アラサーTSメスガキ魔法少女に煽られて恥ずかしくないの?♡ざぁーこ♡ 作:夏川優希
『え』
『うわ』
『!?』
『グロ』
『放送事故だろこれ!』
阿鼻叫喚のコメントが流れた直後、配信が止まる。
魔法少女の配信はレギュレーションが緩いとはいえ、これ以上この地獄絵図のような光景を映し続けられるはずもなかった。
そして、その地獄絵図に耐えられなかった者がここにもひとり。
「ひっ……青龍さ……うーん……」
一言呟き、リーはそのまま白目を剥いて倒れ伏した。
反社会的組織に所属しているとはいえ、下っ端のチンピラに知人の斬首は耐えられなかったのだ。
気絶こそしなかったものの、プイプイも冷静ではいられない。
魔法少女と怪人の戦いには慣れているとはいえ斬首はそうあることではないからだ。
「あわわわわわっ……」
そしてプイプイは血塗れのルークを指して叫ぶ。
「律さん! 怪人を倒すんだプイ!」
確かに青龍は〈化蛇〉日本支部の総統で、今回の闇バイト怪人事件の首謀者と言って良い。
しかしルークは怪人であり青龍は人間。
いま目の前で起こったことを端的に説明すれば「魔法少女の目の前で人間が怪人に殺された」ということになる。
どちらにせよ相手が怪人であれば話は早い。
自然の理に従い、律は怪人であるルークをいつものように倒せば良いのだ。
しかし律はそうしなかった。
それどころか律は敵の前で変身を解いたのだ。
「律さん!? なにやってるプイ!?」
プイプイは信じられないとばかりに声を張る。
当然だ。
律は変身していないときでもある程度の強さがあるとはいえ、変身時のときのそれとは比較にならないほど力は落ちる。
なにより相手は普通の怪人ではない。
複数の怪人の能力を操り、〈黒き森〉最強と謳われたクサカベの能力をも手に入れている。
決して丸腰で相手にして良い敵ではないのだ。
もちろん律も危険は承知だ。
分かった上で、それでも変身を解いた。
自分の言葉で目の前の少年と話をしなければならないと感じたからだ。
混乱するプイプイとは対照的に、律は静かに言った。
「ごめんプイプイ。少し時間がほしい。大人として、ちゃんと話がしたいんだ」
変身中はどうしてもメスガキ煽りが出てしまう。
そうではなく、自分の言葉で律はルークと話がしたかったのである。
その発言にルークは色めき立つ。
「俺っ、律に好きになってもらえるために必死で頑張ったんだよ。律はこういうのが好きかなって思って、メイクも服も必死に練習してさ。どうやったら律の役に立てるかなって一生懸命考えて――」
ルークはペラペラと熱っぽく喋るが、不意にその言葉を飲み込んだ。
そしてその表情が困惑に変わる。
「え? どうした? なんで頭下げんの?」
律の姿を見下ろし、ルークは戸惑ったように視線をさまよわせる。
そして律は、自分の想いを端的に口にした。
「ごめん。どんなことをしても、俺は君のことを絶対に好きにならない」
ルークの暴走が自分への好意によるものであることが律には分かっていた。
もちろんすべてはルークが勝手にやったことだ。
とはいえ自分のせいでただの少年が怪人にまでなってしまったことに責任を感じていた。
男であることを伝えたことでルークが諦めると思っていたが、事態はよりややこしくなっただけだった。
だから律はこの手で今度こそルークの破壊的な恋に終止符を打たなければと考えたのだ。
「え……?」
律の突き放すような言葉に、ルークは笑顔を浮かべたまま固まる。
まだ状況が飲み込めていない。いや、頭が理解を拒んでいるのかもしれない。
「化粧をしても、スカートを履いても、髪を伸ばしても、俺は――」
「ま、待って。待てって」
さらに続く律の言葉を拒絶するかのように、ルークは声を上げる。
「俺、律の役に立つよ? どんな能力だって奪えるんだ。俺と律が組んだら最強じゃない? 律は表から、俺は裏から世界の平和を守る、みたいなさ」
「そういうことじゃ――」
「待って。待って待って待って! もしかしてロングヘアー嫌だった? 銀髪はちょっとやり過ぎだったよな? それなら律の好きな髪型にするから。服ももう少しシンプルな方が良かったよな? そうだ、今度一緒に買い物とか」
「ごめん」
縋り付くようなルークの言葉。
それをスパッと断ち切るかのように、律はもう一度、ハッキリと繰り返す。
「俺は君のこと、好きにならない」
ルークは泣いたり喚いたりしなかった。
ただ、電池が切れたような。すべての感情がそげ落ちてしまったかのような。
そんな尋常ではない表情で、まるで幽霊のようにただ突っ立っていた。
「酷い女だみゃあ」
ルークの耳元で声がする。
みゃうみゃうだ。
姿はない。ただ、声がした。どこからかこの様子を見ていたのだろう。
しかしプイプイと律はその存在にまだ気が付いていない。
「ルークはあんなに頑張っていたのに酷いみゃ。復讐するべきだみゃ。でも困ったみゃ。いまのルークじゃあの女に勝てるか怪しいみゃあ――」
そしてみゃうみゃうは待ってましたとばかりに悪魔の契約を持ちかける。
「そうだ。〈追加契約〉するかみゃ?」
これがみゃうみゃうの目的だった。
みゃうみゃうは知っている。
人間ののぼせるような恋は容易く反転し、あっという間に憎悪に変わる。
ルークが本気の殺意を持って〈追加契約〉を行えば、律に対抗しうる怪人になれるかもしれない。
これ以上の好機はないと、そう判断したのだ。
そしてルークはこの誘いに乗るだろうと確信していた。
しかしルークが返事をするより先に、律が口を開いた。
相変わらずみゃうみゃうの存在には気づいていない。
ただ、落ち込むルークにこう声をかけたのだ。
「けど、人として友達にはなれたかもしれないね。こんなことがなければ」
無残に倒れた青龍の死体を見下ろし、律はぽつりとそう呟いた。
人として。
それは怪人になってしまったルークには永遠に訪れない機会だ。
「――しない」
そしてルークは顔を上げる。
その整った顔は、原型がないくらいぐしゃぐしゃの無様な泣き顔を晒していた。
「これ以上律に嫌われたくない……」
そしてルークは消えた。なにもかもから逃げるように。
瞬間移動を使ったのだろう。
こうなってしまえば律にも後を追うことはできない。
ルークは罪を償おうとはしなかった。しかし、罪を重ねることもしなかったのだ。
「あああああああもう! クソガキが!!」
というみゃうみゃうの悪態だけが後に残った。