HELLSINGの少佐がミレニアムで教師をしている話 作:海鮮横丁
ドローン実験
クルクルと愛銃を回す。
日傘を指し、通りを歩く。
ミレニアムの大通りは今日も活気がある。
「あーいい天気ですね」
生憎の曇り空だ
だが、生徒も機械たちもそんなことは関係ないとばかりに青春を謳歌している。
「あぁいうの見るとホント平和だと感じるわー」
眠そうに半眼になりながら、目的地を目指す。
たまにミレニアム生に声をかけられ、挨拶を返しながらトボトボと歩く。
「来たね。リップヴァーン・ウィンクル中尉」
エンジニア部の部室に着くなり、依頼人であるヒビキが笑顔で迎え入れる。
「で、今日は何ですか?」
「前に言ってた試作ドローンが出来たから試し撃ちをお願いしたいの」
「あぁ。前に言ってた奴。今度は何分持ちますかねえ」
「大丈夫。今回は結構自信作」
グッと拳を握り、目を静かに輝かせながらヒビキが語る。
この面白い依頼人はまた頓狂なものを作ったらしい。
我々はあまり銃を使わないから、どうしても私にお鉢が回ってくるのだ。
適当な射撃位置に陣取り、銃を構える。
まあ私からすれば場所など何処でもいいのだが。
「じゃ、発進」
何とも気の抜ける声で操作盤を操作しながら、ドローンをいくつも上空に飛ばす。
適当に狙いをつけて無造作に引き金を引く。
狙われたドローンはランダム回避のつもりか無秩序に動き出した。
「おお、パターンを変えましたか」
「ふっふっふっ。これまで何機も落とされたからね。学習済みだよ」
銃弾がいつものように曲がる。
わざと見せつけるようにドローンの周囲を旋回し、
獲物を吟味する鷹のように観察する。
「相変わらず訳わかんない機動してるね」
「まぁそういう能力なので」
獲物を決めた銃弾が真っ直ぐにドローンに突き刺さる。
いつものように紙でも引き裂くように貫通すると思いきや、途中で弾丸が止まる。
そこで初めて中尉の顔が曇る。
ドローンの機体を数秒見つめる。
「…成程。そういうことですか」
「ん。ランダム回避にプラスして少し丈夫に作った」
ブイと指を二本立てて喜びを示すヒビキ。
それに構わず、愛銃を構え。
狙い撃つ。
「先ずは飛行能力を落とします」
「プロペラ部分も同じ材質で作ったから、どうなるかな」
銃弾は先程のように遊ぶことなくドローンのプロペラ部分を削っていく。
「私の銃弾は空母だって落として見せますよ」
空中で幾度も軌道を変えながら、銃弾がプロペラを削る。
次いで外郭へ食らいつき、少しずつ装甲を削り取っていく。
無残にも空中から落ちてくるいくつものドローンを眺めながら満足気に頷くヒビキ。
「今回は結構持ったね。次は軽量化してもう少し耐久方面に振ろう」
「まぁもう消化試合ですからね」
無事なドローンは後2基だ。
「因みにその2基は撃墜機能も付けてみた。流石に密集状態じゃ攻撃できなかったけど。今ならできる」
「…これだからエンジニア部は」
一瞬、顔を歪めた中尉はまた笑顔で戻る。
並の銃弾なら問題はない。
少なくとも、私を落とせるとは思えなかった。
「それでは、試験スタート」
ドローン各所から銃弾が飛び出す。
一見ランダムのように見えるが、計算された箇所に撃っているのが分かる。
それを泳ぐように回避する弾を見ながら、容赦なく壊すように命令を下す。
「撃ち落とせ!」
命令に答えるように加速した弾丸が、ドローンに当たる直前に機動を変えた。
「はー今度は簡易電磁シールドですか」
「EMP爆弾のちょとした応用。小型化が済んだとこだったから保険で載せておいた」
「…なんとまあ評価されたもので」
「貴方達はとても面白い。私達には無い発想をいつもくれる」
「…はいはい。少佐殿が喜びますよ」
銃弾はシールドへ近付いては離れる動きを繰り返している
もう一発通常弾を下部に撃って、牽制するか?
持久戦に持ち込めば確実に無力化できるが、それは面白くない。
一つ頷き、能力を切る。
弾丸が運動能力を失い、地上に落下する。
ヒビキが少し嬉しそうな顔をするが、こちらを見て口を閉ざす。
「羽虫が私の弾丸から避けられると思うなよ」
愛銃から銃弾を放つ。
先程までと変わらずドローンに向かう。
ドローンから放たれる銃弾を縫って進み、ドローンの周辺で回転を始める。
「…どうするつもり?」
上下左右もなく延々と回転する銃弾から目を離さずヒビキが考え込む。
ドローン2基の距離が追い込まれたように近くなる。
「成程。竜巻の理論だ。周囲に突風を発生させて、中心に近付ける」
「ドローンの飛行能力より早く正確に飛べる中尉の能力の勝利だね」
「いえ」
中尉は首を横に振る。
「まだです」
その瞬間。
回転していた弾丸がさらに速度を上げた。
ヒュン――という音が一つ。
次いで二つ。
三つ。
空気が鳴る。
ドローン二機の周囲を回る弾丸の軌跡が、もはや一本の輪のように見え始める。
「え?」
ヒビキが目を瞬かせた。
ドローンが距離を取ろうとする。
しかし取れない。
風ではない。
もっと単純な話だ。
周囲から絶え間なく衝撃波を叩き付けられ、飛行姿勢そのものが乱されている。
「飛べば飛ぶほど近付きます」
中尉が欠伸混じりに呟く。
「片方が右へ逃げれば押される。左へ逃げればもう片方に寄る」
「うわ」
「上下も同じです」
ドローン同士の距離がじりじりと縮まる。
迎撃弾を撃つ。
しかし当たらない。
シールドを展開する。
しかし意味がない。
弾丸は機体に触れていない。
ただ周囲を回っているだけだ。
「なるほど」
ヒビキの目が輝く。
「シールドは弾を防ぐ物で、空気までは防げない」
「そういうことです」
そして。
二機のドローンが。
コツン。
軽く接触した。
その瞬間。
中尉の口元が僅かに吊り上がる。
「捕まえた」
回転していた弾丸が進路を変える。
これまで外側を回っていた軌道が、まるで解放されたバネのように内側へ収束した。
ドンッ!!
一発。
ドンッ!!
二発。
至近距離。
シールドの反発が発生するより早く。
装甲の継ぎ目。
プロペラ基部。
センサー部。
弱点だけを穿つ。
二機のドローンが同時に火花を散らした。
「あー……」
ヒビキが頭を抱える。
「また負けた」
「今回はかなり頑張ったと思いますよ」
中尉は銃を肩に担ぐ。
「少なくとも、私が能力を切り札として使った時点で大進歩です」
その言葉にヒビキが顔を上げる。
「本当に?」
「ええ」
中尉は落下したドローンを眺めながら笑う。
「普通の相手なら十分脅威です」
少し間を置いて。
「だから次はもっと無茶苦茶な物を作ってください」
「任せて」
即答だった。
「お陰でいくつかアイデアも浮かんだ。今度は大尉にお願いする」
「あの人銃弾より早く動けますよ」
「だからだよ。挑戦しないエンジニアに価値はないってウタハ先輩も言ってる」
「…ウチもそうですけど。研究者てマッドしかなれないんですかねえ」
今日もミレニアムは平和である。