HELLSINGの少佐がミレニアムで教師をしている話   作:海鮮横丁

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大富豪

「えーっと?セイアちゃん?何で私を呼んだの?」

 

「私ではないよ。正確には私名義でナギサが呼んだのさ」

 

「ミカさん。取り敢えず座ってください。何としてもこの大人にぎゃふんと言わせてやるのです」

 

たんたんと椅子を叩き、座るように促すナギサ。

 

セイアに突然、呼ばれて首を傾げながら部屋まで来れば、見知らぬ男性とカードで遊んでいる二人の姿。

 

「おや、君がミカ君か。初めまして、私の名はトバルカイン・アルハンブラ。近しいものからは伊達男と呼ばれているよ」

 

慇懃に頭を下げる男性。

 

「何してたの?」

 

取り敢えず椅子に座り、ナギサがまとめているカードを何となく見やる。

 

「大富豪さ。大貧民ともいうね。友達と集まってよく遊ぶと教えてもらったので、折角ならとナギサを誘ったんだが」

 

「あぁ、ナギちゃん。この手の奴直ぐ顔に出るから」

 

「なっ……」

 

ナギサの肩がぴくりと跳ねる。

 

「ほら」

 

「ほら、ではありません!」

 

机を叩いて立ち上がるナギサ。

 

「私はまだ何も言っていません!」

 

「でも負けたんでしょ?」

 

「……」

 

「負けたんだ」

 

「ミカさん」

 

低い声だった。

 

「はい」

 

素直に座り直す。

 

セイアがくすくすと笑う。

 

「ふふっ。やはり君達を呼んで正解だったようだね」

 

「で、何があったの?」

 

ミカが改めて尋ねる。

 

ナギサは忌々しげに伊達男を見る。

 

対する伊達男は優雅に紅茶を口へ運んだ。

 

「簡単な話だよ。私は彼にカードゲームを教わっていただけさ」

 

「嘘ですね」

 

ナギサが即座に否定する。

 

「この人、最初は初心者みたいな顔をしていたんです」

 

「実際、ルールは知らなかったとも」

 

「ルールを覚えた一時間後には私が一度も勝てなくなったんですよ!」

 

ばんっ、と机を叩く。

 

「へー」

 

ミカが感心したように伊達男を見る。

 

「凄いじゃん」

 

「凄くありません」

 

「凄いと思うけど」

 

「ミカさんはどちらの味方なんですか」

 

「面白い方?」

 

「ミカさん」

 

「はい」

 

再び素直になる。

 

セイアは肩を震わせながら笑っていた。

 

「それでナギサは、君なら勝てるのではないかと思ったらしい」

 

「なるほどねー」

 

ミカはカードの束を手に取る。

 

ぱらぱらとめくりながら伊達男を見る。

 

「つまり私がナギちゃんの仇討ち?」

 

「その通りです!」

 

ナギサが勢いよく身を乗り出した。

 

「ミカさん!この男に現実というものを教えて差し上げてください!」

 

「うーん」

 

ミカは少し考え、

 

「でも私、大富豪そんなに強くないよ?」

 

ナギサの表情が固まった。

 

セイアは遂に吹き出した。

 

伊達男は愉快そうに笑う。

 

「はっはっは。実に楽しそうだ」

 

「折角、人数か増えたんだ。最初からにしようか」

 

「賛成です。もう私は強いカードを渡したくありません」

 

「そんなに負けたの?」

 

何となく煤けて見える幼馴染を見る。

 

「さて、何回かは覚えていないが」

 

「かなり負けが込んだのは確かだね」

 

セイアと伊達男の二人は面白そうに笑って、ナギサを見ている。

 

「ミカが配るかい?それとも私が配ろうか?」

 

「ま、折角だから私が配ろうかな」

 

適当にシャッフルをして、ナギちゃんから順に配っていく。

 

「そういや、ルールは?なんか一杯あるって聞いたけど」

 

「よく分からないので階段だけです。革命やら8切りやら言われても分かりません」

 

「階段は直感的に分かりやすいからね」

 

慣れた手付きとは言い難いが、それでも何とか配る。

 

全員へ配り終えると、それぞれが手札を持ち上げる。

 

「わーお」

 

手札を整えていくとかなりのいい手だった。

 

何もなければまあ勝てるだろうという位いい手だ。

 

隣に座ったナギちゃんは運が悪かったのか顔を一瞬曇らせて、それからゆっくりと手札を整え出した。

 

対面の二人の表情は読めない。

セイアちゃんはこの手の遊びで感情を表に出すようなヘマは打たないだろうし。

伊達男という人だって、歴戦のギャンブラーだろうから、表情で悟られるようなことはないだろう。

 

(そりゃナギちゃん負けるよなあ)

 

これは相手が悪すぎる。

 

「最初はナギサからでいいかい?それともミカ?」

 

「どちらでも構わんよ」

 

余裕たっぷりにこちらを見る二人。

 

「じゃ、ナギちゃんからで」

 

ミカが軽く手を振ると、ナギサは一瞬だけこちらを見る。

“やってやる”という顔のまま、しかしその目の奥には不安がちょっと混ざっていた。

 

