アラサーTSメスガキ魔法少女に煽られて恥ずかしくないの?♡ざぁーこ♡   作:夏川優希

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19話 メスガキ魔法少女は「仕方がない」って言わないの♡

 

 

 怪人・クロサワの能力。

 それは人形、そして人体――つまり人の形をしている物体を操れるというものだった。

 指から伸びる魔力の糸で対象の体を縛り付けるようにして手足のコントロールを奪う。

 つまり催眠のような能力ではなく、あくまで操り人形のように手足を動かせるだけだ。

 とはいえクロサワはこの能力を実に巧みに利用した。

 

 例えば、邪魔な人間を自殺に見せかけて殺す。

 時には体を操って大切な人に刃を向けさせる。親、恋人、子供――その替えの利かない命を自らの手で奪わせる。

 どんな強靱な精神の持ち主でもその脅迫には抗えない。

 警察、公安、マスコミ。あらゆる人間を黙らせてクロサワは〈黒き森〉を大きくしていった。

 

 そしてその対象は怪人の天敵である魔法少女にも及ぶ。

 魔法少女の体を直接操ることはできなかったが、彼女たちの大切な人を調べ上げて操ることは容易い。

 こうして魔法少女をも押さえつけた結果、〈黒き森〉は最強の怪人組織へと成長していったわけだ。

 

 そして今。

 クロサワはその能力を使って律に二択を迫る。

 

 

「トロッコ問題だよ」

 

 

 クロサワに操られた男1人に女が4人。

 ある者は座卓の裏に仕込まれた剣を。ある者は非常用の斧を。またある者は船内の壁に飾られたサーベルを。

 各々が武器を手に構える。

 しかしその攻撃的な動きとは裏腹に、彼らの顔は涙ながらに悲痛な叫びを訴えていた。

 

 

「黒沢社長!? 笑えないっす、本当に止めてください!」

 

「か、体が勝手に……」

 

「イヤッ! お願い、助けて!」

 

 

 その光景を、クロサワはさも愉快そうに眺めている。

 そして彼は律に問いかけた。

 

 

「選ぶと良い。魔法少女の正義を信じている観客たちの前でこの5人を殺し、私を倒すか。あるいはこの5人を生かすために、痛めつけられながら私をみすみす取り逃がすか」

 

『おいおい、なんだよその二択』

『卑怯だぞ!正々堂々戦えよ!』

『でもボスを取り逃がしたらきっとまたたくさんの犠牲者が出るよな…』

『そうだよな…この5人には本当に悪いけど…』

『怪人に関与してたんだから同罪だろ』

『だからって魔法少女が一般人を殺していいのかよ!』

『そんなところ見たくねぇよ…』

 

 

 この無慈悲な二択を前に、リスナーたちの心も大いに揺れている。

 それはプイプイも同じだった。

 

 

「り、律さん……」

 

 

 ここでクロサワを捕らえて〈黒き森〉を壊滅させるのは妖精さんたちの悲願。

 しかし怪人とは無関係の一般人を殺して良いはずはない。

 警察やマスコミにも暴けなかった〈黒き森〉のボスの正体を暴いた――その話題はネット中を駆け巡り、今や律の配信は25万人もの同接を叩き出している。

 そんな大観衆の前で人殺しなど行えば、魔法少女の信用は地に落ちるだろう。

 その葛藤の狭間で揺れ動き、プイプイは律にかける言葉を失った。

 

 そして――律はひとりで答えを出す。

 大きな瞳に生意気な色を浮かべ、口元を嘲笑的に歪め、可愛らしい声で。

 

 

「どっちもイヤ♡」

 

「……は?」

 

「なんで社長さんに都合の良い二択をリツが選ばなきゃいけないのぉ?♡」

 

 

 そして律は魔力を練り上げステッキを創り出す。

 ハート型のクリスタルがついたその先端を、律はクロサワに向けた。

 

 

「全員救って、社長さんも倒すよ♡」

 

 

 律の宣言にクロサワは一瞬キョトンとして、そしてつまらない冗談でも聞いたみたいに失笑した。

 

 

「そうできたら良いよね。でもそうはいかないんだよ。どんな最悪の二択でも選ばなくちゃいけない。仕方がないんだ」

 

 

 仕方がない。

 律の人生には常にその言葉が付き纏ってきた。

 金がないから修学旅行にいけないのは仕方がない。

 持ち物がボロだからイジメられるのは仕方がない。

 まともな親がいないから大学にいけなくても仕方がない。

 学歴がないから大きな会社に勤められないのは仕方がない。

 頼れる実家がないからブラック企業を辞められないのは仕方がない。

 

 そうやって自分を納得させて、色々なことを諦めて、泥をすするような生活に文句も言わず耐えてきた。

 

 

(その結果、どうなった?)

