アラサーTSメスガキ魔法少女に煽られて恥ずかしくないの?♡ざぁーこ♡ 作:夏川優希
絶望は怪人を強くする。
絶望の中に光を見出したルークは怪人として天性の能力を秘めていた。
このまま彼を育てていけば、きっと最強の怪人になれる。
そう確信していたものの――みゃうみゃうはいまいちルークのことを理解できないでいた。
「どういうつもりだみゃ」
「なにが?」
「魔法少女たちを逃がしたみゃ?」
廊下を歩みながらとぼけるルークに、みゃうみゃうはずいっと顔を寄せる。
「魔法少女を怪人にすればより強力な能力を得られる可能性があることは教えたみゃ。なのにどうして邪魔するみゃ」
「強力な能力が得られたってこっちに協力する意思がないんじゃ役に立たないどころか脅威になるだろ。それに
〈化蛇〉はなんだかんだ理由をつけて律との戦いを避けている。
彼らの目的は日本に根を下ろし、効率的に組織を大きくすること。
そのためには天敵である律との戦闘を避けるべきだと青龍は判断し、こんな異空間に身を隠しているのだ。
魔法少女を怪人に仕立てようとしているのも、律に対する人質として扱うことを計算しているのかもしれない。
それはみゃうみゃうにも分かっているが。
「もしかしたらあいつらが律を呼んでくれるかもしれない。そうすれば臆病者の〈化蛇〉も戦わざるを得なくなるだろ?」
「……ルークは"怪人の能力を奪う"っていう能力を得たみゃ。怪人を殺すことで能力が奪えるみゃ」
「いちいち言われなくても分かってるよそんなこと」
小言を言うお母さんをあしらうときのような、鬱陶しさを隠さない軽い口調で答えるルーク。
しかしみゃうみゃうの視線は鋭い。
「じゃあなんで怪人収容所でクロサワを殺さなかったみゃ」
クロサワの人や人形を操る能力は汎用性が高い。
〈黒き森〉が警察などの公的機関から逃れ、あそこまで大きくなれたのもクロサワの能力があってこそ。
彼のやり方をそのまま模すだけでもある程度の効果が得られただろうに、ルークはクロサワをみすみす逃した。
一体どういうつもりなのか、とみゃうみゃうはルークを静かに問いただしているのだ。
しかしルークの返答はあっさりしたものだった。
「だって、クロサワの能力なんて別にいらねぇし。情報を教えたら殺さないって約束したしな」
「……情報?」
「そう。〈黒き森〉には変身能力を使えるヤツがいるって聞いてたからさ。律が〈黒き森〉の本部を襲撃したときのどさくさで行方不明になってたからワンチャンどっかで生き残ってないかなって思ってたんだけど、やっぱりクロサワが殺してたらしい。同じような能力を持ってるヤツも知らないって」
ルークは苦笑しながら己の纏う白いドレスを見下ろす。
纏っている服――フリルのたくさんついた白いドレスは優美なデザインに似合わぬ重さがある。その状態で美しい立ち居振る舞いができるようになるまで、靴擦れができて足から血が出るくらい何度も何度も鏡の前を歩いた。
「変身能力があれば楽だったのに。もう死んじゃってるなんて、本当に残念だったなぁ」
ルークが怪人収容所に襲撃したのは、それが理由だったのだ。
怪人・キサラギの持つ変身能力。
それがあればルークはもっと楽に美少女に変身することができた。
他の能力は、ルークにとっては「もらえるならもらっておくか」という程度のおまけでしかない。
ルークの目的は強くなることではないのだ。
だからルークはクロサワを殺さなかった。
しかしみゃうみゃうはますますわけが分からなくなる。
「なんでルークはそんなにまでして女の子になりたいんだみゃ?」
するとルークは不敵な笑みを浮かべ、こう呟く。
「相手の好みに合わせるのは当然だろ」
「リツは女の子が好き……ってことかみゃ?」
ルークは答えない。
質問に答えないままはぐらかそうとしているのかとみゃうみゃうは思ったが――違った。
ルークは全感覚を研ぎ澄ましていたのだ。
「――来た」
その直後。
凄まじい轟音がどこかから響いた。
***
「うふふ。またボクの新しいママ候補が――」
「えい♡」
「うぎゃっ!?」
能力を発動させる余裕など与えない。
律は赤ん坊の怪人を容赦なく殴打。
吹っ飛び、壁に叩きつけられた怪人は白目を剥いて床に転がる。
怪人とはいえ赤ん坊に手をあげるなんて――というコメントがリスナーから飛んできそうだがもちろん心配はいらない。
怪人になるという意思を表に出せない年齢の赤ん坊が怪人化することはできない。
律の殴打によって意識を失ったその怪人は、みるみるうちに巨大化し、赤ちゃんみたいな顔をした小太りのおじさんに姿を変えた。
「こんな小さい女の子に赤ちゃんプレイ強要とか♡ キツ♡ おじさんなのに♡ 普通は赤ちゃん抱いてる歳でしょ♡ 恥ずかしくないの?♡」
その様子は律と共にカバンから飛び出してきたプイプイによって当然配信されている。
『おそろしく突然の配信。オレでなきゃ見逃しちゃうね』
『開幕からフルスロットルで草』
『赤ちゃんおじさんはキツいっす』
『なぜ怪人には変態が多いのか』
いつもとあまり変わらないコメント。
どうやらリスナーは律の変化に気づいていないようだ。
実のところ、律はぶち切れていた。
敵にではない。
もちろんセイラやルナやカナコにでもない。
自分自身にだ。
(こんなボロボロになって……俺のせいだ)
3人に潜入捜査など頼まなければ。
どうにかして自分も潜入捜査についていっていれば。
セイラのカバンに仕込んでいたチャックを中からも開けられるようにしておけば。
そもそもセイラだけではなく、他のふたりにも律を呼び出すための"奥の手"を教えておけば良かった。
律に依存するふたりの自主性を育てたいだなんて、悠長なことを考えている場合ではなかったのだ。
とにかく、もっと自分が慎重になっていればと律は悔いていた。
見た目はともかく中身が年長者である自分が若者を守らないでどうする、と。
過ぎたことを変えるわけにはいかないが、未来に向けて動くことはできる。
ここから律にできる罪滅ぼし――それは無知な若者を食い物にし、大事な仲間をボロボロにした謎の組織を完膚なきまでに叩きのめすこと。
「セイラはふたりを連れて、バッグの中の異空間に避難してて♡」
「分かりました……けど、リツさんは?」
律はすぐには答えない。
ただ顔を上げ、ステッキを振りかぶる。
「おらっ♡」
ステッキから飛び出た風が凄まじい轟音を立てながらコンクリートの分厚い壁を吹き飛ばす。
舞う砂煙にも瓦礫にも臆さず、律は足を踏み出した。
いつもの生意気な笑み。口から覗く可愛い八重歯。しかし瞳には確かな怒りを宿して。
「リツを怒らせたこと、後悔させてあげるんだから♡」