アラサーTSメスガキ魔法少女に煽られて恥ずかしくないの?♡ざぁーこ♡   作:夏川優希

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1話 最悪の誕生日♡

 

 

(――あ、俺、今日誕生日だったわ)

 

 

 背中に瓦礫の重みを感じながら、七瀬律はそんなことを思い出していた。

 

 今日でちょうど30歳。節目の年である。

 律は同窓会になど行ったことはないが、きっと同級生たちは仕事で結果を出したり、子供ができたり、趣味に熱中したり、それぞれが思い思いの人生を送っていることだろう。

 

 しかし律は違った。

 

 律には子供どころか彼女もいない。

 熱中できる趣味もない。

 というか、自由に使える金と時間がないのだ。

 

 律の働いている会社はいわゆるブラック企業であった。

 低賃金・長時間労働。にもかかわらずのしかかってくる責任は重く、仕事が終われば新たな仕事を振られ、たとえ成果を出しても上司に横取りされてしまう。

 さっさと転職しようと何度も思ったが、深夜残業も休日出勤も当たり前の環境で転職活動に割ける時間もなく。

 転職サイトに登録したは良いがそのままほったらかしにしているような状況である。

 しかし今日、律はそんな人生を終えようとしている。

 

 

「俺、死ぬのか……」

 

 

 天を仰げばいつもそこにあった無機質な天井は崩れて瓦礫の一部となり、すっかり暗くなった空が剥き出しになっている。

 何度もめちゃくちゃに壊してやろうと思った会社のオフィスが本当にめちゃくちゃになっているのは少し笑えたが、しかし笑い事ではない。

 

 〈怪人〉による襲撃が起きたのだ。

 

 怪人とは、異世界からやってきた悪しき精霊により力を与えられた人間のこと。

 どうしてこの会社を狙ったのか、律は知らない。というかどうでもよかった。

 いま気になるのは、律の身動きを奪っている瓦礫をどかせるのかということ。

 そしてすぐそこにまで迫る火の手からどうやったら逃げ出せるのかということ。

 ――いや、本当は律のなかでもう答えは出ていた。

 ここから逃げ出す手立てなどない。

 

 

「誕生日が命日になるなんてな」

 

 

 走馬灯のようにこれまでの人生を思い出していくが――ろくなものじゃなかった、と律は吐き捨てたくなった。

 上司のいいなり。人の顔色をうかがって、間違ったことにも笑顔で頷く。理不尽な目にあってもヘラヘラすることしかできない。

 挙句の果てに、怪人の襲撃時、上司は律を突き飛ばして崩れ行くオフィスから逃げ出したのだ。

 お陰でこのザマである。律は瓦礫に埋もれて身動きが取れなくなった。

 こんな人生で良かったのか。

 こんなことならばもっと好きに生きれば良かった。

 あのクソ上司にもっとボロクソ言ってやればよかった。

 

 しかし後悔してももう遅い。

 すでに律の人生は詰んだ。いくら罵詈雑言を叫んでも上司には届かない。ここからできることなどないのだ。

 そう諦めかけた、その時だった。

 瓦礫の外から声がした。この絶望的な状況に似合わない、子供向け番組のマスコットみたいな声。

 

 

「律さん! 七瀬律さん! 生きていたら返事をしてほしいプイ!」

 

 

 律を閉じ込める瓦礫の隙間からそれは見えた。

 子供向け番組のマスコットみたいな声から連想される、そのまんまの姿。

 猫のような、犬のような、クマのような。

 白いふわふわの毛に覆われた二頭身の生き物がそこにいた。

 〈妖精さん〉と呼ばれる存在である。

 怪人に対抗できる〈魔法少女〉を作り、戦いをサポートするのが彼らの役目。

 ということは、魔法少女が助けに来てくれたのかもしれない。

 律は叫んだ。力の限り叫んだ。

 

 

「ここです! ここにいます! 七瀬です!」

 

 

