HELLSINGの少佐がミレニアムで教師をしている話   作:海鮮横丁

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被害報告

「少佐!ここに座ってください!」

 

セミナー室に入った途端にユウカから怒号が飛ぶ。

 

「はて、何かしたかな」

 

いそいそと楽しそうにユウカの目の前の椅子に座る。

 

「…最近、ご活躍だそうですね?」

 

「うむ。最近、精力的に動いているね。ゲヘナでの一件もまあ面白かった」

 

「え、何ですかそれ!私は聞いてませんよ」

 

「しまった。この件ではなかったか」

 

額を軽く叩き、からかうように少佐は笑う。

 

バンと机を叩き、威嚇するように歯を鳴らすユウカ。

 

「むしろ何件あるんですか!?」

 

「数えるのかね?」

 

「数えなくていいです!」

 

即答だった。

 

横ではノアが紅茶を片手に微笑んでいる。

 

「ふふっ。少佐ですから」

 

「ノア、そこで納得しないで」

 

ユウカは頭を抱えた。

 

最近、苦情があっただけでも百鬼夜行、トリニティ、ミレニアム内ではC&Cとエンジニア部からも苦情が来ている。

いや、エンジニア部は少佐のアイデアを使って製品を作りたいから、部費の増額の嘆願書だが。

 

「問題を起こすならミレニアムだけにしてくれませんか」

 

「そんな詰まらないことを言うなユウカ君」

 

少佐は実に残念そうな顔をした。

 

「世界は広い。交流は大事だよ」

 

「交流の結果、苦情が増えてるんです!」

 

「苦情だけではあるまい?」

 

「え?」

 

少佐は指を一本立てる。

 

「トリニティはセイア君からだろう。あの件はもう解決したから無視していい」

 

二本目。

 

「百鬼夜行からは警備の全面的な見直しと魑魅一座との交渉窓口の設立だ。これはあちらの問題だ」

 

三本目。

 

「C&Cは私が噛むとネル君が毎回文句を言うだけだ」

 

四本目。

 

「エンジニア部は予算要求。これは私が頼んだことだから、私が出そう」

 

五本目。

 

「ゲヘナの件だが、あちらの姫君が伊達男を気に入ってね。定期的に遊びにくるようにマコト君に頼んだそうだ」

 

「国際問題じゃないですか」

 

げっそりとした顔でユウカは少佐の話を聞く。

 

「ユウカちゃん。お茶いります?」

 

「…ホットミルクで」

 

「私も欲しいね」

 

ノアが一つ頷き、その場から離れる。

 

「で、後は何だね」

 

「ゲーム開発部からは、少佐用にカスタムしたらユズが発狂するから何とかしてくれと来てます」

 

「最近のゲームは私には難しいのだよ」

 

「…あの子たちの作るゲームて大分古いですよ?」

 

「古いから難しいのだ」

 

少佐は真顔だった。

 

ユウカが眉をひそめる。

 

「どういう理屈ですか」

 

「最近のゲームは親切だろう」

 

指を一本立てる。

 

「次に行く場所が表示される」

 

二本目。

 

「何をすれば良いか教えてくれる」

 

三本目。

 

「操作も丁寧に説明してくれる」

 

四本目。

 

「失敗してもやり直せる」

 

「まあ、そうですね」

 

少佐は深く頷いた。

 

「しかし昔のゲームは違う」

 

遠い目になった。

 

「村人の話を聞かなければ進まん」

 

「はい」

 

「壁に体当たりしなければ隠し通路が見つからん」

 

「はい」

 

「意味もなく井戸を調べなければならん」

 

「はい」

 

「開発者の正気を疑う謎解きが出てくる」

 

「はい」

 

「ユズ君はそういうのが好きでね」

 

「なるほど」

 

妙に納得してしまうユウカ。

 

ゲーム開発部ならやりかねない。

 

「ちなみに今回は何をしたんですか」

 

「分からなかったので総当たりした」

 

嫌な予感がした。

 

「具体的には?」

 

「全てのオブジェクトを調べた」

 

「はい」

 

