アラサーTSメスガキ魔法少女に煽られて恥ずかしくないの?♡ざぁーこ♡   作:夏川優希

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5話 ビール飲ませてよ♡けぇーち♡

 

 その日は律の人生の中でもっとも長い1日になった。

 瓦礫に押しつぶされ死にそうになり、メスガキ魔法少女になり、怪人を倒した。なにを言っているのか分からないと思うが、律もよく分かっていない。

 

 

(ダメだ。こんな日は呑まなきゃやってられない)

 

 

 律は光に引き寄せられる蛾のようにふらふらとコンビニに入り、そして缶ビールを3本ほどレジに持っていく。

 財布を開いて会計の準備をするが――しかしいつまで経っても店員がレジ打ちをする様子はない。

 様子がおかしいことに気が付いて顔を上げると、店員の中年女性がギロリと律を睨んでいた。

 

 

「ダメじゃない。未成年がお酒なんか買っちゃあ」

 

「……30歳ですけど」

 

「嘘ついちゃダメよ」

 

 

 律はダメ元で財布から免許証を出し、店員に提示してみる。

 免許証の中の冴えないアラサー男の顔写真と目の前の金髪ツインテールの美少女の顔を見比べ――るまでもなく、店員はそれを律に突き返した。

 

 

「これは大事なものだからちゃんと元の持ち主に返してあげるのよ」

 

「けぇーち♡」

 

 

 言ったあと、律は慌てて口を押さえた。

 そして逃げるようにコンビニを後にし、夜道をトボトボ歩いて行く。

 

 

(いや、そりゃそうだよな。どう考えても30歳には見えないし……)

 

 

 律は己の金髪ツインテールを指で弄んだ。

 そう、戻れなかったのである。

 正確に言えば魔法少女の変身は解けた。しかし変身を解いても律の体は少女のまま。

 しかも魔法少女のときほどは酷くないが、油断すると先ほどのようにメスガキ煽り言葉が出てしまう。

 律は途方に暮れていた。

 

 

「これから一体どうすればいいんだよっ!」

 

 

 会社から徒歩10分。

 築40年のワンルームボロアパートに戻るやいなや律は嘆いた。

 もちろんこのアパートの壁の薄さを律はよくよく知っている。こんな夜中に大声を出すとお隣さんから無慈悲な壁ドンが飛んでくるため、声量は控えめにしていた。

 

 

「会社が文字通り潰れただけでも大変なのにこんな姿になって、しかも油断すると煽っちゃうんだぞ!? 一体どうやって生活していけばいいんだよ!」

 

 

 律は自販機で買った缶のコーラを呷った。

 アルコールは一滴も体の中に入れていないのだが、まるで面倒な酔っ払いのようにくだを巻く。

 その相手をしているのはあの白いふわふわの妖精さん。名をプイプイと言った。

 

 

「こ、こんなことは初めてで……ぼくにもどうしていいか分からないプイ。前例がないんだプイ」

 

 

 プイプイの宣告に、律は絶望的な気分になる。

 見た目がどうあれ律は大人だ。自分の稼ぎで生活していかなくてはならない。

 律の勤めていた会社、“黒沢商事”は言うまでもなく超ブラック企業である。

 低賃金・長時間労働の黒沢商事に搾取されていたせいで貯金はほぼなく、収入がなければ来月からの家賃も払えない有様。

 しかし働こうにもこの見た目とうっかり出てしまう「ざぁ~こ♡」を許容してくれる職場などあるのか。いや、あるわけがない。

 

 

「もうダメだ、オシマイだ。このまま飢え死にするんだ!」

 

「ええと、律さんが泣いてるのはお金が原因なんだプイ?」

 

「そうだよ! 他にないだろざぁーこ♡ あっ、また出ちゃった……」

 

 

 律はジメジメした万年床に顔を埋めてメソメソ泣く。

 その横でオロオロとしながらも、プイプイは呟いた。

 

 

「さ、30万円」

 

「へ?」

 

 

 律は顔を上げた。プイプイがそのふわふわお手々で「3」を示しているのが目に入った。

 

 

「怪人を1体倒すごとに30万円お支払いする取り決めになってるプイ。だからさっきハタナカを倒してくれた分の30万円はすぐ渡せるプイ」

 

「……30万円?」

 

 

 律がキョトンとした顔でそう繰り返すと、プイプイは申し訳なさそうにうつむいた。

 

 

「その、少ないのは重々承知プイ。命がけで戦ってくれたのに申し訳ないプイが、どうしても協会でお支払いできるのはそれくらいで。ご理解いただきたいプイ……」

 

 

 律は泣いた。

 先ほどのメソメソ泣きとは違う。

 号泣だった。滝涙だった。プイプイがギョッとするのが分かった。

 

