オカルトファンタジー 作:匿名の筆者
ガガガガガガガガガガガガ……
円柱に溝のついたようなドリル。
絵やらアイコンやらでよく見るような円錐型のドリルじゃなくて、本当に円筒型のドリルだ。
これが俺の体らしい。
振動を感じながら、建設予定地というものを自ら建ててみる。
険しい山がある場所に投げ飛ばされ、地面はクレーター。
そこに穴を開けよう、ということでドリルの体にされたんだろうか?
ともかく建設予定地を自分で掘らざるを得ない。
ドリルの体にするということは、そういうことなんだろう。
というか埋まりすぎて脱出できないし、無理だと言ってもやらせるつもりなんだろうなあ……
「そうだよ、よく分かってるね。」
「君の知識曰く、この建設予定地に建つものをダンジョンと呼ぶのかな?定義は知らないけど、この穴を中心に侵入者を迎え撃つものだと考えていい。」
「積極的に切削してもいいけど、あんまり深くやってもらっては困る。」
「ほどほど……目線が埋まるくらいまで掘ってね。」
「仕事の内容なんだけど、具体的には侵入者の魂を僕に100%差し出すこと。見返りとして君にはソウルポイントをあげる。」
「魂を捕まえて、僕にくれたらいいのさ。積極的に外に出て、収奪するようなマネはしなくていい。」
「長い時間をかけて、少しづつでも確実に。」
「持続的に、より多く改善を求めよ。というところかな?魂を捕まえるのに精を出すのはいいけど、規模が拡大してきたら指針は定期的に再確認してあげる。」
「じゃ、頑張ってね、9663号」
どこからともなく声がした。あの空間で聞いたものと響き方が同じで、そう打ち切ると声は聞こえなくなった。
ドリルが掘削する音がずいぶんと大きいように感じるけれど、この体でそういえばどこに耳やら目やらがあるんだろうか?
ハッキリとした視覚が、横にものすごい速度で回転しているとはいえある。
聴覚だって、妄想じゃなかったら確実にある。
視界はクレーターの縁と同じくらいの高さで、地上が視点の下に……いや、横にもある?
ドリルの側面全てに視界があるのかコレ!どうりで変だと思った!
グルグルと回転する視界の端。全周囲を見渡せるというのも変だったが、表面に感じる圧力から土に半分ほど埋まってるはずだ。それなのにまだまだ上下が広すぎる。
少なくとも、埋まるまでこうしてなきゃいけないんだろう。
フラフープを回すみたいに捻ると、自分の視点がどんどん下がっていく。
微々たるものだけど、確かに掘れている。土が体の溝を通って上に排出されていくし、これをとりあえず繰り返してみよう。
■ 〜4時間後〜
うーん、それにしてもやけに硬いな、何だこの地盤。
花崗岩か?クッソー、この体、何で出来てるか知らんが、回転が遅いのか?もっと回さないと!
でも、もう掘れん。
半分埋まって、そこから進まない。むしろグルグルとこっちが逆に回ってしまっている。
どうすべきか考えていると、その時……再びあの声がした。
「ええ?もう岩盤に到達したの?おっかしいなぁ……土が多めの……」
「ああ、硬さが足りずに固定できてないのか」
「ま、多少は浅くてもいいんじゃない?」
「じゃ、起爆!」
起爆って何を?と問いかけるよりも早く、体が内側から爆裂した。
問いかける間もなく、体が内側から爆発したのだ。
ドゴォォォン!!
凄まじい衝撃が全身を貫き、視界が真っ白に染まる。
まるで悲鳴みたいな、金属が引き裂かれる音が一瞬だけ響いた気がした。
次の瞬間、ゴゴゴゴと何かが崩れる音がした。
周りの土が動いてるんだろう。
……痛みはない。
ただ、猛烈な浮遊感と、身体の構成が根本から書き換えられるような、奇妙な違和感だけがあった。
爆発の光がゆっくりと引いていく。
視界の中央に残る光の残響が視界を妨げていたが、それも直る。
ようやく色が俺の視界に戻ってきたとき、俺は自分が変わっていることに気づいた。
地面からの高さが、さっきまでとは全然違う。
視点が低いし、この白い床——というより、タイル張りの床?この整備された地面に、かなり近い。
おそらく身長は160cm前後か? それとももっと低い?
縮尺を確かめるべく、周囲を見回そうとした。
体を動かした瞬間、
ぐるんっ。
自分の視界、その上下が逆さまになった。
思わず手をつこうとするも、前転するようにしてそのまま再び視界が一回転する。
「あれれれれれ!?」
慌てて体を止めようとするが、また回転する。
転がり続け、めちゃくちゃに視界が揺れる。まるで頭がボールみたいに転がっているかのようだ。
「うん? 声が出る!」
やっと自分の声が出せたことに安堵したのも束の間、壁に激突して激痛が走った。
「イッテエ!痛たたたた……」
俺は自分の姿を確認しようと視線を落とした。
タイル張りの白い地面に反射したのは、人間の形をした、透明な体だった。
輪郭は鏡のように滑らかで、光を反射している。
関節部分が微かに違う輝きを帯びていて、ガラスのような高級感と、硬質感がある。
透明人間、とでも言うべきか。
指をゆっくり動かしてみると、タイルの中の体もまた五本の指が連動してちゃんと動いた。
やはりこの体は自分だと確信できた。
しかし、前に進もうと思ったり、視界を動かすたびに体全体が微妙に回転してしまう。
思っただけで行動してしまうのか、なんだか不便だなあ。
「不便?ちゃんと思考と実現が結びつくようにしてやったのに、恩義というものを感じないわけ?」
「烏滸がましいのも別にいいけどさ?」
「こっちは親切心で表面が削れるのが嫌だろうから、肉体の皮膚はダイアモンドにしておいたんだよね。感謝の心というものを少しくらいは持ってくれたら有難いね。」
「ま、気をつけるべきこととして、今の君は割れやすい。転んだだけで表面がヒビ割れるとか、そういうことになる」
「自動で修復するように体を作ってはいるけど、割れるような体の使い方はダメだ。痛覚を君に与える。」
「どうやらその様子だと、説明する前に割れたらしい。」
「ただ、どうしてそんな激突するほど回ったのか気になるだろ?」
「回転していると思って、止めようとした。君は、その時に力のタイミングを間違えてるんだ。」
「だから止めようとしても体の使い方を間違えて、転がり続けるだけだった。」
「ま、そのうち行動を制御することもできるようになるし、今はとにかく練習しておいてもらうとして。」
「その……えっとダンジョン?そうダンジョンだ、ダンジョンってやつ、実はさっきまで君だったドリルの中身だからさ、ちょっと浅くなっちゃったけど、今の君がいるところってだいたい地下800メートルだから。」
「この惑星の掘削技術では届かないし、安心していい。」
「あ、そうそう、この惑星の競争相手は誰一人いないから安心して魂を集めてきてね。それじゃ、バイバイ」