(あ、これだめなやつだ)

 

ミカは直感で察する。こういうときのナギサは、だいたい突っ走る。

 

「では失礼して――」

 

ナギサが一枚、静かに場へ出した。

 

「3」

 

「ん、私?」

 

「あぁ、ナギサから時計回りにやっていたからね」

 

慌ててカードを見る。

 

「じゃ、6」

 

「7」

 

セイアも順調にカードを置く。

 

伊達男がカードを一枚、優雅に指先で滑らせた。

 

「8」

 

「9です」

 

ナギちゃんがカードを置く。

その手つきすら危うい。

よっぽど二人にやられたようだ。

 

「じゃ、11」

 

ばらになっている絵柄を出す。

 

「おや、もうかい」

 

「え、出せるの出しってたら勝てない?」

 

「ナギサはそれで負けたよ」

 

「私の話はいいです!」

 

一つ吠えて、セイアを睨む。

 

「ふむ。一旦パスしよう」

 

手札を眺めて、伏せる。

 

「私はAを出そう」

 

伊達男の手札からAが出される。

 

「あーダメ。パス」

 

「…私もです」

 

「同じく」

 

3人が場を流す。

 

「それでは、返しやすいところから4の3カード」

 

場に綺麗に4が三枚並ぶ。

 

「…ありません」

 

「私は7で」

 

「ミカ。よく持っているね」

 

「たまたまだよ」

 

7の3カード。

 

「ならジャックの3カード」

 

「はー?ナギちゃんよく相手してたね」

 

「因みにイカサマを疑ったナギサは側近にトランプを買いに走らせた」

 

ニヤニヤと笑いながらカードを伏せる。

セイアはパスのようだ。

 

「もう言わないでください。純粋に運の勝負ではどうもなりません」

 

伊達男が、静かにカードを指先で整える。

 

「運の勝負ではどうにもならない、か……いいね。それは実に健全な結論だ」

 

その言い方が、妙に楽しそうだった。

 

ミカは手札を見ながら小さく息を吐く。

 

(これ、健全な結論出した人間が一番不健全な遊びしてるやつだ)

 

場はジャックの3カードで止まっている。普通なら崩せる手が限られる局面だ。

 

「で、どうするの?」

 

ミカが軽くカードを揺らす。

 

ナギサは即座に反応する。

 

「ミカさん!ここで崩してください!」

 

「いや崩すって言われてもさ……」

 

ミカは自分の手札をもう一度見て、ちょっとだけ顔をしかめた。

 

「うーん、これさ」

 

「出せるのあるんですか?」

 

「あるっちゃあるけど……なんか嫌な出し方になるよ?」

 

その瞬間、セイアが楽しそうに目を細めた。

 

「嫌な出し方、というのは興味深いね」

 

伊達男も紅茶のカップを置く。

 

「戦術というものは、だいたい“嫌な出し方”の集積だよ」

 

「そういう理屈はいいんですけどね!」

 

ナギサが机を叩く。

 

「今必要なのは勝ちです!」

 

「ナギちゃん、圧が強いなぁ」

 

ミカは苦笑して、そして一枚抜いた。

 

「じゃあさ」

 

ぽん、と場に置く。

 

「Qの3カード」

 

一瞬、空気が止まる。

 

ナギサが固まる。

 

「……え?」

 

セイアの目が少しだけ丸くなる。

 

「へぇ……」

 

伊達男は、ほんの少しだけ口角を上げた。

 

「なるほど」

 

ミカは肩をすくめる。

 

「これなら一応、ジャックより上でしょ?」

 

ナギサがようやく息を吐く。

 

「ミカさん……やればできるじゃないですか……!」

 

「いや褒め方が雑だなぁ」

 

セイアがくすくす笑いながらカードを伏せる。

 

「私はパスしよう」

 

伊達男もゆっくりとカードを戻す。

 

「同じくパスだ」

 

ナギサが勝ち誇ったように前に出る。

 

「ならば……!」

 

勢いよくカードを叩きつける。

 

「Kの3カードです!」

 

一瞬だけ、場が動いた。

 

ミカは思わず目を細める。

 

(あー……これ、気持ちよくなってるやつだ)

 

伊達男は静かに拍手した。

 

「いいね。流れを掴むのは重要だ」

 

セイアも楽しそうに頷く。

 

「ナギサはこういう時だけは強いんだよね」

 

「こういう時だけって言わないでください!」

 

しかしその直後だった。

 

伊達男が、カードを一枚だけ置く。

 

「では、こちらは――」

 

「Aの3カード」

 

空気が、また変わる。

 

ナギサの顔が一気に曇る。

 

「えっ……また……?」

 

ミカは天井を見た。

 

(あ、なるほど。これは勝てないわ)

 

セイアが笑いを堪えながら言う。

 

「ナギサ、君の“勢い”はね……」

 

「説明はいいです!」

 

伊達男は穏やかに続ける。

 

「勢いは確かに武器だが、より大きい勢いに飲まれると消える」

 

