HELLSINGの少佐がミレニアムで教師をしている話 作:海鮮横丁
「あ、少佐だ!見てウチの新しい部員のアリス!」
「よろしくお願いします。私は新しい魔王としてこの世に君臨します」
「わーちょっと!?」
ミレニアム内の廊下を歩いている少佐を見つけ、思わず駆け寄りアリスを紹介するモモイ。
「おや、丁寧な紹介痛み入る。私は魔王を倒す旅をしていた者でね。是非お相手願いたいね」
優雅にアリスに一礼をする少佐。
「わー待って待って!少佐は敵じゃないの!?」
「…違うのですか?裏ボスのような見た目をしているのに?」
「ここの先生なの!下手すりゃユウカより偉いんだから!!」
「何と私はユウカ君より偉かったのか。知らなかった」
「少佐は知っててよ!?」
「それはそれは、失敬したね」
少佐はわざとらしく肩をすくめ、まるで今気づいたと言わんばかりに頷いた。
「では訂正しよう。私は“ユウカ君より偉い可能性のある存在”ということで構わないかね」
「そういう言い方が一番誤解生むんだってば!!」
モモイが即座にツッコミを入れるが、少佐はどこ吹く風だ。むしろ楽しそうですらある。
その横で、アリスはじっと少佐を見上げていた。
「……魔王としての直感ですが、あなたはかなり厄介なタイプの人間です」
「光栄だね。魔王殿にそう言われるとは」
「褒めてないです!!」
モモイが両手を振り回す。
「アリス!この人は敵でも魔王でもなくて、えっと、その……変な大人!」
「分類が雑すぎるねモモイ君」
少佐はくすりと笑い、アリスへ一歩近づく。
「しかし“魔王”か。実に興味深い。君のその肩書きは、自称かね?」
「違います。私は設定上、魔王です。世界観的にも正統性があります」
「ふむ……ならば確認したい」
少佐は指を軽く鳴らした。
「魔王とは、軍略を持つものか?それともただ力を振るうものかね」
「両方です。あと世界を支配します」
「良い答えだ」
一瞬だけ、少佐の目が鋭くなる。だがすぐに、いつもの柔らかい笑みに戻った。
「では提案しよう。魔王アリス君。君の“世界征服プラン”、少しばかり私に見せてはもらえないかね」
「えっ」
「えっちょっと待って!!」
モモイがアリスの肩を掴む。
「その人、そうやってすぐ面白そうなものに首突っ込むタイプだから!!」
「安心したまえ。私は壊すためではなく、観察するために興味を持つだけだよ」
「それが一番信用ならないんだよ!!」
廊下の空気が、妙に騒がしくなる。
そしてアリスは少しだけ考えたあと、真面目な顔で言った。
「……いいでしょう。ですがこれは国家機密です」
「ほう」
「聞いたら、あなたも魔王軍の一員になります」
「ふむ……悪くない話だ」
「よくないよ!!!」
腰に手を回して、優雅に一礼を魔王に贈る。
「それでは、閣下よ。貴方の遠大な計画の一部を私にお聞かせください」
「だから止まってよ少佐!この子まだこっち来たばっかでバグってるんだから!?」
「訂正を要求します。私は安定しています」
わーわーと廊下に声が響く。
「何の騒ぎこれ?」
「あ、ユウカ。ちょっと助けて!少佐がアリスを魔王にして遊んでるの」
「え。何それ劇の練習?」
騒ぎを聞きつけたユウカに泣きつくモモイ。
「私が世界を制服した暁には世界の半分を貴方にあげましょう」
「これは何と豪気なことを」
「……じゃなくて!!!何のゲームなのそれ!!」
ユウカのツッコミが、いつもより二段階くらい鋭い。
「いや、私はただ魔王と軍略についての対話をだね」
「その“対話”って言葉、今すぐ禁止したいんだけど」
ユウカは額を押さえながらアリスと少佐を交互に見る。
アリスはいたって真剣だった。
「ユウカ。私は今、世界の半分を譲渡する契約を提示しています」
