アラサーTSメスガキ魔法少女に煽られて恥ずかしくないの?♡ざぁーこ♡   作:夏川優希

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11話 役立たず♡スカスカ脳みそ♡淫獣♡

 ときは少し戻り、怪人・キョウゴクを倒したあと。

 キョウゴクに荒らされた部屋の最低限の片付けや怪我人の搬送、そしてキョウゴクの拘束と連行を済ませ、律はさっそく行動に移った。

 つまり、〈黒き森〉の殲滅。

 その本部を目指し、律は天にまで届くような高層ビル群を足下に見ながら飛んでいた。

 

 

(体が軽いなぁ。魔法少女ってこんなことできるんだなぁ……)

 

 

 ゴミゴミした人混みや満員電車から解放され、全身に風と日の光を感じながら気ままに飛ぶ。律の気分は最高だった。

 時々意味もなく高度を下げてなんちゃらタワーやなんちゃらヒルズを足場に大きく跳ねてみたり、アメコミヒーローをイメージしてアクロバティック飛行をしてみたり。

 地を這い泥を啜っていた社畜時代からは考えられない平日昼間からの空中散歩を存分に楽しんでいた。

 ――が、そんな開放感を邪魔する妖精が一匹。

 

 

「待って! 律さん! さすがにそれは無謀すぎるプイ!」

 

 

 律の背後からプイプイの悲鳴にも似た声が聞こえてくる。

 〈黒き森〉の本部に乗り込んで怪人を殲滅させる――そう宣言してから、プイプイは必死に律を止めようとしていた。

 

 

「律さんのことはちゃんと守るプイ! 住む場所もちゃんと用意するからまずは落ち着いて欲しいプイ!」

 

 

 四六時中どこにいようと〈黒き森〉が命を狙うとキョウゴクに恐喝され、律の気が動転してしまったとプイプイは考えたようだ。

 しかし実際には、その考えは少し違っている。

 

 

(まぁ24時間襲われるのはまだ我慢できるけど、それはともかく1円でも多くお金が欲しい……)

 

 

 魔法少女は完全成果主義。怪人を倒せば倒すほど金がもらえる。

 だが怪人も無限にいるわけではない。

 しかも怪人が一カ所に集まっている「狩り場」はそう多くないだろう。その上〈黒き森〉の住所はネットで調べればすぐに出てくる。

 つまり、律はこう考えたのだ。

 

 

(他の魔法少女に取られちゃう前に、俺が独り占めしてやる!)

 

 

 ――実際には〈黒き森〉本部に乗り込む魔法少女など律以外にいるはずもない。

 そこには何人もの魔法少女が束になっても太刀打ちできない怪人が跋扈しており、だからこそ〈黒き森〉本部の住所は隠されていないのである。

 場所が分かっていてもどうにもできない。その自信の表れなのだが。

 

 

(俺みたいな初心者にも倒せちゃうんだから、他の魔法少女ならきっと余裕だよな。多分マイナーな怪人集団だから見過ごされてたんだろうけど)

 

 

 長年ブラック企業でこき使われ暴言を吐かれ続けてきた律は自己肯定感が著しく低くなっている。

 実際には〈黒き森〉幹部を瞬殺したのは凄まじい偉業なのだが、律は「自分ができるのなら他の人も余裕でできる」と解釈してしまったのだ。

 だからプイプイの話にも耳を貸そうとしない。

 

 

「律さーん! 話を聞くプイ!! 損害賠償とかないから!」

 

(心配してくれてるのは分かるけど、そうはいっても引っ越し代とかいろいろかかるし……ゴメン、プイプイ)

 

 

 そしてたどり着いた都内の一等地。

 〈黒き森〉という名に反し、その事務所は街路樹が僅かにあるばかりのコンクリートジャングルの真ん中に位置していた。

 見た目は普通のビル。もっと言えば美しく整備された都会にそびえる綺麗な10階建ての新築高層ビル。

 住所を調べた際にネットで画像は見ていたものの、こうして直接見ると圧巻である。

 なにも知らずにこのビルを見たら、さぞ名のある会社が入っているオフィスなのだろうと考えるに違いない。

 律が数日前まで働いていた黒沢商事が入っていたビルとは比べものにならない立派なそれを見上げ、律は口を半開きにする。

 

 

(すごいビルだなぁ……ここに怪人がいっぱいいるのかぁ)

 

「律さん……待つプイっ、もう止めないからちょっと待つプイ!」

 

 

 少し遅れて、プイプイが追いついてきた。

 ゼイゼイ息を弾ませ、時折えずきながら律の肩にちょこんと腰掛ける。

 

 

「せめてSNSで告知させてほしいプイ。ぼくが配信のカメラも回すから――」

 