「哲学やめてください!」

 

ナギサが泣きそうな顔になる。

 

ミカはカードを軽く揃えながらぽつりと呟く。

 

「ねえナギちゃん」

 

「はい」

 

「これ、仇討ちっていうかさ」

 

「はい」

 

「たぶん、相手選び間違ってると思う」

 

ナギサは固まったまま、ゆっくりと伊達男を見る。

 

伊達男は紅茶を一口。

 

「さて、まだ続けるかい?」

 

その笑顔だけが、やけに楽しそうだった。

 

「絶対1回は勝ってやります!」

 

「まぁ彼の手札は後、数枚だからね」

 

「そうです。ペアや階段を駆使すれば!」

 

ナギサの声が途中で途絶える。

 

ゆっくりと伊達男の手札が公開される。

 

4,5,6の階段。

 

「この人は!」

 

しかしその言葉は、続かなかった。

 

伊達男が、まるで“見せる必要があったから見せた”とでも言うように、静かにカードを揃えて置く。

 

4、5、6。

 

綺麗すぎるほど、綺麗な階段。

 

ミカは目を細めたまま固まる。

 

(この人、ずっとギャンブルなり何なりやって来た人だ。そりゃナギちゃん相手にならないよ)

 

今のナギサはカモだ。

それもたっぷりと腹を膨らませた。

 

セイアは肩を震わせて笑っている。

 

「ふふっ……ナギサ、いい顔だね」

 

「よくないです!」

 

ナギサは即座に反射するように否定したが、声が少し裏返っていた。

 

伊達男は紅茶を置き、淡々と続ける。

 

「階段というのは便利だ。単純で、読みやすくて、そして――」

 

視線がナギサに向く。

 

「美しい」

 

「美しくないです!」

 

即答が速すぎる。

 

だがその間にも、場はもう“詰んでいる形”に近づいていた。

 

ミカは自分の手札をちらりと見て、軽く息を吐く。

 

(一応、作れるけどガタガタになるんだよねえ)

 

ナギサが前のめりになる。

 

「ミカさん!ここで止めます!」

 

「止めるっていうかさ……」

 

「止めます!」

 

「圧が強いなぁ……」

 

セイアが楽しそうに手を口元に当てる。

 

「さて、どうするのかな」

 

伊達男は追い打ちをかけない。ただ静かに待つ。

 

それが一番タチが悪い。

 

伊達男の手札は後1枚だ。

これが通れば勝てる。

そんな状況。

 

カードが机の上に整列しているだけなのに、そこだけ妙な“圧”がある。

 

残っている手札はわずか。

 

勝負は、ほぼ最終局面だった。

 

ナギサの指先がわずかに震える。

 

「ミカさん……ここ、止められますよね?」

 

その声には、いつもの勢いよりも少しだけ頼りなさが混じっていた。

 

ミカは自分の手札を見下ろして、軽く息を吐く。

 

「止められるかどうかで言うと……止められるよ」

 

その瞬間、ナギサの顔がぱっと明るくなる。

 

「では――!」

 

「でもさ」

 

その“でも”で、空気が少し沈む。

 

「止めたあと、たぶんこっちが苦しくなるやつ」

 

「……っ」

 

ナギサが固まる。

 

対面のセイアは、楽しそうに紅茶を回しながらその様子を眺めている。

 

「いいね、その迷い。カードゲームの醍醐味だよ」

 

「醍醐味じゃありません!」

 

ナギサは即座に噛みつくが、説得力はやや弱い。

 

隣で、伊達男――トバルカイン・アルハンブラは、静かにカードを指先で揃えている。

 

残り一枚。

 

その一枚が、やけに重く見える。

 

ミカはその動きを見て、小さく呟いた。

 

「ねえナギちゃん」

 

「はい!」

 

「これさ、止めても止めなくても、たぶん向こう勝つよ」

 

「そんな冷静な分析いりません!」

 

「でも事実なんだよねえ」

 

ナギサの肩がわずかに落ちる。

 

そこへ、セイアがくすっと笑う。

 

「ナギサ、君は本当に面白いよ。勝ち筋を見つける前に気持ちで走るところが」

 

「褒めてないですよね、それ!」

 

伊達男がゆっくりと口を開いた。

 

「では、最後の一手だが――」

 

指が動く。

 

カードが、たった一枚だけ置かれる。

 

「……7」

 

「上がりだね。今回は私の勝ちだ」

 

帽子を軽く持ち上げ、礼をするようにナギサを見る。

ナギサが吼えた。

 

「納得いきません!」

 

「毎回毎回!何で強いカードが貴方達にばっかり来るんですか!?」

 

「…そうなの、セイアちゃん?」

 

机に頭を伏せて、騒ぐナギサの声から逃れる。

 

クスクスと笑いながらセイアがナギサを見る。

 

「いいや。何度か勝てる手はあったさ。ただ、出すタイミングが悪いね」

 

「あーあるよね。そういうの」

 

このゲームは敗者なしでいいだろう。

もう一度やればいい。

どうせ銃を持ち出しそうな程怒っているナギサに続きは無理だ。

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