HELLSINGの少佐がミレニアムで教師をしている話 作:海鮮横丁
画面から目を離し、大きく伸びをする。
身体の各所が悲鳴を上げ、心地良い音がする。
「あー少し詰め過ぎたかな」
首をぐるりと回し、机の上の缶に手を伸ばす。
持ち上げて、もう中身がないことを示す軽さに眉をひそめる。
「あっちゃあ、もう無かったかぁ」
未練がましく缶を振るも軽い音しかせず。
大きく溜息を吐いて椅子から立ち上がる。
「仕方ない。買いに行くかなあ」
コンビニで何本か仕入れるとしよう。
廊下を軽い音が響く。
ミレニアムの夜は明るい。
煌々と灯があちこちに灯る。こういう時少佐は何といったか。
暫く思い出そうと首を捻るが、思い出せず諦める。
「…まぁ大したことじゃないはず」
そんなことを考えていたからか前方に人が立っているのに気付かず衝突しそうになる。
慌てて距離を取るとそれなりに見慣れた軍服姿の背の高い男性。
「…何だ大尉か。驚かせないでよ」
「……」
すまなそうにこちらに頭を下げる大尉。
大尉は何も言わず、ただ静かに一歩引いて道を空ける。
その動きが妙に律儀で、逆にこちらの勢いを削がれる。
「いや、別に謝るほどじゃないって。こっちもボーッとしてたし」
そう言って肩をすくめると、大尉は一瞬だけ視線を落とし、それから短く息を吐いたように見えた。……たぶん、安心したのだろう。
「それで?こんな時間に巡回?それとも偶然?」
問いかけても返事はない。いつものことだ。
沈黙が廊下の明るさに溶けていく。ミレニアムの夜は相変わらず明るすぎて、時間の感覚が少し狂う。
「まぁいいや。私はコンビニ行くとこ。大尉も来る?」
冗談半分で言ったつもりだったが、大尉はほんのわずかに目を瞬かせる。
「ついでに何か買ってあげようか。大尉が何か食べてる姿あんま見たことないし」
ハレ自身は断られるだろうと思って軽い提案のつもりで言っただけだ。
何せコンビニと大尉。似合わないにも程があるだろう。
その姿を想像して少し笑いが漏れる。
怪訝そうな気配を向ける大尉に軽く謝り、もう一度誘う。
「……やっぱ、嫌?」
冗談っぽく首を傾げながら言う。
断られる前提の軽いノリ。いつもの流れのはずだった。
でも大尉はすぐに首を振らなかった。
(おお、これはちょっと脈ありかもしれない)
明日、自慢してやろう。
私は大尉とコンビニに買い物に行ったのだぞと。
きっとその話がミレニアム中に回ったら大尉は大変だ。
絶対面白いことになる。
沈黙。
大尉は相変わらず、すぐには答えない。
ただ、ほんの少しだけ――視線が揺れた。
(あ、これほんとに“考えてる”やつだ)
いつもなら即「……」で終わるところなのに、今日は違う。
ミレニアムの廊下の明るさが、やけに白々しく感じるくらいの間。
そしてようやく、大尉は小さく首を縦に振った。
「……」
肯定。
それだけ。
「お、いいね。珍しい」
思わず笑ってしまう。冗談がそのまま現実になる瞬間って、たまに変なテンションになる。
「じゃあ決まり。コンビニ同行任務ね、大尉」
軽く言いながら歩き出す。
数歩遅れて、足音がついてくる。
いつもの距離。いつもの無言。
なのに、さっきより少しだけ“同じ方向にいる”感じが強い。
「そういえばさ」
歩きながら横目で見る。
「コンビニって行ったことある?」
返事はない。
でも否定もない。
「ま、ないか。似合わないもんね、大尉」
軽く笑って前を向く。
廊下の自動ドアが開いて、外気がふっと流れ込む。
夜の空気は思ったより冷たい。
「じゃあ今日が初コンビニ記念日ってことで」
半分ふざけて言いながら、少しだけ振り返る。
大尉は変わらずそこにいる。
ただ、いつもよりほんのわずか――歩幅が近い。
そのことに気づいてしまって、
(……これ、ほんとにネタにできるやつだな)
なんて、どうでもいいことを考えながら、夜の明るい街へ出ていった。