HELLSINGの少佐がミレニアムで教師をしている話 作:海鮮横丁
トランプをカットする音が静かに響く。
慣れた手付きでカードが配られる。
最初はおっかなびっくりだった手付きが多少の慣れもあってか落ち着いて手札を集める。
「さて、次のゲームだ」
「えっと。さっきと同じですよね。21により近付いた人の勝ち」
「それを超えたら負けですね」
二人してゆっくりとルールを確認する。
それに満足気に何度も頷き、伊達男は場に伏せたカードを返す。
6と7。
「また微妙に読みにくい数字をっ!」
「でも、これなら勝てそうですよコユキちゃん」
反省部屋のテーブルを囲み、コユキとノアの二人が自身の手を見る。
13。
決して悪くない数字だ。
だが、安心できる数字でもない。
「ううう……あと8以内ならセーフ……」
「確率的には悪くありませんね」
対するノアは涼しい顔で自分の手札を見る。
9と9。
18。
かなり強い。
「あ、ノア先輩!いい手ですね!そうなんですね!?」
「ふふふ。何のことでしょうか」
「それで、君達はどうするかね?」
「い、一枚お願いします」
恐る恐る手を上げ、一枚受け取る。
先程まで暗かった顔が一瞬で明るくなる。
「よーし!これなら勝てますよ」
「ほう。それはいい。楽しみにしているよ」
伊達男は口元を歪める。
「では、ノア君は?」
「私はこのままで」
迷いなくカードを伏せる。
18。
これ以上を狙う理由は薄い。
「賢明だ」
伊達男も一枚も引かず、軽く指を鳴らした。
「それでは公開といこう」
コユキが勢いよくカードを叩き付ける。
「見てください!5です!」
13+5。
18。
「やった!ノア先輩と同じです!」
「お見事です」
ぱちぱちとノアが拍手する。
コユキの顔がぱあっと明るくなる。
「ふふーん。どうですか!」
「素晴らしい。だが――」
伊達男がゆっくりと自分の手札を開く。
6と7。
13。
さらに一枚。
8。
21。
部屋が静まり返る。
「え」
「え」
「残念だったね」
にっこりと微笑む伊達男。
コユキの笑顔が凍り付く。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?またですか!これで4回目ですよ!!」
「見ている限りイカサマをしているようには見えませんが…」
「運が良いだけだよ」
「絶対違う!」
机をばんばん叩くコユキ。
しかし伊達男は涼しい顔のまま。
ノアは顎に手を当てて考え込む。
「…今度は私が配っても?」
「どうぞ。お好きなように」
何とも呆気なくカードを渡される。
確認の為に何枚か手に取る。
カードの表面に傷なんてものも確認できない。
当たり前だ。私達の前で真っ新なカードを用意して使ったのだから。
「これだから貴方方は…」
「満足したかね?それではもう1ゲームといこうか」
「今度こそ勝ちますからね……!」
コユキがぐっと拳を握る。
その様子を見て伊達男は愉快そうに笑った。
「その意気だ。勝負事はそうでなくては」
ノアは受け取ったカードを丁寧にシャッフルする。
実に自然な動作。
しかし頭の中では別のことを考えていた。
(カードに細工はない)
傷もない。
角の削れもない。
重さも変わらない。
少なくとも目視で判別できるようなイカサマではなかった。
(それなのに四回連続で最適解を引く)
偶然と言い切るには出来過ぎている。
ノアはちらりと伊達男を見る。
相変わらず余裕の笑み。
だが、その視線だけが妙に落ち着いていた。
カードではない。
もっと別の何かを見ている。
「どうしたかね?」
「いえ」
ノアは微笑んだ。
「少し考え事を」
配り終えたカードを各自が手に取る。
コユキ。
10と6。
16。
「うわっ!また微妙!」
ノア。
7と8。
15。
伊達男。
伏せられたまま。
「ではどうするかね?」
コユキは数秒悩む。
「引きます!」
一枚。
4。
20。
「おおっ!」
歓声を上げる。
かなり強い。
「これは勝ちましたよ!」
「それはどうでしょう」
ノアは手札を見る。
15。
引けば負ける可能性もある。
だが、このままでは心許ない。
「私も一枚」
配られたカードをめくる。
5。
20。
「おや」
「ふふ」
二人とも20。
かなりの好勝負だ。
「それで、貴方はどうしますか?」
コユキが身を乗り出す。
伊達男は少しだけ考える素振りを見せた。
それから一枚引く。
その瞬間。
ノアの視線が動いた。
カードではない。
伊達男の目。
ほんの一瞬だけ。
配られたカードを確認するより早く。
視線がコユキへ。
次にノアへ。
最後に自分のカードへ。
順番に流れた。
(……なるほど)
ノアの脳裏で何かが繋がる。
伊達男はカードを伏せる。
「さて」
公開。
コユキ。
20。
ノア。
20。
そして伊達男。
9と9。
18。
追加カード。
2。
20。
「また同点ですかぁぁぁぁ!?」
コユキが頭を抱える。
伊達男は肩を揺らして笑う。
だがノアは笑わなかった。
代わりに静かに口を開く。
「やはりカードではありませんね」
「ほう?」
「貴方が見ているのはカードではなく人です」
部屋が静まる。
コユキだけがきょとんとしていた。
「え?」
「私達の目線、表情、指の動き。そういった情報から手札を推測しているのでしょう?」
伊達男の笑みが深くなる。
図星だった。
「人は面白い生き物だ」
伊達男が指を組む。
「強い手札を引けば呼吸が浅くなる。弱い手札なら落胆する。引くか迷えば視線が泳ぐ」
「まさか……」
「カードなど見る必要はない。君達が全部教えてくれるからね」
コユキが絶句する。
思い返せば確かにそうだった。
18を引いた時のノア。
20になった時の自分。
全部顔に出ていた。
「だから毎回……」
「最善手を選べた」
伊達男は頷く。
「私の勝率が高かった理由だ」
ノアは納得したように目を細める。
カードゲームをしていたつもりだった。
だが実際は違う。
最初から。
伊達男が遊んでいたのは。
「心理戦だったのですね」
「その通り」
満足そうに頷く伊達男。
そして新しいカードを手に取る。
「さて。もう1ゲームと行こう」
にやりと笑う。
「では次は、表情を隠したままやってみるかね?」
コユキとノアは顔を見合わせた。