HELLSINGの少佐がミレニアムで教師をしている話   作:海鮮横丁

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ドローン実験の前の話


弾丸予測

コツコツと靴音が響く。

 

一定のテンポでブレがない足音。

その後ろからバタバタという慌ただしい足音がついてくる。

 

家から出た辺りからどうにもつけられているようだ。

しばらく泳がせていたらずぶの素人だということが分かるくらいにはお粗末な尾行を頑張って続けている少女。

ちらりと覗いたショルダーバッグにはステッカーでデコられた生徒証とUFOやエイリアンを思わすイラストや某秘密結社らしきロゴなどが象られた缶バッジを多く付けている。

 

「で、何処までついてくるつもりですか?」

 

我慢の限界が来て、後ろに振り返れば建物の陰に隠れようとしている少女の頭が目に入る。

 

「…い、いつからバレて?」

 

「最初からですよ」

 

そう言いながら、視線だけでその“隠れたつもりの頭”を指す。

 

「あんまりにも下手くそな尾行だったので、何かの遊びかと思ったんですが。どうやら違うようですね」

 

軽く足に力を入れ、少女の後ろに回る。

一瞬で目の前から消えた私を探して視線を彷徨わせる少女の頭の上に手の平を乗せる。

ビクリと震えて、こちらにゆっくりと首を向ける。

 

「で、ご用件は?」

 

怯えた小動物のようにこちらを見上げる羽咋ツバサの姿をしっかりと視界に収めた。

 

 

よっぽど怖かったのか、半分涙目で睨み付ける彼女を放置も出来ずに喫茶店に誘導する。

 

「で、ツバサさん。何の御用で?」

 

「うむ。私は超常現象を解き明かすために日夜活動している。そこで君たちが前々から怪しいと踏んで尾行に乗り出したのだ」

 

コーラを飲んで元気になったのかそんな世迷言を言う彼女を新鮮な目で見る。

 

「はーやっぱりミレニアムて面白いところ。どうせなら少佐やトバルカイン辺りに聞きにいけばいいのに」

 

それかドク。と口に出さずにおく。

下手をすれば彼女が消される可能性があるか。

まぁ最近はアリスなりケイなりにご執心だからよっぽどのことが無いかぎり大丈夫だと思うが。

 

コーラを一気に飲み干した少女は、勢いだけで立て直したらしい自信をそのまま言葉に乗せてくる。

 

「怪しいと言っただろう。君たちの周囲は、常識では説明できない事象が多すぎる」

 

「……常識で説明できない、ね」

 

喫茶店のガラス越しに見える通りは、普通に平和だ。自転車が通り、学生が笑いながら歩いていく。

その“普通”の中に自分がいるのが、なんだか妙に滑稽に思える。

 

「例えば?」と、わざと軽く促す。

 

羽咋ツバサは少し身を乗り出し、声を潜めた。

 

「例えば君は銃弾を自由に曲げられる。トバルカインという男はトランプでの消失、いや簡易的なワープかあれは?実にオカルトではないか!」

 

「まぁこんな世の中ですからそういう人間もいるでしょう」

 

さらっと返したその一言に、羽咋ツバサは一瞬だけ言葉を失う。

 

「い、いるでしょうって……普通は“いない”んだ!」

 

「普通、の定義がそもそもズレてるんじゃないですかね」

 

コーヒーを一口飲む。

 

パクパクと口を開閉するツバサを見る。

 

「それでは、もう一度見てますか?私の魔弾を」

 

愛銃を撫でる。

 

結局、大人しく着いてきたツバサを共にミレニアムタワーを上がる。

今日は生憎のいい天気だ。

エレベーターで隣に立ってソワソワと何か言いたそうな彼女を無視して、さっさと目的地に向かう。

 

「…何でセミナー?」

 

「一応我々はセミナー管理なんですよ。少佐もそうです。まあ実態は昔から好き勝手やってるだけですが」

 

「やはりセミナーと癒着しているのだな!」

 

その言葉に口角が釣り上げる。

まさか癒着とは。

陰謀論者かこの子は。

オカルトと科学の融合の存在が目の前にいるのに。

何と呑気な子だ。

 

「あ、中尉。丁度いいところ…ってツバサちゃん?」

 

「この子は私の客なので今は無視していいですよ。それで何かありました?」

 

「はい。中尉の魔弾の最高速度を測りたいとエンジニア部から要請がありまして」

 

「実にいい。良かったですね。ツバサさん。私の魔弾を存分に見るチャンスです」

 

「…あ、ああ。そうだな。しっかりと見せてもらおう!」

 

何か言いたげに視線を彷徨わせる。

諦めたように一度目を伏せ。

絶対に暴いてやると強い意思を見せる。

諦めを踏破する目だ。

少佐が好きなタイプの子だ。

 

 

「よく来てくれたね。リップヴァーン・ウィンクル中尉」

 

「こちらの子は君のお客さんかな。しっかり目に焼き付けたまえ。面白いものが見られるぞ」

 

エンジニア部に着いて早々にウタハ部長に歓迎を受ける。

 

後ろではコトリやヒビキが測定機器の準備に慌ただしい。

 

「…やはりセミナー自体が彼らに操られているのでは。これはミレニアムの危機…」

 

「…随分と面白いお友達を作ったようだね中尉」

 

「ええ。面白い子と知り合いになれました」

 

頬を若干引き攣らせたウタハに肩を軽く竦めて応じる。

 

ウタハの隣にツバサをさっさと置いて、キチンと射撃位置につく。

 

ツバサは部屋中に並ぶ計測機器を見回して息を呑む。

 

「ありがとう中尉。ヒビキやってくれ」

 

「はい。ドローン発進」

 

ドローンがいくつも発射され、視界を埋め尽くす。

 

