アラサーTSメスガキ魔法少女に煽られて恥ずかしくないの?♡ざぁーこ♡ 作:夏川優希
『マズいマズいマズいマズい!!』
腕に蛇の入れ墨を入れた男は母国語でそう叫んだ。
男が食い入るように見ているモニターには監視カメラがとらえた金髪ツインテールの魔法少女が壁を破壊しながら建物の中を歩き回っている様子が映し出されている。
「リーくんさぁ、日本語しゃべってよ……って言いたいとこだけど、不思議となに言ってるか分かるなぁ」
男に話しかけてきたのは、眼鏡をかけた小太りの男。
「なにのんきなこと言ってるんだ大峰! このままじゃ俺もお前も殺されるんだぞ!」
どういうカラクリかは分からないが、魔法少女の出したカバンからリツが飛び出してきた。
魔法少女を脱走させたのはルークだが、彼女たちの監視を任されていたのはこのタトゥーの男、リーである。
青龍はその責任をリーに求めるであろうことは想像に難くない。
「山に埋められるか、海に沈められるか……」
リーは自分の近い将来を悲観して思わず泣きそうになる。
しかし小太りの男、大峰は飄々としたものだった。
「問題ないよ。むしろチャンスだと思ってる」
「どこがチャンスなんだよ!」
「うちの可愛い怪人を解き放つチャンスだって言ってんの!」
大峰は嬉々として言い放つ。
操作盤を凄まじい勢いで引っかき回すと、あちこちから巨大な試験管の割れる音が響いた。
大峰が作った強化怪人たちが目を覚ましたのだ。
「あははははは! いけいけ俺の子供たち! 魔法少女を殺せ!」
あちこちイジられた強化怪人の異様な姿にリーは「うげぇ」と舌を出した。
「さすがは日本の学会を追放された男だな」
「うひひ。倫理がどうとか言っていたら科学は進んでいかないよ。〈化蛇〉は自由にさせてくれてありがたいんだけど、全然実戦をさせてくれないのが不満だったんだよね。青龍さんは慎重すぎるよ」
大峰はヒーローアニメを見る子供のごとくキラキラ輝く目をモニター群に向ける。
試験管の中に閉じ込められていた鬱憤を晴らすかのように大量の怪人がリツをめがけて疾走。
リツの小柄な体に、凄まじい数の怪人が覆い被さる。
「見たか、この数の暴力! 圧倒的物量に潰れろ魔法少女ォ!」
大峰は拳を振りながら歓声を上げ、リーも希望に顔を輝かせる。
しかし次の瞬間、輝く光と共に怪人たちが弾き飛ばされた。
『ざこ怪人がいくら集まってもざこはざこ♡』
ステッキを振りまくり優雅に怪人を蹴散らしていくリツ。
下手に希望を抱いた分、リーの落胆は大きい。
「ダメじゃんか! どうすんだよ!」
リーはほとんど泣きながら、固まる大峰の肩を大きく揺する。
しかし大峰は落胆や絶望で固まっていたのではない。
その瞳に宿っているのは、怒りだった。
「お前は俺を怒らせた」
大峰は固く握った拳を操作盤へ叩きつける。
その先にあったのはガラスのケースで守られた赤いボタン。
「な、なんかどう見ても押しちゃいけないボタンじゃないのかそれ」
「ある意味ではそうだね」
大峰の言葉の意味をリーはすぐに理解することになる。
たくさん並んだモニターのひとつが映し出すのは、スキンヘッドの大男。
大男と言っても通常のそれではない。
アメリカのバスケットボール選手を見下ろすかのごとき長身、重厚な筋肉の鎧に覆われた強靱な肉体。
一目で強いと分かる怪人だ。
しかしなぜこの怪人を解放するボタンがガラスで覆われているのかも一目で分かった。
『うおおおぉぉぉぉぉ!』
巨木の幹のごとき腕を振るうと、コンクリート製の壁がビスケットのように砕け散る。
それは目に付いたものをただ破壊しているといった感じだ。
まるで知性が感じられない。
「大量破壊怪人だ。できれば出したくなかったが仕方ない。なにもかもを破壊するか、己が破壊されるまで止まらないぞ」
「この建物崩れたりしないよな……?」
壁を壊しながら進む大量破壊怪人。同じく壁を壊しながら進む魔法少女リツ。
やがて破壊神2柱はぶつかり合う。
『え、おじさん全裸?♡ おまわりさん呼ばなきゃ♡ でも見せびらかすほどのものでは……♡』
『うううう……ぐおおおおお……』
リツを睨む大量破壊怪人。
大量破壊怪人の股間を見てニヤニヤとするリツ。
そして次の瞬間。
勝負は一瞬でついた。
『ぐううう……ぐおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!』
大量破壊怪人は雄叫びを上げ――リツに背中を向けて逃げ出した。
「へ? どゆこと?」
リーは呆然と呟く。
大量破壊怪人は人間のような知性を失った代わりに、動物並みの鋭い勘を獲得した。
その勘が叫んだのだ。
この少女と戦うな。今すぐ逃げろ――と。
しかしもちろん、逃がすはずはない。
『見せ逃げは許さないよ♡ 露出狂おじさん♡』
リツは逃げる怪人の後頭部をステッキで殴打。
ゴッッッッ! という凄まじい音を立ててハートのクリスタルが頭にめり込み、怪人は砂煙を立てながら瓦礫の上に倒れ伏した。
そしてリツは不意に監視カメラを見上げる。
目が合ったような感覚に襲われ、リーは思わず情けない悲鳴を漏らした。
「くそっ……なにが大量破壊怪人だよ! 破壊したの壁だけじゃねぇか! おい……おい?」
返事がないことに違和感を覚え、リーは画面から顔を上げた。
気が付くと、大峰の姿はどこにもない。
逃げたのだとリーは直感した。
「どこ行った!? 出てこいこのカス!」
「カスってぇ……誰のこと?♡」
「ひゅっ」
情けなく喉が鳴る。
その甘ったるい声に体が縮み上がる。
幻聴であってくれと願いながら振り向くが、残念ながらリーの耳は至って健康な状態であった。
そこにいたのは、ハート型のクリスタルが輝くステッキを構えた金髪ツインテールの魔法少女。
身長190センチの大男に銃口を突きつけられたとしてもここまでの恐怖は感じないだろうとリーは確信する。
「お兄さん震えてるの?♡ 可哀想♡ あ、可哀想っていうのはこんな臆病なお兄さんの腕に彫られちゃった立派な蛇のことね♡」
八重歯を覗かせながら嘲笑するリツにそう煽られるが、言い返すことなどできるはずもなく。
リーは情けなく両手を挙げて必死に言い訳をする。
「お、おおお俺は一般人だ。怪人じゃない。見ろ、怪我だってしてる!」
かつてルークに砕かれた左手を振って必死にアピールをする。
「〈化蛇〉に入ったのもついこの前で、組織に入れば箔が付いて女にモテると思っただけでっ……!」
「じゃあ偉い人のとこに連れてって♡ そしたら殴らないであげる♡」
「そんなことしたら組織に殺される……!」
「大丈夫だから安心して♡」
そしてリツはさらに大きく口元を歪める。
「組織なんてリツがぜーんぶ壊しちゃうから♡」