アラサーTSメスガキ魔法少女に煽られて恥ずかしくないの?♡ざぁーこ♡ 作:夏川優希
「ふうん♡ おじさんが〈化蛇〉の偉い人なんだ♡ いかにもだね♡」
リーに案内された先には、確かに男がいた。
ロマンスグレーの髪に、一目で上等と分かるスーツ。
マフィア映画から飛び出してきたような姿に、律は堪えきれなくなったようにクスクス笑う。
もちろんこの光景は律の後ろに控えるプイプイによって配信もされていた。
『〈化蛇〉って有名な大陸マフィアだよな?』
『日本に進出してたのかよ』
『わざわざ悪いことしに海渡って来んな!』
「す、すみません……青龍さん……」
律を青龍の元へ案内したリーはこれ以上ないほどに小さく縮み上がっている。
律が怖いのはいうまでもないが、青龍のことも相当恐れているのだろう。
しかし青龍は裏切り者のリーに銃をぶっ放したりはしなかったし、恫喝することすらしなかった。
ただ、リーを眺めて静かに首を傾げた。
「青龍? そんな人は知りません」
「え? な、なに言ってるんですか?」
「その男ともいま初めて会いました。私は道を歩いていたら無理やりここに連れてこられただけで、無関係です」
淡々と言ってみせる青龍。
必死に演技をして取り繕っている感じでもない。
決められた言葉をただ口にしているといった印象を受ける。
もちろんそんな言葉を信じる者はいない。
『そんな格好して異空間にある〈化蛇〉の建物にいるのに無関係ですは無理あるだろwwww』
『つくならもっとマシな嘘つけやwwww』
『しかもめっちゃ棒読みじゃねぇか!もっとちゃんと演技しろ!』
「みんなの言うとおりだプイ! 怪しすぎるプイ!」
プイプイは青龍に向かってそう言い放つ。
しかし青龍の顔色は変わらない。
「怪しいというだけで私に暴力を振るう気なのか? そもそも君たちはなんなんだ? 警察なのか? 違うだろう?」
「うっ……それは……」
「私は怪人ではない。妖精さんであればそれは分かるはずだ」
青龍はたくさんの闇バイト怪人を作り出していたが、自分自身はみゃうみゃうと契約しようとはしなかった。
薬物の売人が自分では薬物をやらないのと一緒。
青龍は怪人になることで人権を失うというリスクの大きさをよく知っていたのだ。
日本の旧来からの怪人組織で、もしもボスが怪人でなければ部下から下剋上を受ける可能性が極めて高い。
しかし日本に進出したばかりの〈化蛇〉日本支部の下っ端は寄せ集めの素人怪人ばかり。
組織内の絆は希薄で、ボスの顔を知らない者も多くいる。
だからこそ、青龍は人間であり続けられたのである。
「私は人間で、君たちは警察ではない。一体どういう考えで私の行動を縛る気なのか?」
「いや、でも……どう考えても怪しいプイ! 怪人による被害が出ている以上、お前を逃がすわけにはいかないプイ!」
「なにを言っているのか分からないな。私にはなんの関係もないことだ。それに――」
青龍は視線を鋭くする。
「私が悪者だと決めつけているようだが、確かな根拠はどこにもないだろう。私が本当に無実の一般人だったらどう責任を取るつもりなんだ? 無理やり拘束して怪我でも負わせられたら、私は必ず君たちを訴える。大使館にも連絡させてしまう。きっと国際問題になるだろうな。君たちにその責任が取れるのか?」
「うぐぐぐ……」
プイプイは言い淀む。
配信を見ているリスナーたちの意見も割れていた。
『ハッタリだろwwww』
『気にすんなやっちまえ!』
『いや、でも疑わしきは罰せずって言うし』
『9割方ウソ吐いてると思うけど、残りの1割引いたらと思うと…』
『リツが人間を殴ったりしたらマジで殺しちゃうんじゃないか?』
H&Pのときもそうだったが、魔法少女は敵が人間になると弱い。
そもそも魔法少女は怪人を倒すのが使命である。人間を捕まえるということは想定されていない。
警察と協力することはあるが、魔法少女に逮捕権などはないのだ。
とはいえ、〈化蛇〉の総帥をここで取り逃がせばきっとまた同じことが――いや、今度はもっと巧妙な手を使ってくるに違いない。
(クソ、どうすれば……)
と律は思ったが、律の口はそうはいかなかった。
「そんなの知らないんだけど♡」
「……は?」
「おじさん絶対怪しいじゃん♡ 悪い人に決まってる♡ 悪い人じゃなかったとしても、こんなとこでそんな怪しい格好してるほうが悪い♡ 捕まえて警察に突き出さなきゃ♡」
「私の話を聞いていなかったのか? 魔法少女には逮捕権が――」
「リツ、難しいことは分かんない♡ だって子供だもん♡」
律は口元に手を当て、生意気な笑みを浮かべる。
律の強さはもちろんリサーチ済だ。
本気を出せば人間である青龍など一捻りである。
どうやら詭弁が通じないらしいと分かり、青龍はみるみるうちに顔を蒼くさせた。
「魔法少女が武力で一般市民を恫喝するのか? 公衆の面前で!? 正気じゃない、魔法少女の信頼が地に落ちるぞ!?」
「大丈夫♡ 軽く殴るから♡ でも死にたくないならおとなしくしててね♡ 暴れると手元が狂って手加減できなくなるかも……♡」
ステッキを構えてにじりよる律。
その行動にコメントも賛否が別れた。
『いいぞリツ!やっちまえ!』
『それでこそだ』
『舐めやがって。逃げ得を許すな!』
『いやいや本当に大丈夫か?一応無実の可能性もあるんだぞ』
『リツちゃん後々責任取らされたりしない?大丈夫?』
『警察来るまで待った方がいいんじゃ…』
この場面での行動に正解はない。
青龍をみすみす逃がしても律に批判が集まるだろう。
青龍を捕まえたとしても越権行為だと批判が集まるだろう。
どう転んでも批判は避けられないのだ。
それを許さない者がいた。
律が批判を受けるくらいならば自分が泥を被ると動いたのだ。
「え」
青龍の表情が固まった。
その顔のまま、首がストンと地面へ落ちる。
それから少し間を置いて、直立不動の首なし死体が地面へと崩れ落ちた。
(……は?)
律ですら、その光景をすぐには飲み込むことができなかった。
「そうか。なるほどな。最初からこうすれば良かったんだ」
瞬間移動を使ったのだろう。
目の前に現れたのは、レースのふんだんにあしらわれた白いドレスに身を包む銀髪の偽少女――ルークだった。
その手にはたったいま青龍の首を落とした日本刀が握られている。
律はその身の丈ほどもある日本刀に強烈な既視感を抱いた。
かつて〈黒き森〉最強と謳われながらも律に瞬殺された怪人、クサカベが持っていたものに酷似していたからだ。
おそらくクサカベから奪った能力を使用したのだろうが、いまはそんなことどうでも良い。
「律より強い怪人なんて探す必要なかった。律の立場じゃ倒せないヤツを俺が倒せば良かったんだな!」
その手に持った日本刀からは血が滴り、白いドレスは返り血で真っ赤に染まっていた。
にもかかわらず、ルークは律に清々しいほどの笑みを浮かべる。
「これで俺も、白馬の王子様になれたかな?」