「全てのNPCに三回話しかけた」

 

「はい」

 

「全てのアイテムを全ての場所で使用した」

 

「はい」

 

「結果として想定していなかったフラグが二十七本同時に立った」

 

沈黙。

 

「ユズ君が泣いた」

 

「でしょうね」

 

「アリス君は喜んだ」

 

「でしょうね」

 

「モモイ君は爆笑していた」

 

「でしょうね」

 

「ミドリ君は修正パッチを作っていた」

 

「でしょうね!」

 

ユウカが机を叩く。

 

もはや結果が目に浮かぶ。

 

そこへノアが戻ってくる。

 

湯気の立つカップを三つ載せたトレーを手に。

 

「お待たせしました」

 

ユウカの前にはホットミルク。

 

ノアと少佐の前には紅茶。

 

「ありがとう」

 

少佐は一口飲み、満足そうに息を吐いた。

 

「あ、そうだ。少佐、アビドスにも行きましたか?」

 

「うん?いつ行ったかな。何かあったのかね?」

 

ノアが印刷されたばかりの紙を持ち、読み上げる。

 

「割と遠回しですけど、今度校舎に入ったら叩きのめすと書いてありますね」

 

「何したんですか少佐!!」

 

ユウカが机を叩く。

 

少佐は首を傾げた。

 

「はて」

 

本当に分かっていない顔だった。

 

「心当たりは?」

 

「無いね」

 

「絶対嘘です!」

 

「本当に無い」

 

腕を組み考え込む。

 

数秒。

 

「…ああ、ホシノ君の話か?」

 

珍しく自信がなさそうに首をかしげる。

 

「アビドスの生徒会長じゃないですか。ホントに何したんですか」

 

「確か、砂漠で准尉と歩いていて迷ったんだったか」

 

「…ほお」

 

「ユウカちゃん。顔が怖いですよ」

 

ノアが苦笑する。

 

ユウカは笑顔だった。

 

とても怖い笑顔だった。

 

「続けてください」

 

「うむ」

 

少佐は紅茶を一口飲む。

 

「砂漠で迷った」

 

「はい」

 

「准尉が方角を見失った」

 

「はい」

 

「私も見失った」

 

「はい」

 

「なので高い場所を探した」

 

「はい」

 

「見つからなかった」

 

「はい」

 

「代わりに穴があった」

 

「はい?」

 

ユウカが眉をひそめる。

 

嫌な予感しかしない。

 

「穴?」

 

「大きな穴だ」

 

「それで?」

 

「入った」

 

「何で?」

 

「気になったので」

 

即答だった。

 

ユウカが額を押さえる。

 

ノアは楽しそうに続きを待っている。

 

「そこで探検中のアビドスの子に会ってね。校舎まで案内してもらったんだ」

 

「…その流れで何でホシノさんが怒るんですか?」

 

「補足しますと、どうやら帰り道が塞がっていたそうで。シロコさんと准尉で爆薬を仕掛けて爆破」

 

「それが丁度、アビドスの倉庫だったそうです」

 

沈黙。

 

セミナー室の空気が一段階冷えた。

 

ユウカがゆっくりと顔を上げる。

 

「少佐」

 

「うむ」

 

「今の話を整理します」

 

「どうぞ」

 

「砂漠で遭難しました」

 

「したね」

 

「穴に入りました」

 

「入ったね」

 

「アビドスの子に案内されました」

 

「親切だろう」

 

「倉庫の前で爆発が起きました」

 

「偶然だ」

 

「その倉庫が吹き飛びました」

 

「結果的にはそうだね」

 

ユウカは深呼吸した。

 

一拍。

 

二拍。

 

「……それで?」

 

少佐は紅茶を一口飲む。

 

「何がだね?」

 

「何がだね、じゃありません!!」

 

机を叩く音が響く。

 

ノアが小さく肩を揺らして笑っている。

 

ユウカは構わず続ける。

 

「その倉庫、何が入ってたんですか」

 

「物資だろうね」

 

「誰のですか」

 

「アビドスの」

 

「ですよね!!!!」

 