 

 

 耐え続ければいつか良いことがあるなんて、嘘だ。

 クロサワは私利私欲のため社員を散々搾取し、最後には虫けらのように殺そうとした。

 

 だから律は、もう「仕方がない」を言い訳にしない。

 

 マイペースで、自分勝手で、ワガママ。

 こうしたいと思ったことを諦めない。

 そんなこと、大人になったら許されない?

 でも良いのだ。

 いまの律はアラサーの社畜じゃない。

 メスガキ魔法少女なのだから。

 

 

「二兎追うものは一兎も得ず、だよ」

 

 

 クロサワは指を素早く動かした。

 そこから伸びる糸が複雑に動き、水着姿の美女たちと男を操る。

 泣き喚きながら、しかしその手に武器を持って律に襲いかかる一般市民。

 律はステッキを構えて大きく振る。

 

 

「えいっ♡」

 

 

 その先端から放たれるのは、魔力が作り出す圧縮された風の刃。

 それは操られている男女の頭上――クロサワの操る魔力を編んだ糸へと飛んでいくが、しかし風の刃は糸を切ることはできずにすり抜け、ただ壁を切り裂くだけに終わった。

 

 

「残念だったね。この糸は切れないよ。たとえ魔法少女の力であってもね」

 

 

 クロサワはそう嘲笑う。

 しかし律の狙いは最初から糸ではない。

 

 

「それっ♡」

 

 

 律はステッキをもう一振り。

 瞬間、凄まじい爆風が巻き起こる。

 

 そして――バキバキバキバキィッ!

 

 風の刃で創り出した切れ目に凄まじい風圧が加わり、船の屋根が吹っ飛んだ。

 眩い太陽が剥き出しとなり、船室を照りつける。

 

 

「なっ――!?」

 

 

 クロサワは海の強烈な日差しに目を細めるが、しかしこれで終わりではない。

 律が巻き起こした風は操られている5人の男女をも巻き上げ、吹き飛ばしたのだ。

 

 

「うわあああああああッ!?」

 

 

 断末魔の叫びのような悲鳴を上げながら飛んでいくが、その着地先は海。

 ザパンという音と白波を立てて5人は海面へと落ちる。

 クロサワのクルーザーはかなり大型のものであり、一度海に落ちると自力で這い上がるのは難しい。

 

 

「悪い遊びしてたんだからこれくらいは我慢してよね♡」

 

「なるほど。海に落とせば確かに身動きができなくなるね。でもこんなことで二択からは逃げられないよ」

 

 

 クロサワは悠々とした動きで船室を出て、藻掻く男女を見下ろす。

 そしてその指から伸びた糸を引くと、溺れまいとバタつかせていた5人の手足の動きが止まった。

 

 

「体が動かない! お、溺れる! 助け、助けて――」

 

 

 必死に助けを乞う口も、次の瞬間には海に沈んで波の音しか聞こえなくなった。

 

 

「四肢の動きを止めた。このままだと溺れ死んでしまうよ。君が突き落としたせいでね。君が殺したのと同義だ」

 

 

 そしてクロサワはさらに新しい糸を足元へと伸ばす。

 甲板を突き破って出てきたのは、成人男性より一回りも二回りも大きな鋼鉄製の人形。

 甲冑を纏った中世の騎士を思わせるその人形は、剣と盾を構えて律の前に立ち塞がる。

 

 

「人間が溺死するまでおおよそ3分と言われている。早く助けないと――」

 

「そんなにいらないよ♡」

 

 

 律はそう言って、甲板を蹴る。

 高く高く跳躍した律は、ステッキを振りかぶり、そして――

 

 

「1分あれば余裕だもん♡」

 

 

 ガッッッッッコン!!!

 凄まじい金属音を響かせながら、振り下ろされたステッキは人形の頭にめり込んだ。

 さらに一発。もう一発。まだまだ――

 振り下ろされるたびに人形は潰れ、抵抗しようと動いた腕は吹っ飛ばされ、あっという間に原型の分からない鉄屑へと変貌する。

 

 

「っ……くっ! このっ!」

 

 

 いくらクロサワが指を動かしても、もうその人形には操れる腕や足がない。

 

 

「それっ♡」

 

 

 律はその鉄屑を蹴り上げ、海へと落とす。

 それは為す術なく、あっという間に海底へと沈んでいった。

 そして律は口元から八重歯を覗かせて、クロサワに生意気な嘲笑を向ける。

 

 

「あれれ?♡ 社長さん♡ もう使える駒がなくなっちゃったね♡」

 

 

 ここは海の真ん中。

 自らの正体を隠しながら悪事を働くために用意した船が、いまや逃げ場のないデスマッチの舞台と化した。

 そしてあらゆる怪人を打ち倒し、いま目の前で鋼鉄の人形をスクラップにしてみせた律が、輝くステッキを手にクロサワに迫る。

 

