HELLSINGの少佐がミレニアムで教師をしている話   作:海鮮横丁

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正義実現委員会の面々と


豚の尻尾

正義実現委員会。

トリニティの治安維持組織である。

 

そこの委員長である剣先ツルギと副委員長である羽川ハスミは対面に座る伊達男の手付きをじっと眺めていた。

 

「…器用なものだな」

 

「ええ。全く。これだけ出来ればそれだけで食うに困らなそうです」

 

二人して右に左に動くカードの動きを見る。

楽しいというより観察している目付きだ。

 

「この程度の腕で食べていける程カードの世界は甘くないよ」

 

テーブルに52枚のカードを扇形に広げる。

 

まるで定規で測ったように均等な間隔。

 

一枚たりともずれないその並びに、ツルギが僅かに眉を上げた。

 

「…これでか?」

 

「その通り。さて、君達は何かしたいゲームはあるかね?」

 

カードを纏め、カットする。

その動きの流麗なこと。

 

「遊びならイチカかマシロを呼びますか。私達はそこまで詳しいわけではありませんし」

 

「…そうだな。私はもう直ぐパトロールに出かける。二人を代役にして構わんか?」

 

確認を取るように伊達男を見る。

帽子を一度取り、礼をする。

 

「私は誰でも構わないよ。楽しいゲームが出来れば、ね?」

 

指先でカードを弾く。

 

軽い音を立てて回転したカードが再び掌へ収まった。

 

にいと口を吊り上げる。

 

「…ハスミ。よろしく頼む」

 

「ええ。これだけの腕を見せられれば、ナギサ様が憤慨していた理由も分かりますね」

 

溜息を吐き、ティーパーティーの一人に恨み言を吐く。

噂では大分負けたそうだ。

大富豪から始まり、ババ抜きに7並べ。有名なものは大抵プレイしたと聞いた。

セイア様とミカ様はそこそこ勝ったようだが。

その時のナギサ様の様子を思い出し、少し笑みが浮かぶ。

 

「…指先が一度も迷わないな」

 

「迷うような年でもありませんしね」

 

何枚ものカードが舞う。

 

だが落ちてくる頃には全て指の間へ収まっていた。

 

ツルギは一度瞬きをした。

 

その一瞬で何枚か消えたように見えた。

 

「…この手の動きは初めて見るが貴方のような人は多いのか?」

 

「さて、私も表では余り顔を売れなかったものですから」

 

「何とも勿体ないものですね。その呼び名はご自身で?」

 

ハスミは視線だけで追おうとした。

 

しかし途中で諦める。

 

カードは見える。

 

だが指の動きが見えない。

 

「私の名前は呼びにくいのですよ、お嬢さん方。トバルカイン・アルハンブラ。何度噛まれたことか」

 

カードをとんと軽い調子で机に置く。

あれだけ動いていたというのにそれだけでもう空気が変わる。

 

「…確かに噛まずに言える自信はないな」

 

「失礼ですよツルギ。まぁ私も伊達男と呼ばせてもらいます」

 

「どうぞご自由に」

 

大仰に肩を竦め、楽し気に二人を見る。

 

「…ハスミ。二人を呼んでこい」

 

「はい。5人で少し息抜きしますか」

 

ハスミが席を立ち、場から離れる。

 

扉が閉まる音。足音がして、この場から離れていくハスミの気配。

 

「…はっきり言って、貴方から見れば私達は素人だろう?何が楽しいんだ」

 

トバルカインは一度瞬きをした。

 

まるでそんな質問が来るとは思わなかったと言わんばかりに。

 

「Good!私としては楽しみたいだけですよ。ゲームをね」

 

トバルカインは何度か拍手を送る。

相手にとって不足はないという風に。

 

「…成程。貴方は生粋のギャンブラーという奴らしい」

 

呆れたように椅子に身を預けるツルギ。

理解を諦めたのではなく、そういう生き物だと納得したように。

 

扉が開き、ハスミが後輩二人を引き連れて戻ってくる。

 

「お、この人っすか。ナギサ様を泣かせたって人は」

 

楽しそうに目を細めて伊達男を見るイチカ。

 

「え、じゃあ悪い人なんですかこの人」

 

少し警戒したように距離を離すマシロ。

 

「…いいから座れ、今は客人の相手だ」

 

ツルギの声を聞き、椅子を引く音が静かに響く。

 

「…二人を呼んでいる間考えたのですが、ゲームとしては分かりやすいものを提案したいと思います」

 

「私もそう思っていたところだ。私達二人はそう遊んだことがないからな」

 

ツルギとハスミはもう勝つというより、どう自分達が楽しめるかに思考を移している。

ナギサの話題はいつの間にか頭の隅へ追いやられていた。

 