「は?♡ SNSってなに?♡」

 

「魔法少女リツの公式トイッターだプイ。さっき作ったプイ」

 

「なに勝手なことしてんのざぁーこ♡」

 

 

 さっきめちゃくちゃになったアパートの部屋で謎にダブルピース写真を撮られたことを思い出し、律は納得半分呆れ半分のため息を吐く。

 が、プイプイにとってSNS戦略は最重要事項。

 ともすれば魔法少女業界の行く末を左右するとすら考えていた。

 立て続けに怪人・ハタナカとキョウゴクを撃破。

 彗星のごとく現れた新人魔法少女の活躍にネット民たちも熱狂している。

 ここでさらに追加の配信をすれば話題になること間違いなし。

 もちろん〈黒き森〉をひとりで殲滅できるなどとは考えていなかったが、ほどほどのところで逃げるという手はある。

 それだけでも〈黒き森〉への鬱憤がたまっているネット民からは賞賛を得られるだろう。

 先ほどの律の飛行能力があれば、うまく逃げられる可能性もあるとプイプイは判断した。

 

 

「危なくなったらすぐ逃げる。それだけは約束して欲しいプイ」

 

「そんなこと分かってるけど?♡ それよりさぁ、魔法ってどう使うの?♡」

 

 

 さっきは魔法が使えず、物理で戦うことになってしまった。

 ここで魔法の使い方をある程度マスターしておきたい。そう思ったのだ。

 が、残念ながら手取り足取り教える暇はないようだった。

 

 

「おい、いたぞ!」

 

「は!? マジかよ……」

 

 

 困惑と警戒の入り交じった声がビルの入り口から響く。

 律たちはまだビルに足を踏み入れていない。遠巻きにビルを眺めているだけだったにもかかわらずだ。

 

 

「うわっ♡ なんでもうバレたの?♡」

 

「……あっ」

 

 

 プイプイの顔がサッと蒼くなる。

 そしてその視線をゆっくりと手元のスマホに落とした。

 プイプイが今さっきしたトイッターへの投稿。その内容がまずかった。

 

 

『【緊急告知】

 夜から配信するよ♡ 

 「〈黒き森〉本部乗り込んでみた生配信♡」

 お楽しみに♡』

 

 

 プイプイに悪気はなかった。ただファンの期待を煽り、配信に人を集めるためにそうポストした。

 しかしその投稿は当然、〈黒き森〉にもマークされている――そんな単純なことを、プイプイは失念していたのだ。

 

 

「バカなの?♡ いい加減にしてよ♡ 役立たず♡ スカスカ脳みそ♡ 淫獣♡」

 

「そんなことより律さん! 前、前見てプイ!」

 

 

 一度引っ込んだように見えた見張りの〈黒き森〉構成員たちが戻ってきた。

 ――その手になにやらゴツい銃を持って。

 

 

(は!? 銃!? ここ、日本だよね!? そ、そうか。もしかして精巧なエアガンとか……)

 

 

 という律の願いを打ち砕くように、その銃口から放たれたのは紛うことなき実弾であった。

 振り注ぐ銃弾を前に律は焦った。

 銃が一般的でない日本で生まれ育ち、映画でしかそれを見たことのない律に正確な対処などできるはずもない。

 律はガムシャラにステッキを出し、しかし魔法の使い方を教わっていないことを思い出し、そして――

 

 

「うらぁっ♡」

 

 

 ガムシャラにそれを振った。

 

 

(な、なにやってんだ俺! 飛んで逃げればよかったのに……ああっ、もう間に合わない! し、死ぬ――)

 

 

 律は次の瞬間蜂の巣になった自分を想像したが、そうはならなかった。

 

 ブウォォォォォンッ!!

 

 ステッキが生み出すのは凄まじい風。

 昨日ハタナカのナイフを弾いた時と同じ、未熟な魔法少女特有の魔力の暴走。

 しかしステッキを通したそれは、昨日の物とは比べものにならない威力だった。

 

 

「ぐわあああああっ!?」

 

 

 それは集まってきた構成員たちを吹っ飛ばすだけにとどまらず、今まさに律を穿たんと迫る銃弾をも無効化。

 さぁどうぞお入りくださいとばかりに道は開かれた。

 

 

「おお……♡」

 

 

 そして律の勘違いは加速する。

 

 

(すごい音でビックリしたけど、やっぱりエアガンだったのかな。よし、このくらいなら俺にも倒せそうだぞ!)

 

 

 そして律は、警察はもちろん魔法少女にすら手出しできないとされてきた最凶の怪人組織の巣窟へとたった一人で、そして結構軽い気持ちで乗り込むのだった。

 

 

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