 

「ご、ごめんプイ! 報奨金をもっと上げてもらえるようにぼくらも行政に掛け合っている途中で――」

 

「そんなにくれるのか」

 

「……えっ?」

 

 

 今度はプイプイがキョトンとする番であった。

 涙の理由を律はこう説明する。

 

 

「30万円ってうちの月給より多いよ。手取りじゃなくて、額面で」

 

「お、おおう……律さんは労基に行ったほうがよかったプイ……」

 

 

 プイプイは少しだけ引いて、そして不意に考え込むような仕草を見せる。

 そして上目遣いで律を見た。

 

 

「……もっとお金がほしいプイ?」

 

「え? そ、そりゃもちろん」

 

 

 ぶんぶんと律は激しく頷く。

 お金があって困ることなどない。特にこんな体になってしまったのだから、先立つものは少しでも欲しい。

 それを受けて、プイプイは切り出した。

 

 

「提案なんだけど……本格的に魔法少女をやらないかプイ?」

 

「は!? 魔法少女!? 俺が!? 男なのに!? あの、自信ないんだけど……」

 

 

 火事場の馬鹿力というのか。さっきの怪人はたまたまうまく倒せたが、もともと律は他人と争うようなタイプではない。

 だからこそパワハラ上司に反抗もできなかったわけだ。

 しかし。

 

 

「成人男性が魔法少女になるなんて前代未聞だプイ。分からないことだらけだけど、でもこれだけは分かるプイ。律さんは魔法少女の天賦の才があるプイ」

 

「え……ええ? 天賦の才……?」

 

「それに、正直ただでさえ魔法少女の数が足りていないんだプイ……律さんの助けが必要プイ」

 

 

 律が上司からかけられる言葉といえば「無能」「ゴミ」「嫌なら辞めろ」。

 実力を認められ、必要だなんて言われたのは初めての経験だった。

 さらにその待遇面も律にとっては魅力的な要素だった。

 

 

「魔法少女は完全に出来高払いだプイ。倒すのに3分しかかからなくても1体につき必ず30万円お支払いするプイ。成果を出せば出すほどちゃんとお給料が振り込まれるプイ」

 

「成果を出せば出すほど……!」

 

 

 働けど働けど成果は上司に横取りされ、次から次へと仕事が振られて消耗していく。

 "定額働かせ放題"――そんな働き方をしてきた律にとって、成果を出せばその分の報酬がもらえるという当たり前とも言える制度がとても輝かしいものに感じられた。

 

 

「俺やるよ。魔法少女、やる。っていうか他にできることないしっ!」

 

 

 勇ましく声を上げて、万年床から立ち上がる。

 が、少々力みすぎてしまったようだ。その声に反応してか、隣の部屋から壁を殴る「ドンッ」と言う音が響く。

 律は口元に手を当てて、「怒られた……」と呟きながらまた万年床に腰を下ろした。

 

 

「あと、もうひとつお願いがあって……さらに儲かるかもしれないお話なんだけど……」

 

「えっ? なになに?」

 

 

 プイプイの言葉に、律は身を乗り出して尋ねる。

 プイプイはすこしだけ迷うような素振りを見せたが、やがてこう切り出した。

 

 

「生配信をやってほしいんだプイ」

 

「……へ? 配信? なんで?」

 

 

 芸能人や可愛い女の子、時には3DCGのアバターがゲーム実況や雑談などをネットで配信するのが流行っているということは世情に疎い律も知っていたが。

 どうして魔法少女が配信などするのか。

 

 

「魔法少女がみんなからの応援でパワーアップできるのは周知の事実だプイが、最近の研究でそれがネットを介しても効果があることが分かってきたんだプイ。それで――」

 

 

 そこまで言って、プイプイは少し言い淀んだ。

 

 

「あのー、そのー、実は少しでも律さんの助けになればと思って、ハタナカとの戦いを配信してたんだプイ。それがその、結構バズって」

 

「ふーん? そうなの?」

 

 

 魔法少女には根強いファン、通称「大きなお友達」が結構いる。

 その界隈の中でちょっとした話題になったのだろうくらいに律は思っていた。

 だから、軽い気持ちで検索した律はスマホを手に固まる。

 

 

「えっ」

 

 

 まさか切り抜き動画が数時間で100万回再生を突破し、トレンドランキングを「メスガキ」「ざぁーこ♡」「ハタナカざっこ♡」などの関連ワードで席巻し、匿名掲示板にはスレが乱立し、まとめサイトがこぞって取り上げ、ネット中の至る所に律の画像が貼られている――そんなことになっているなんて夢にも思っておらず。

 

 

「ええええええええええええええうええっ!?」

 

 

 と思わず叫び、隣人からの盛大な壁ドンを食らうのだった。

 

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