「なら豚の尻尾とかどうっすか。割と簡単ですし」

 

イチカがカードを取り、シャッフルを始める。

 

「皆さんそれでいいっすか?7並べでもポーカーでもいいっすけど」

 

「…私は覚えやすいならかまわん」

 

「ツルギに同じく」

 

「私も大丈夫です」

 

3人共賛成のようだ。

 

「何でも構わんよ。ゲームは楽しんだ者の勝ちだ」

 

楽しそうにカードを眺めながら、伊達男は手を擦り合わせる。

 

「そういや、ジョーカーは抜いてるっすか?」

 

「無論」

 

そう言って胸ポケットを叩く。

 

そこには二枚のジョーカーが挟まっていた。

 

イチカがカードをテーブルに置き、ゆっくりと円になるように滑らせる

 

「最初は誰が引きます?」

 

「…マシロでいいだろ」

 

「え、私ですか?」

 

自身の顔を指で差しながら、きょとんとという顔でツルギを見る。

無言で頷き、伊達男に視線を送る。

 

「誰でも構わんよ」

 

「あーなら。始めます」

 

適当に一枚取って、裏返す。

 

ダイヤの7。

 

イチカが口笛を吹く。

 

「これが基点すね」

 

イチカは慣れた手つきでカードを円状に並べ直し、中央に“場”を作る。

それは遊びというより、もう小さな戦場の設営に近い。

 

「さ、ハスミ先輩どうぞ」

 

「ええ。同じマークが出たら自分の手札になるんですよね」

 

確認するように呟きながら、ハスミは一枚引く。

 

それを中央に持っていき、ひっくり返す。

 

ハートの4。

 

「次は私かな」

 

何の気負いもなく一枚取り、めくる伊達男。

 

ダイヤのA。

 

「残念。合わないようだ」

 

本当に残念そうに首を振る。

 

「…次は私か」

 

迷う素振りも見せずに、カードを引き抜く。

 

ダイヤの6。

 

「…あぁこうなるのか。ようやく分かった」

 

場に出たカードを手元に集め、綺麗に整えるツルギ。

また適当に一枚引き、めくる。

 

スペードの9。

 

「そっす。これで場の全部のカードがなくなって手札が一番少ない人の勝ちっす」

 

カードが一巡すると、中央の“場”は一気に静まり返った。

 

一瞬前まで規則正しく並んでいたはずのカードが、次々と消えたり戻ったりし、気づけば円の中に残っているのはわずかな枚数だけだ。

 

「……なるほど」

 

ハスミが小さく息を吐く。

 

「理解はできました。ですが、思った以上に運の比重が大きいですね」

 

「運だけじゃないっすよ」

 

イチカが楽しそうに笑う。

 

「どこで引くか、どれを残すか。地味に読み合いっす」

 

ツルギは黙ったまま、手札を整える。その指は迷いがないが、視線だけがわずかに動いていた。相手の手元、場の流れ、そして“伊達男”の癖を拾おうとしている。

 

一方で当の本人は、相変わらず飄々としていた。

 

「いいね。こういう単純な構造ほど、人の性格が出る」

 

軽くカードを回転させる。

 

「焦る人間は早く崩れる。慎重すぎる人間は遅れて沈む。……実に分かりやすい」

 

その言葉に、場の空気がほんの少しだけ引き締まる。

 

マシロが小声でつぶやく。

 

「なんか……ゲームっていうより試験みたいになってません?」

 

「気にするな」

 

ツルギが即答する。

 

「ゲームだ」

 

短く言い切ったその一言で、空気が戻る。

 

次の瞬間、ハスミが一枚引く。

 

──めくる。

 

「……スペードの6」

 

静かに声が落ちる。

 

場に一瞬だけ、軽い沈黙が生まれる。

 

「お、いいじゃないっすかハスミ先輩。地味に繋がってきてるっすよ」

 

イチカが楽しげに笑う。

 

残りのカードを綺麗に円に整えながら、場を眺める。

 

枚数的にももう直ぐ終わるだろう。

 

伊達男は、軽く指先でカードを叩く。

 

「良いね」

 

一枚、カードを抜く。

 

迷いなく、裏返す。

 

──ハートの6。

 

「では、私はこれを選ぼう」

 

にい、と笑う。

 

ツルギの目がわずかに細くなる。

 

「……今のは、狙ったのか?」

 

肩をすくめる。

 

「ゲームは偶然の顔をしているが、偶然だけでは成立しない」

 

その言葉に、マシロが小さく息を飲む。

 

「えっと……それってつまり、今のも技術なんですか?」

 

イチカが即座に横から口を挟む。

 

「でもまぁ、こういう人は“そういう風に見せる”のが上手いんすよ。たぶん」

 