 

「それで、どうする?♡」

 

「ひっ」

 

 

 クロサワは小さく悲鳴を上げて一歩後退りする。

 もはやこの船上に、クロサワの操れるものはひとつもなくなった。

 生身で律に対峙するしかないが、しかし武力で敵うはずはない。

 追い詰められたクロサワは律を懐柔しようと口を動かすしかなかった。

 平静を装い、敵である律に拍手すら送ってみせる。

 

 

「素晴らしい。素晴らしい力だ。君と一緒なら世界を掌握できる! 手を組もう。もちろん上司と部下ではなく、公平なビジネスパートナーとして――」

 

 

 余裕を感じる表情、ゆったりした口調、なにかを成し遂げそうな目力。

 むせ返るような"なんかすごそうな気配"を浴びてなお、律は表情を変えない。

 なぜなら律はこれが薄っぺらい空っぽの虚像であることを嫌というほど知っているからだ。

 

 

「中身がない♡」

 

「――え」

 

 

 それは、激務と寝不足で頭がボンヤリしていた社畜時代から律がうっすらと思っていたこと。

 しかし会社では口が裂けても言えなかったこと。

 でも、今なら言える。思う存分に。可愛らしい声で。

 

 

「ハリボテ♡ 威勢のいいこと言ってるだけで中身空っぽ♡ 詐欺師とおんなじ♡ ネズミ講とかやってそう♡」

 

「……は?」

 

「てか結局社長さんってなにもやってないじゃん♡ 部下の後ろに隠れてお人形遊びしてただけ♡ 全然ざこだよね♡」

 

 

『言いやがったwwwwwww』

『【悲報】〈黒き森〉のボス、どんなスゲーやつかと思ったら全然ざこだったwwwwwwwwww』

『メスガキ魔法少女の前ではどんな大悪党もただのざこwww』

『顔真っ赤♡みっともなぁい♡』

『クロサワ社長ざぁーこ♡』

 

 

 裏社会でも表社会でも様々な組織のトップとして大人たちに尊敬され、ゴマをすられ、意見を求められる存在だったクロサワが、公衆の面前でメスガキに罵倒されている――その事実はクロサワにとって屈辱の極みであった。

 しかしステッキを手に迫る律に対抗する手立てがクロサワにはない。

 よって、クロサワは罵倒に顔を赤くしながら、しかし律に攻撃をやめるよう“お願い”を続ける他ないのだ。

 それがどんなに屈辱であっても。

 

 

「待ってくれ。君は黒沢商事の関係者だろう!? なにが望みだ? 金なら出す。いくらだってやる! しかし私を倒せば、保証は受けられなく――」

 

 

 しかし散々搾取されてきた律が、再びクロサワの甘言に耳を貸すはずもなく。

 律は無慈悲にステッキを振り上げる。

 

 

「あ、1分過ぎちゃった♡ 時間ないからとりあえず殴るね?♡」

 

「えっ、えっ。ちょっと、待っ――」

 

 

 ゴンッ――

 鈍い音が快晴の青空の下に響き渡り、クロサワは受け身も取らず甲板に崩れ落ちる。

 たくさんの人命や財産を、そしてかつての律から命をも搾取しようとしたクロサワの背中をその小さな足で踏みつけ、律はこう宣言する。

 

 

「はいリツの勝ち♡ ざぁーこ♡」

 

 

 瞬間、配信画面には凄まじい数のコメントが流れる。

 

 

『うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!』

『メスガキTUEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!』

『ほんとにやりやがった…〈黒き森〉壊滅させやがった!!!』

『しかもたった1日でだぞ!!?俺は夢を見てんのか…?』

『こんな日が来るなんてな…ずっと〈黒き森〉に蹂躙されるばっかりだと思ってたのに』

『なんか涙出てきた』

『おい!!!しんみりしてんじゃねぇ!!!!この偉業を拡散すんだよ!!!!』

『メスガキ魔法少女がたった1人で、しかも1日で〈黒き森〉壊滅……みんなすぐには信じないかもなwwwwwww』

 

 

 この配信を固唾を飲んで見守っていた25万人以上のリスナーたちにより、律の活躍と〈黒き森〉の壊滅はまたたく間に拡散。

 トイッターのトレンドランキングは「黒き森壊滅」「ざぁこ♡」「メスガキ魔法少女」「クロサワ」「はいリツの勝ち♡」などの関連ワードが席巻。

 匿名掲示板にはスレッドが乱立。

 ネットニュースには〈黒き森〉壊滅を知らせる見出しが並び、コメント欄には律の偉業を称える言葉であふれた。

 

 こうしてネットのあらゆる媒体を介し、律の活躍は日本中に知れ渡ることとなった。

 

 

 

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