「されてない!勝手に話が進んでるだけ!」
少佐は少し残念そうに肩をすくめる。
「ふむ、交渉は不成立か。惜しいね」
「惜しむな!」
モモイが間髪入れずに叫ぶ。
そのとき、アリスが小さく首を傾げた。
「では条件を変更します」
「まだ続くの!?」
ユウカの声が裏返る。
「世界の半分が難しい場合、ミレニアムの一部区域の支配権でも構いません」
「規模を下げればいい問題じゃないのよ!!」
少佐は少し感心したように頷いた。
「合理的な譲歩だ。実に優秀な外交感覚だね、魔王殿」
「褒めるなってば!!」
モモイが完全に崩れ落ちる。
ユウカは一度深く息を吸って、静かに言った。
「……少佐」
「何かな、ユウカ君」
「お願いだから、業務時間中に“世界征服ごっこ”を増やさないでください」
「ごっこ、とは心外だね」
「現実に影響出てるから!!」
その瞬間、アリスがぽつりと呟く。
「……私は遊びではありません」
「ほらぁ!!!」モモイ絶叫。
少佐はくすりと笑って、ようやく一歩引いた。
「では今日はここまでにしよう。魔王殿。またいずれ、より良い条件で」
「了承しました」
アリスも真剣に頷く。
ユウカはもう何も言わず、ただ天井を見上げた。
「……この学校、今日も平和ね」
モモイだけが、最後まで納得していなかった。
指を鳴らす音が部屋に響く。
「で、結果はどうだドク?」
「これをご覧ください。少佐。彼女は素晴らしい」
モニターにはアリスのデータが映る。
そのどれも人間には無しえない数値だ。
「しかも、あのレールガンを武装として持って行ったそうだな」
「映像も抑えてあります。ウタハ君には大分ふっかっけられましたがね」
「何、それくらい払ってやりたまえ」
興味深そうにデータを見詰める。
「ふむ。表面上はやはり人間と同じに見えるな」
「食料も人間と同じ物を摂取しています」
「ますます興味深い」
満足そうに何度も頷き、部屋の隅に視線を走らせる。
「さて、魔王の実力見せてもらおうか」
部屋で待機していた大尉の姿が闇に溶ける。
「何でここで大尉が出てくるんだよ」
ネルの暴言と銃弾が真っ直ぐに突然現れた大尉に向かう。
それを軽く躱しながら、じっとアリスを見る。
「…誰ですか?」
「あ、ああ。最近来たんだったな。コイツは大尉だ。一応ミレニアム内の治安維持やら何やらを請け負ってる」
「…アリス達を捕まえに来たのですか?」
それに応えることなく無言で足を進める。
「…はっや!?」
アリスが防御をする暇もなく吹き飛ばされる。
「おい、アイツは私の獲物だぞ」
がしがしと頭を掻きながら大尉に向かって銃を向けるネル。
「……」
「まーただんまりかよ。どうせ少佐の命令だろ。あのチビに何かあんのか?」
その質問に軽く首を振り、アリスが埋まった壁に視線を向ける。
「あいたた。いきなり攻撃とはひどいです」
多少、埃で汚れているがほぼ無傷だ。
「おら、チビ。第2ラウンドだ。このデカいのを黙らせるから、私とやるぞ」
「ボスの2連戦は聞いていません」
“待って!今少佐に連絡を取ってるから”
「いいえ、アリスはこの試練を突破してみせます」
レールガンを構え、真っ直ぐに二人を見据えるアリス。
「大尉の攻撃で傷一つないとは」
「名もなき司祭でしたか?いい腕ですな」
「解剖したら少しは近付けるかね」
「さて、開いてみないことには」
別室でアリスの様子を観察しながら意見を交わす。
「さて、勇者となった君はどう対応するかね」
画面の向こうでは三つ巴の戦いが幕を開けた。
「アリス君。君は世界を滅ぼす魔王だそうだ」
エリドゥで拘束されたアリスの目の前でゆっくりと歩く少佐。
「…はい。アリスは魔王だったのです」