「嫌な言い方をするね」

 

伊達男が笑う。

 

だが否定はしない。

 

ツルギが静かに次を引く。

 

──ダイヤの2。

 

「…なるほど」

 

何かに納得したように伊達男の顔を眺め、直ぐに視線を場に移す。

 

「遊びにしては雰囲気重いですよ、さっきから」

 

マシロの上擦った声が響く。

 

「まぁ警戒して然るべき相手ではありますから…」

 

ハスミが牽制するように伊達男の手元を睨む。

 

「…警戒しても無駄だぞ。私達が本気で相手しても逃げられる」

 

淡々と事実だけを告げる。

 

「え?」

 

マシロが思わず聞き返した。

 

「ツルギ先輩?」

 

「事実だ」

 

即答だった。

 

思わず、伊達男の方に視線をやるマシロ。

 

余裕たっぷりに手札を整える伊達男。

 

「ゲームが終わるまではここにいるよ」

 

人を食ったような笑みで、何でもないように勝負を続ける。

 

「ほお、ツルギ先輩がそこまで言うなら事実なんでしょうね」

 

イチカがカードをめくる。

 

ダイヤのキング。

 

「あら、当たりですか」

 

場のカードを集める。

 

「え、この空気で続けるんですか?拘束すべきでは?」

 

「無理ですよマシロ。ツルギが捕まえられないというなら真実です」

 

新たに出た場のカードはハートのジャック。

 

適当に一枚引き抜く。

 

クローバーのジャック。

 

「次、マシロですよ」

 

「え、え?」

 

一人狼狽え、伊達男とカード。次いで先輩たちを見るマシロ。

 

「マシロ、さっさと引くっすよ」

 

「え、コレ私が悪いんですか!?」

 

イチカにせっつかれて、残ったカードの1枚を選ぶ。

 

クローバーの2。

 

「あ、当たったじゃないですか。イチカ先輩が急かすからぁ」

 

「はいはい。私が悪いっす」

 

きゃんきゃんと吠えるマシロを宥め、集めたカードを手渡すイチカ。

 

「じゃ、後3枚っすけどどれ選びます?マシロ」

 

「え、ホントにゲーム続けるんですか。本気ですか?」

 

「…危険人物かと言われたら微妙な線だろう」

 

「まぁティーパーティーのホストの一人を泣かせたのが罪といえば罪ですかね」

 

「あれは弱かったナギサ君が悪いよ」

 

さらりと事実を述べ、残ったカードを寂しげに眺める伊達男。

 

「うー何ですか皆して!じゃ、これにします」

 

勢いよく自分から一番遠いカードを選び、ひっくり返す。

 

スペードの4。

 

「ほい。次」

 

軽い調子でカードをめくるイチカ。

 

ハートの5。

 

「おや、私が最後か」

 

残ったカードに手を伸ばす伊達男。

 

ハートの9。

 

「やれ、最後の最後で運がない」

 

手元にカードを集め、手札を綺麗に整える。

 

「…誰が勝った?」

 

「私ではないと思いますが」

 

ハスミとツルギが場に手札を出す。

 

それにつられてか順々に自身の手札を出していく。

 

「あー私っすかね」

 

イチカの手札の厚みを確認し、次いで枚数を数えていく。

 

「うん。やっぱり私っすね。あー面白かった!」

 

大きく伸びをし、カードを纏めていくイチカ。

 

「え、この流れで負けるんですか貴方!?」

 

思わず椅子から立ち上がり、伊達男の顔に指を突き付けるマシロ。

 

「勝負は時の運だからね」

 

あっさりと肩を竦め、カードを受け取る伊達男。

 

椅子を引き、立ち上がりながらツルギは疑問をぶつける。

 

「因みにだが、カードの操作なんかもできるのか?」

 

「うん?あぁこういう奴かね?」

 

無造作にカードを何枚か引き、裏返して置く。

 

「ハスミ」

 

「はいはい」

 

端から返していく。

 

返したカードは全てAだった。

ハート、スペード、ダイヤ、クラブ。

 

「…やはりか。もういいぞ、私はパトロールに行ってくる」

 

何の気負いもなく部屋から出て行くツルギ。

彼女の中ではもう終わったことなのだ。

 

続いてハスミも席を立つ。

 

「ありがとうございました。楽しい時間でしたよ伊達男さん」

 

優雅に一礼をし、去っていく。

 

「じゃ、私等もパトロールに行きますよ。マシロ」

 

「え、え?いいんですかホントに!?」

 

騒ぐマシロの肩を掴み、部屋を出て行くイチカ。

出る直前に、少し部屋を振り返る。

 

「…今度はちゃんと捕まえるっすよ」

 

それを受ける人物はもう部屋に居ない。

 

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