アラサーTSメスガキ魔法少女に煽られて恥ずかしくないの?♡ざぁーこ♡   作:夏川優希

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3話 怪人とかダッサ♡

 

 怪人・ハタナカは一際大きくマントを翻す。

 そのマントの裏に仕込まれていたナイフには持ち手がなく刃が剥き出しの状態であった。

 つまり握って使うことを前提としていないものということ。

 ではどうするのかというと。

 次の瞬間、ナイフがひとりでにふわりと浮き上がった。

 

 

「しつけのなってないガキは嫌いだ」

 

 

 律を取り囲むようにして、いくつものナイフが宙に浮いている。

 まるで手品のようだが、違う。

 魔法少女が魔法を使えるのと同じく、怪人たちも各々特殊な能力を持っているのだ。

 ハタナカの場合はいわゆる念動力(サイコキネシス)

 律の会社が入っていたビルを破壊し、巨大な瓦礫で横槍を潰してみせたのも彼の能力である。

 人々の命や財産をたったひとりで効率的に奪うことができる――ハタナカが〈黒き森〉の切り込み隊長を務める所以である。

 

 

「もちろん最初から殺すつもりだったが――」

 

 

 そしてハタナカはその指を律に向ける。

 

 

「楽に殺してやらない!」

 

 

 瞬間、宙を浮く数十本ものナイフが一斉に律へと放たれる。

 

 

『律さんっ……!』

 

 

 瓦礫の陰から見守っていた妖精さんは思わず口元に手を当てる。

 こうなってしまったら、もはやかける言葉などない。

 ハタナカと魔法少女が交戦した記録はいくつもあるが、ベテランの魔法少女といえどハタナカの攻撃を無傷でやり過ごせた者はいなかった。

 それが、たったいま魔法少女になったばかりの、それもアラサー男性の魔法でどうにかできるはずもない。

 

 

「ボクと出会ったこと、後悔するがいい!」

 

 

 次の瞬間に起こる惨劇を想像し、妖精さんは思わず目をつむるが――

 

 

「ざぁーこ♡」

 

 

 瞬間、一迅の風が崩壊したオフィスを駆け抜けた。

 それは単なる風ではない。

 魔法少女の体をほとばしる魔力の暴走。

 それ自体は珍しいことではない。特に魔法少女になりたてで、魔力をコントロールする訓練を受けていない初心者にありがちだ。

 

 魔力というのは水に例えられることが多い。

 一点に集中させて強く噴出すれば鋼鉄にだって穴をあけられるが――全身からただ垂れ流すだけではなんの効力も生まない。

 魔力の暴走とはそういうもののはずだ。

 しかし律のそれは違った。

 例えるなら、それは洪水。

 

 

「なっ……!?」

 

 

 ハタナカは目を見張った。

 雨のごとく降り注がんとしていたナイフが、律の魔力によって弾き飛ばされたのである。

 無惨に折れ曲がり、飛び散ったナイフを踏みつけるようにしながら律は口元に手を当ててハタナカを嘲笑する。

 

 

「投げナイフとか厨二すぎ♡ 発想が中学生♡ 冗談はクソダサマントだけにして♡」

 

「舐めやがって……ぶっ殺してやる!!!」

 

 

 そう叫んでハタナカは地面を蹴った。

 痛めつけるなんて発想はもはやなかった。

 一秒でも早くこのムカつくメスガキの口を潰してやる。後悔なんてする暇もなく命を奪って、痛めつけるのはその後でいい。

 それだけを原動力に、動く。

 しかし次の瞬間、顔面に衝撃――ハタナカは受身も取れず瓦礫に突っ込んだ。

 なにが起きたのかを理解するのは簡単なことではなかった。

 

 

「ムキになっちゃって情けない♡ オトナなのに恥ずかしくないの?♡」

 

 

 ハタナカは己の顔を手で拭う。ヌルヌルした赤いものが手についた。血だ。

 そして同じものが律の拳にも付着していた。

 殴られたのだ。素手で。しかもこんな小さな子供に。

 

 

「ふ、ふざけ――」

 

 

 と起き上がろうとしたハタナカはまたしてもその後頭部を瓦礫に打ち付けることとなった。

 律はその小さな体でハタナカに馬乗りとなった。

 そして、パンチ。

 パンチ、パンチ、パンチ、パンチ。

 ガッ、ゴッ、バキッ、ボギィッ!!

 えげつない音を響かせながら、律はその小さな拳でハタナカをタコ殴りにする。

 マジックアイテムも使っていない、魔力のコントロールもできない初心者による素手の攻撃。

 にもかかわらず、ハタナカは反撃に転じることすらできない。

 

 

「ガッ! ぐっ!? ガハッ!! ブフォッ!?」

 

「変な声♡ 顔真っ赤♡ 鼻血が出てるよ♡ オトナなのに♡」

 

 

 一撃食らわせるごとに、律のメスガキ煽りも炸裂。

 そして律は一際高く腕を振り上げて――

 

 

「ざぁ〜こ♡」

 

 

 バキィッッッ!

 魔力の籠もった拳がハタナカの顔面にめり込み、そしてピクリとも動かなくなった。

 まさかまともにマジックアイテムも出せないような魔法少女にやられるだなんておもってもみなかったろう。

 しかし一番驚いていたのは律本人だった。

 

 

(よ、よかった! よく分かんないけど、なんとかなった……)

 

 

 律に人を殴った経験などない。

 とにかく無我夢中だったが、どうにか倒すことができた。

 瓦礫の上に、律は崩れるように腰を下ろす。

 天を仰ぐといつもの無機質な天井ではなく、輝く星々が目に入った。

 疲れた。怖かった。酷い目にあった。目の前で上司が怪人に潰された。

 恐怖で震えてもおかしくない状況。

 にもかかわらず律の心はどういうわけかすごく晴れやかだった。

 

 

(あー、ビール飲みたいなぁ。それで、ええと、どうやったらこの変身解けるんだ?)

 

 

 律は知らない。

 元の男の姿に戻るすべがないことを。

 そして――

 

 

「す、すごいプイ。逸材を見つけてしまったプイ。みんなもそう思うプイ?」

 

 

 妖精さんはスマホのカメラを律に向けながら、画面に向けてそう語りかけた。

 すると画面にいくつものコメントが流れる。

 

 

『なにこの子すごwwwwwww』

『しかもかわいーwwww』

『初めての戦いでこれ!!?』

『たったひとりでハタナカ倒しちゃったよ…』

『しかもめちゃめちゃ煽ってて草』

『これは〈黒き森〉のメンツも丸潰れだなwwwww』

『今ごろ幹部連中顔真っ赤にしてるだろうなwwwww』

『ざまぁwwwwwww』

『こんな子がまだ隠れていたとは』

『プイプイもようやくツキが巡ってきたね』

 

 

 律とハタナカの戦いが妖精さんによって動画配信されていたこと。

 あちこちで悪事を働き、しかしその強さから誰も手出しできなかった〈黒き森〉に一発食らわせた律の評判はまたたく間にネット中を駆け巡り一躍時の人となっていること。

 そして当然、〈黒き森〉の連中もこの動画を見ることになることも。

 

 この時の律には、知る由もなかった。

 

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