 良かった。助かった。きっと今にもこの瓦礫をどけて魔法少女が助けてくれる――そう、律は信じていたのだが。

 振り向いて律を見る妖精さんの顔は、困惑に満ちていた。

 

 

「七瀬……七瀬律さんだプイ? 本当プイ?」

 

「そ、そうですよ。七瀬律です」

 

 

 律は首から下げていた社員証を瓦礫の隙間からどうにか見せる。

 妖精さんはそれを見て、次に律の顔をマジマジと眺めて――

 

 

「念のため聞くけど……男性、だプイね……?」

 

「え、はい」

 

 

 ご覧の通り、律はどこからどう見ても男である。

 しかし「律」という名前には少々女性っぽい響きがあり、名前から女性であると勘違いされることがたまにあった。

 そして――まさかとは思ったが――今回も“そう”だった。

 

 

「実は出動してくれる魔法少女がいなくて……転職サイトに登録してるこの会社の女の子を魔法少女にして急場をしのごうと思ったんだプイが……」

 

「えっ」

 

 

 妖精さんは輝くブローチを取り出した。

 変身ブローチ――中央でクリスタルが輝く、魔法少女の力の源。

 それを抱えて、妖精さんはキョロキョロと辺りを見回す。

 

 

「女の子は? 誰でもいいから、女の子はいないプイ? いや、女の子じゃなくてもいいプイ。女性は?」

 

 

 このブラック企業に女性なんているわけない。

 セクハラ・パワハラ上等。深夜残業休日出勤当たり前。まともに帰宅できず、会社都合の風呂キャンが発生するような職場である。

 女性が生きていける環境ではないのだ。

 俺が首を横に振ると、妖精さんは頭を抱えた。

 

 

「ごめんなさいプイ……もうどうすることも……」

 

「ま、魔法少女を呼んでくださいよ!」

 

「今日は日曜の夜だプイ。稼働できる魔法少女がいなくて……」

 

「は?」

 

 

 律は呆然とした。

 身を粉にして働いて、日曜まで出勤して、そのせいで命を落とすというのか。

 そして――そんなのは嫌だと、強く思った。

 

 

「貸せ」

 

「へ?」

 

「ブローチを貸せ! 俺がやってやる」

 

「いや、女の子じゃないと使えないプイ! 30歳ってだけでも厳しいのに、男だなんて――」

 

 

 妖精さんの警告を律は無視した。

 瓦礫の隙間から手を伸ばし、妖精さんのふわふわの手から変身ブローチをぶん取る。

 

 

「俺はもう遠慮しない。全部全部ぶっ壊してやる!」

 

 

 妖精さんの言う通り。

 変身ブローチが力を与えるのは「少女」に対してのみ。

 成人、それも男性に効力を発揮するはずなどない。

 ないはず、なのに。

 アラサー男性である律の手の中で、変身ブローチがにわかに輝き出した。

 律の願いに、変身ブローチが応えたのである。

 

 

「力が、沸いてくる……!」

 

 

 律の全身を魔法の光が包み込む。

 ほとばしる力を確かめるように、律は瓦礫を払い除けた。

 そう、払い除けただけだ。

 今までいくらもがいてもびくともしなかったコンクリート片たちが、まるで発泡スチロールかのごとく飛んでいく。

 律の狙い通り、変身ブローチについた魔法の結晶は律に力を与えたのだ。

 

 ……とはいえ、それは本来は女の子が使うはずのアイテム。

 対象と違う人間が使用すれば、当然“歪み”が起こる。

 律は力が満ちていくのと比例して、自分の目線が低くなっていくのを感じた。

 まるで体が縮んでいるみたいに。

 

 

「……あれ」

 

 

 と、呟いた声は、まるで年端もいかない少女のよう。

 変だ。なにかが変だ。

 律を見る妖精さんの目が大きく見開かれる。

 

 

「あ……あわっ……」

 

 

 その時、律は気付いた。

 妖精さんの大きな瞳。そこに反射した己の姿が映り込み――

 

 

「えっ」

 

 

 呟いた律の姿は、金髪ツインテールの美少女に変貌していた。

 

 

 

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