声が裏返った。

 

ユウカは頭を抱えた。

 

「それ完全に事件ですよね?」

 

「事故だ」

 

「事故じゃありません!」

 

少佐は少し考えたあと、真顔で言った。

 

「しかし被害は最小限に抑えた」

 

「どこがですか!?」

 

「一応、二次爆発は防いだ」

 

「防ぐ前に爆発してるんですよ!!」

 

ノアが静かに紅茶を置く。

 

「ちなみにその後ですが」

 

「まだあるの!?」

 

ユウカが絶望した顔になる。

 

ノアは淡々と続ける。

 

「丁度、お昼寝していたホシノさんが爆発で起こされたみたいで」

 

「慌てて跳ね起きたら倉庫が消し飛んでいる状態で、爆心地を見たら、可愛い後輩と少佐の姿が目に入ったと」

 

あちゃーといった感じで頭を抱えるユウカ。

 

「よく怒られませんでしたね」

 

「無論。怒られたとも」

 

堂々と言い放つ少佐。

その言葉にノアが思わず吹き出す。

 

「…因みに何と?」

 

「確か、『アンタを埋めて倉庫の礎にしてやる』だったかな」

 

「うわあ。ホシノさんも可哀そうに」

 

「というか、ホシノさん視点だと少佐にそそのかされて、後輩が校舎を攻撃したようにしか見えないのでは?」

 

笑いがまだ収まっていないのだろう。

震えながらノアが言う。

 

少佐は少し考え込んだ。

 

「ふむ」

 

紅茶を一口飲む。

 

「確かにそう見えるかもしれんね」

 

「“かもしれんね”じゃないんですよ!!」

 

ユウカが即座に叫ぶ。

 

ノアはまだ笑いを堪えている。

 

「つまり……」

 

ユウカは指を折りながら整理する。

 

「砂漠で遭難した謎の男が」

 

「うむ」

 

「アビドスの地下に侵入して」

 

「入ったね」

 

「校舎の中庭に穴を開けて」

 

「結果的には」

 

「倉庫を爆破して」

 

「偶然だ」

 

「その後ホシノさんを起こして」

 

「たまたまだね」

 

「後輩と一緒に現場にいた」

 

「そうなる」

 

ユウカはゆっくりと椅子に座り直した。

 

「それでホシノさん視点だと」

 

少し間を置く。

 

「“敵”じゃないですか」

 

少佐は軽く首を傾げた。

 

「敵……というほどでもないだろう」

 

「敵です!!完全に敵です!!」

 

机が再び鳴った。

 

ノアが紅茶を置きながら、笑い混じりに言う。

 

「でも少佐」

 

「うむ?」

 

「その場にいたのが“准尉さんと少佐”なのが問題ですね」

 

「どういう意味かね」

 

「普通は救援に見えません」

 

「ふむ」

 

少佐は真面目に考える。

 

「では何に見える?」

 

ユウカが即答した。

 

「破壊工作員です」

 

沈黙。

 

少佐は少しだけ感心したように頷く。

 

「なるほど」

 

「納得しないでください!」

 

ノアが肩を揺らす。

 

「ちなみにホシノさんの追加の発言ですが」

 

紙をめくる。

 

「“次は砂漠ごと埋める”だそうです」

 

少佐が少しだけ考える。

 

「それは困るな」

 

「そこは困るんですね!?」

 

「移動が不便になる」

 

「そういう問題じゃありません!」

 

ユウカは机に突っ伏した。

 

もう完全に限界だった。

 

ノアは紅茶を一口飲みながら、ぽつりと言う。

 

「でも少佐」

 

「なんだね」

 

「次にアビドスに行く予定は?」

 

少佐は少しだけ楽しそうに笑った。

 

「うむ。ちょうど良い」

 

ユウカが顔を上げる。

 

「良くないです!!」

 

少佐は続ける。

 

「今度は“正門”から行こうと思ってね」

 

「そこじゃないんですよ!!!!」

 

ユウカの悲鳴が、セミナー室の窓ガラスを震わせた。




こうやって見るとよく書いたなあ
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