HELLSINGの少佐がミレニアムで教師をしている話 作:海鮮横丁
「ダメだ当たらん」
「少佐ホントに下手だね」
ゲーム開発部の部室のソファに座り、筐体に向かってコントローラーを必死に動かす少佐に向かってからかい混じりに慰める。たまにふらっと来ては適当にゲームをして帰るこの変な大人のことをモモイは嫌いではなかった。
「戦略を立てるのは得意なんだがなぁ。いざ自分で動かすとなるとこれだ」
画面の中で少佐のキャラクターが無惨にも穴に落ち、ゲームオーバーの文字が虚しく表示される。
モモイはとうとう堪え切れず吹き出した。
「わはは! また落ちた! そこさっきも引っかかってたじゃん!」
「おかしい……理論上は飛べていたはずなんだが」
「理論上ってなに!? ゲームに論文みたいなこと言わないでよ!」
隣でミドリが小さく肩を震わせながら笑う。
「でも、少佐さんって意外です。もっと何でもそつなくこなすタイプかと思ってました」
「買い被りだよ。私は万能ではない。むしろ不器用な方だ」
そう言いながらコンティニューを押す。
しかし次の瞬間、開始五秒で敵弾に突っ込んで爆散した。
「あっ」
「あっ、じゃないんだよなぁ……」
今度はユズまで吹き出して俯く。
アリスは真剣な顔で画面を見つめていた。
「少佐。今の攻撃は避けるべきだったと思います」
「そうだな。私もそう思う」
「ではなぜ前進したのですか?」
「勢いだ」
「勢い……」
部室の空気がふわっと緩む。
騒がしいわけではない。
ただ、誰かが笑っていて、その笑いが自然に広がっていくような穏やかな時間だった。
モモイはポテチを摘まみながら少佐を横目で見る。
「でも珍しいよね。少佐がこんなゲームでムキになるの」
「む。なってはいない」
「いやなってるって。さっきから『今のは違う』しか言ってないし」
「今のは違ったんだ」
「ほらー!」
ばんばんとソファを叩いて笑うモモイ。
少佐は不満げに眉を寄せながらも、どこか楽しそうだった。
「……よし、次こそ行ける気がする」
「そのセリフ十五回くらい聞いた」
「今度は本当だ」
そうして再び始まった挑戦は、開始十秒で終わった。
数秒の静寂。
そして。
「だーっはっはっはっは!」
ゲーム開発部の笑い声が、今日も部室いっぱいに響いた。
コントローラーを投げ出し、諦めたようにソファに深く座り込む少佐。
「あ、諦めた」
少佐が使っていたコントローラーを持ち、コンテニューするモモイ。
手慣れたもので少佐の記録をあっさりと抜いていく。
「少佐はシュミレーション系とかRTSとかは得意なのにね」
「まあ、人には向き不向きがあるから」
隣に座った双子から慰めなのかよく分からない言葉を口にする。
「少佐。次は何をしますか?」
「いや、今日はもういいよ。十分に遊んだ」
目をゆっくりと開き、ゲーム開発部の部室をついで部員を一人ずつ眺めていく。
優雅に立ち上がり、扉に向かう。
「楽しい時間だったよ。ありがとう」
丁寧に一礼して、去っていった。
扉が閉まる。
数秒の沈黙。
「……なんだかんだ毎回来るよね、少佐」
「ですね」
「次こそクリアできるでしょうか」
「無理じゃない?」
「無理だと思います」
「Mission Failedです」
「アリス、その言い方やめなよ!」