HELLSINGの少佐がミレニアムで教師をしている話 作:海鮮横丁
アリスの運搬クエスト
「お、アリスちゃん今日もどっか行くの?」
「はい!今日はドクに頼まれたクエストです」
「そっか。気を付けてね」
近くを歩いていたミレニアム生と笑顔で挨拶を交わし、真っ直ぐにドクが待っている研究室に脚を向ける。
今日頼まれたのは荷物の配達である。
箱の中身は聞いていないが、危ない物ではないとドクが言っていたからそうだろう。
箱の中身は随分と軽いらしく、ドクも「簡単なお使いだから、そんなに気負わなくて大丈夫だよ」
と笑っていた。
一応中身は見ないで欲しいと言っていた。
アリスを信用して欲しい。
勇者がそんなことをするはずがないのだから。
「あ、アリスちゃん。何持ってるの?」
「ユウカ!今日のクエストは運搬クエストです!ドクに頼まれました」
「え、ドクに?」
ユウカの顔が一瞬にして曇る。
「因みに中身については聞いてる?」
「聞いてません!」
額に指を当て、考え込むユウカ。
「アリスちゃん。箱を渡してもらえる?」
「ダメです!」
「どうして?」
「ユウカには絶対渡すなって言われいています!」
「…へえ?そういうこと言うんだドクは」
一瞬目が細くなるユウカ。
なぜかボス戦前のような気配を感じた。
「因みに何処に持っていくように頼まれたの?」
「ドクの第3研究室です!」
「そう。ありがと」
そうアリスにお礼をいい、懐からスマホを取り出し何処かに連絡を始めるユウカ。
「あ、ネル先輩。今、何処に居ます?至急お願いしたいことがあって」
「や、止めてくださいユウカ。クエスト失敗になります!」
『今、購買だけど。どうした』
「アリスちゃんがドクから怪しい荷物の運搬を頼まれまして」
『…へえ?場所は何処だ』
「第3研究室です」
『ヨシ。今から向かう』
「よろしくお願いいたします」
通話を切ったユウカは、人差し指を唇に当てた。
「シー」
どうやら秘密の作戦らしい。
「分かりました。アリスはドクに秘密にします!」
「よろしくね。じゃあ私は行くから」
ユウカと別れたアリスは依頼人が待つ部屋に向かった。
途中で何人かの生徒に声を掛けられたが、秘密の作戦中なので何も言わなかった。
勇者は約束を守るのである。
「おお、アリス君。助かったよ」
「はい!アリスはキチンと運搬クエストを終了しました」
ドクに荷物を手渡し、笑顔でクエストを終える。
「それで、ユウカ君には会わなかったかな?」
「はい!会いました!」
「おお、それでどうしたかね」
「はい。ユウカはネル先輩に連絡を取りました!」
「…ん?もう一度言ってくれ」
「ユウカはネル先輩に連絡を取りました」
一瞬でドクの顔が青くなった。
慌てて箱を机に置き、開封を始める。
ガン!
「ドク!今度は何をするつもりですか!!」
「大人しく机から手を退けな」
「やあやあ、二人共。その物騒な物を仕舞ってだね。話でもしようじゃないか」
「3秒やる。手を退けな」
「短くないかね!?」
「2」
「わー!」
「チッ。張り合いのねえ」
「わぁ。ドクがまた真っ青になりました」
「アリスちゃん。こっちにおいで」
トコトコとユウカの方に歩いていくアリスに後ろから声がかかる。
「あ、アリス君!約束と違うじゃないか」
「違いません!」
「チビは約束全部守ったよ」
がっくりと項垂れ、ネルに拘束されるドク。
箱はまだ開ききっていない。
「で」
「え?」
「今度は何をやったって聞いてんだよ」
「い、いやー。大したものじゃないよ」
「大したものじゃないなら、私に報告が入るはずですよねドク?」
「チビ。もう開けちまえ。危険物じゃねえんだろ」
「はい。そう聞いてます」
ちらりとドクを見る。
ふるふると弱弱しく首を振るドクを見て、少し胸が痛む。
しかし、好奇心に抗えずに箱に近付く。
ぺりぺりぺり。
箱の封が剥がされる。
ドクが「あぁ……」と天を仰いだ。
そして。
箱の蓋が開く。
中に入っていたのは――
新作ゲームソフトの限定版だった。
「……」
「……」
「……」
研究室が静まり返る。
アリスが箱の中を覗き込む。
「ゲームです!」
「ゲームだな」
ネルも覗き込む。
「ゲームですね」
ユウカも覗き込む。
「ゲームだね」
ドクだけが遠い目をしていた。
数秒の沈黙。
そして。
「……は?」
ユウカの額に青筋が浮かんだ。
「いや待ってください」
「待とう」
「これだけですか?」
「これだけだね」
「これのためにアリスちゃん使ったんですか?」
「限定版だからね」
即答だった。
ユウカが頭を抱える。
「限定版だからね、じゃありません!」
「だが聞いてくれたまえユウカ君」
ドクは真剣な顔になった。
「この限定版は生産数三百個」
「知りません」
「特典に設定資料集」
「知りません」
「サウンドトラック」
「知りません」
「更に限定のフィギュアまで付いてくる」
「いりません」
「は、話し合いを要求したい」
「…ネル先輩」
「却下だ。チビ、ソフトだけ持ってけ。後は捨てる」
「わ!いいんですか。ドク?」
「…後生だからフィギュアだけでもどうか」
「全部捨てましょう」