「随分と沢山出しますね」

 

「今回は、テストも兼ねてるからね。どれくらいの耐久が必要か機動力はどれくらい必要か等々」

 

「ドローンに規則性を持たせているのか?何故だあっという間に落とされるだろう?」

 

「それがテストだからね。今回は破壊されることにこそ意味がある」

 

「…やっぱ研究者って理解できないわー」

 

無造作に銃を持ち上げ、弾丸を放つ。

綺麗に並んだドローンを一撃で叩き落とし、貫通させた弾丸を曲げ、隣のドローンを撃ち落とす。

 

「これだ!これが見たかった!やはり君の弾丸は物理法則を無視している!!」

 

「いや、結果の数値だけ見れば何らかの外的要因が働いているのが分かる」

 

全機落とすのにそう時間はかからなかった。

 

軽い調子でこちらに帰ってくる中尉を労う。

結果としては上々なのだろ。

いい笑顔のウタハがお礼を言う。

 

「面白いデータが取れたよ。ありがとう。報酬はまたいつもの口座に振り込ませてもらう」

 

「相変わらず律儀ですねえ。弾代も昔に比べたらタダみたいなものなのに」

 

ウタハと会話をしていたら、割り込むように顔を出すツバサ。

 

「これは確かに超常現象だ!私の眼に狂いはなかったのだ!」

 

客用に出された水を一息に飲み干し、コップを置き。

 

「君のやっていることは“弾丸を撃っている”というより、“弾丸に命令を与えている”に近い」

 

「普通の銃弾なら放たれた瞬間に終わりだ。だが君のそれは違う。飛びながら考えている」

 

一拍置いて、指を立てる。

 

「いや、考えているというより……そうだな。“勝手に答えを探している”感じだ」

 

少しだけ言い直して、視線を泳がせる。

 

「だから曲がるんじゃない。最初から“当たるルートに修正され続けている”んだろう」

 

コップを指で軽く叩く。

 

「これでどうだ!正解ではないか!」

 

胸を張り、こちらを見据える可愛い少女の余りに突飛な理論に笑いが漏れる。

その笑いが段々と大きくなり、身体が九の字に曲がる。

 

笑いを堪えようとした結果でも、堪え切れなかったわけでもない。

ただ、純粋に可笑しかった。

 

「……ふっ、はは……」

 

肩が小刻みに揺れる。

 

ウタハが「ちょ、ちょっと中尉?」と困惑した声を出しているのが聞こえるが、それすら遠い。

 

「いや……失礼」

 

ようやく息を整え、ツバサを見る。

 

「面白いですね、あなた」

 

「な、何がだ!」

 

ツバサは即座に反論する。

しかしその声には、少しだけ自信が混ざっていた。

 

「理屈の方向は悪くないです」

 

銃を軽く回し、机の端に置く。

 

「“弾丸に命令”というのは、まぁ比喩としては正しい」

 

ツバサの目が一瞬だけ輝く。

 

「それでは!」

 

ツバサが身を乗り出す。

 

期待に満ちた目。

今にも“完全解明”に辿り着く勢いだ。

 

だが、私は軽く首を横に振る。

 

「まぁ私も出来るのでやっているだけで。理屈の説明は出来ないので」

 

一瞬。

 

空気が止まる。

 

ツバサの口が、開いたまま固まる。

 

「……は?」

 

「ですから」

 

銃を指で軽く叩く。

 

「あなたの言う“命令”でも、“選択”でも、“未来修正”でもいいですが」

 

淡々と続ける。

 

「それをどうやってやっているかは、私にも分かりません」

 

「なっ……!」

 

ツバサが机を叩く勢いで立ち上がる。

 

「そんなわけあるか!?」

 

「ありますよ」

 

即答。

 

「現に出来ているので」

 

その一言で、さらに追い打ちをかける。

 

「出来ていることは、必ずしも理解できるとは限りません」

 

ウタハが小さく頭を抱える気配。

 

ヒビキは逆に興味深そうに目を輝かせている。

 

ツバサは数秒固まったあと、ゆっくりと息を吸い込んだ。

 

「……つまり」

 

声が少し震えている。

 

「君は“理解せずに現象を起こしている”ということか?」

 

「そうなりますね」

 

「そんなのは……」

 

言いかけて、止まる。

 

“あり得ない”と言い切るには、目の前で起きていることが多すぎる。

 

ツバサはぎゅっと拳を握りしめる。

 

「……だったら尚更だ」

 

「?」

 

「尚更、解き明かす価値がある!」

 

目が、さっきよりずっと真剣になる。

 

「理屈が無いなら作ればいい!説明できないなら仮説に落とせばいい!それが科学だ!」

 

一気にまくし立てる。

 

そして、少し息を整えてから、指を一本立てた。

 

「だから私はまだ終わらない!」

 

「……なるほど」

 

その言葉に、少しだけ目を細める。

 

「いい目をしてますね」

 

ツバサは一瞬きょとんとする。

 

「は?」

 

「いえ」

 

銃を肩に担ぐ。

 

「ウチのドクを思い出しただけです。彼も理想と狂気の狭間の眼をしていますから」

 

ツバサは一瞬だけ言葉に詰まり、しかしすぐに視線を鋭くする。

 

「ドク……?」

 

その名前だけを反芻するように、小さく呟く。

 

「その人物も“理解できない現象を暴く側”なのか?」

 

「そうですね」

 

軽く肩を竦める。

 

「だから私達がここに居る。結果としてはそれだけのことです」

 

「さて、テストを続けてもいいかな中尉。まだやって欲しいことがいくつかあるんだ」

 

エンジニア部の未来は明るいかもしれない。




ツバサ好きなんだけど動かしにくいねんな
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