はかなり高い。
「明日はホームランを打ってアピールしてやる!」
野村さんは流山でも5ツールプレイヤーで、練習試合で対戦した時にフェンスに直言するホームランを打ったのが印象に残ってる。
「私はホームランよりも自分の打撃をしよ」
「狙わないの?」
「中学でもホームラン打ったことないし。狙おうとするとスイングが崩れちゃいそう」
大柄なタイプの選手がホームランを打っているのを見ると、ホームランはいいなぁと憧れるけど、中学でスイングを崩した経験もあるので、憧れは持ちながらも、自分のできることをしっかりやる。
「野村さんって何で寮生活なの?」
「……書き間違え」
は?
「提出する際に書き間違えたんだよ」
「それで入寮できるの?」
「出来た」
マジで? 私もやればよかった……。親が絶対に認めないだろうけど。
「今からでも有効かな……?」
「無理だろ」
自主練後に親に寮で生活がしたいと言ったら駄目といわれました。