「そうだね。君が暴走するとこの世界は滅んでしまうとリオ君が言っていた」
横でモニターを見据えるリオに少し視線をやり、直ぐにアリスに顔を向ける。
ひどく薄い笑みを張り付け、まるで実験対象か何かを見ている目でアリスを見る。
「だからリオにヘイローを壊してもらって…」
「詰まらないね。君は」
「え?」
少佐の眼が怪しく光る。
「それなら君の身体を私達が貰おう。あぁ脳髄はガラス管に浮かべて生かしてやるとも」
「ちょっと!?この子を解剖する気なの貴方!」
「殺すならただ殺すのではなく。役に立ててから殺したまえ。君も研究者だろう」
少佐の気迫に押され、言葉を失うリオ。
「それで、アリスは役に立てますか?」
「立つとも。何年後か分からんが君のような存在を作ってやる」
「貴方には倫理観がないの!?」
「それを言うのは50年程遅いね」
アリスの身体に少佐の手が伸びる。
その手が届く前にアリスはぎゅっと目を瞑る。
「…何だ。君はまだ生きたいのか」
少佐の小さな呟きと共にいくつかの足音が響く。
「リオ君。止められなかったようだね」
本当に詰まらなそうに扉を見る。
「えぇそうね。もう終わりみたい」
椅子にぐったりと腰掛けて扉を見るリオ。
扉が開き、先生たちが飛び込んでくる。
「アリス!助けに来たよ」
「おや、勇者たちが来たよ。アリス君」
「…何で…どうして」
涙を流しながらモモイ達を見るアリス。
少女達の再会を邪魔しないようにリオの元に近付く少佐。
「で、先生はどうするつもりかな?」
近付いてきた大人に声をかける。
“正直、殴ってやりたいですよ”
肩を竦め、モニターを見る。
トキがネルの手を借りて起き上がる姿が映っている。
ボロボロになったエンジニア部が何とかまだ支援ができないかと機械を弄っている。
「素晴らしい眺めだとは思わないかね?」
“貴方はこの子たちの先生でしょう!?”
「だから何だね?」
淡々と感情の乗らない声で少佐は先生を見る。
「私がリオ君を止める?バカなことを言うな。彼女は一人で抱え込んでここまでしたんだ。褒められこそすれ、否定される謂れはないね」
段々と熱が籠る。
「トキ君もそうだ。たった一人の協力者としてリオ君を支え続けたんだ。知っているかい?彼女はそのために留年したんだよ」
「君がアリス君を救いたい気持ちもまあ分かる。生徒は大切だ。分かる。だがね、世界の崩壊なんて割と直ぐ身近にあるものさ」
モニターの色が真っ赤に染まる。
「ほら来た。世界の危機だよ先生。生徒を救うために頑張りたまえ」
「先生!アリスの様子がおかしいの。直ぐに来て!」
モモイの声に慌ててアリスの方に走る先生。
「…まさか貴方に認められるとは思わなかったわ」
「私は生徒のことを見ているつもりだよ」
のんびりと椅子に座り、真っ赤に染まったモニターを見る。
赤く染まったモニターの光が、部屋の天井にゆっくりと滲んでいく。警告灯のような派手さじゃない。むしろ静かだ。静かすぎて、余計に嫌な予感だけが増えていくタイプの赤。
「……少佐」
リオが低く呼ぶ。いつもの余裕はもうほとんど残っていない。
「何かな、リオ君」
「あなた、今“楽しんでる”でしょう」
少佐は答えない。代わりに、少しだけ視線を上げる。
「……違うね」
少佐がようやく口を開く。
「私は“観ている”だけだよ」
「それを楽しんでるって言うのよ」
リオの声が鋭くなる。
「さて、」
懐から通信機を取り出す。
幸い骨董品のこれは汚染されていないらしい。
「あぁ、ヒマリ君。用意はいいかね?」
『ええ。少佐。ご注文の品の準備は出来ていますよ』
「…ここまで読んでいたというの?」
「世界が滅びるシナリオなんて5万とあるよリオ君」
その内書き直して新しいの投稿するかもしれません