HELLSINGの少佐がミレニアムで教師をしている話 作:海鮮横丁
トランプ
「あ、トランプのおじさんだ」
「うん?おお、これはこれは!ゲヘナの姫君ではないか」
喫茶店のテラス席に座りトランプを弄っていた伊達男に一人の幼い少女が突撃する。
「ぶーイブキはイブキだよ」
「これは失礼を」
椅子からわざわざ立ち上がり、イブキに向かって慇懃に一礼をする。
その姿をきゃいきゃいと笑いながら伊達男の周りを走る。
「それで、珍しく一人だがどうしたのかね?」
「今日はイブキ一人でお買い物に行くの!」
「それはそれは何とも立派なことだ」
ニコニコと笑顔で目的を語る少女に癒されながら、周囲を探る。
建物の陰から分かりやすい気配が漏れ出ており、保護者が近くにいるのだろう。
伊達男は視線だけでその気配を追い、わざとらしく肩を竦めた。
「なるほど。随分と優秀な護衛がついているようだ」
「ごえー?」
「こちらの話だとも」
イブキは意味が分からないまま首を傾げ、それから「えへへ」と得意げに胸を張る。
「でもイブキもうお姉さんだからね!ちゃんとおつかいできるもん!」
「ほほう。では今日は何を買いに?」
「プリン!」
即答だった。
あまりにも迷いのない返答に、伊達男は数秒ほど黙る。
そして耐えきれなくなったように吹き出した。
「ははははっ!実に素晴らしい!人類文明の到達点だな!」
「ぶんめー?」
「美味なる甘味のために人は街を歩き、経済を回し、歴史を築くのだよ」
「そーなの!?」
「少なくとも私はそう思っている」
真顔で断言する伊達男に、イブキは「すごーい!」と目を輝かせた。
その反応を眺めながら、彼は手にしていたトランプを器用に弾く。
一枚のカードが空中でくるりと回転し――イブキの頭の上にぴたりと乗った。
「わぁっ!」
「お近付きの印だ。持っていくといい」
イブキは慌てて頭のカードを掴む。
描かれていたのは赤いジョーカー。端には流麗な筆記体で小さく文字が添えられている。
――“幸運を、姫君”。
「これイブキの!?」
「無論。だが対価として約束してほしいことが一つ」
伊達男は片目を細め、わざと秘密めいた声音を作った。
「プリンはちゃんと冷やして食べるのだよ」
「わかった!」
元気よく返事をするイブキ。
その様子を見て、建物の陰から僅かに安堵の気配が漏れた。
どうやら護衛役は、少なくとも“危険人物ではない”判定を下したらしい。
もっとも。
「……しかし、あの方々。隠密行動はあまり得意ではないようだ」
伊達男がぼそりと呟くと、陰の向こうで何かが慌ててぶつかる音がした。
ガタンッ。
数秒の静寂。
それから、
「い、いえーい!たまたま壁に激突しただけっす!!」
「チアキ落ち着いてください」
「お前ら声を抑えろ!イブキにバレるだろうが」
何とも騒がしい保護者が姫君に付いているようだ。