アラサーTSメスガキ魔法少女に煽られて恥ずかしくないの?♡ざぁーこ♡ 作:夏川優希
総統の青龍は死亡。
構成員の怪人たちもリツにより無力化され、〈化蛇〉日本支部は壊滅。
闇バイト怪人事件は一応の解決を見せたが。
「〈化蛇〉のボスを殺した直後にルークは逃亡、みゃうみゃうも見つからなかったとか……悔しいよな。アタシたちがもっとしっかりしていればあいつらの首根っこ掴めたかもしれないのにさ」
病室の窓際。
簡素な丸椅子に腰掛けたセイラはため息交じりにそう呟く。
それに答えたのはベッドに横たわるルナ。
あちこち傷だらけだが、意識はハッキリとしていた。
「この程度の被害で済んで幸運だったとも言えるわ。変身ブローチ無しの生身で怪人相手に渡り合ったんだもの。反省をするのは悪いことじゃないけど、やりすぎは単なる自傷よ。まぁそれはさておき――」
ルナは隣のベッドをジロリと睨む。
そこには布団を被ったまま亀のように動かないカナコの姿があった。
「なんであの子と病室一緒なのよ!」
「そりゃあ、一緒に搬送されたんだから当然だろ」
「病院が一緒なのはまだしも、病室が一緒なのは納得いかないわ。個室にして!」
「だから空いてないんだってば。いいじゃん、お見舞い楽だし」
爆風で吹っ飛ばされたルナ、肩を撃たれたカナコ。
どちらも軽くない怪我を負ったものの幸い命に別状はなく、数日入院すれば退院できる見込みだ。
しかしカナコはセイラがお見舞いに訪れているというのになかなか布団から顔を出さない。
セイラは寝ているのかと思っていたが、どうやらそうではないらしい。
「おい、どうしたんだよカナコ。まだ肩が痛むか?」
呼びかけると、カナコは布団からのそりと顔を出した。
そして暗い瞳をセイラに向ける。
その目に浮かぶのは、強い嫉妬の感情。
「どうしてセイラさんだけ、リツさんを呼び出すカバンを持っていたんですか。しかもわたしたちにはなにも知らせずに。ズルいじゃないですか」
「え? いや……それはその……」
「なに言ってるの。リツ様のことだから、きっとなにか考えがあったのよ」
ルナの出した助け船に、セイラはパッと顔を輝かせる。
しかしルナの顔を見てセイラはまたギョッとする。
ルナの顔は般若の面さながらに歪み、噛み締めた唇からは血が滲んでいたからだ。
「そうよ……のっぴきならない理由があるに決まっているわ……じゃなきゃわたしに話を通さないわけないもの……」
それは助け舟などではない。
ルナが自分の心を保つため、自分自身にそう言い聞かせているのだ。
「な、なんかふたりとも元気そうだね! じゃあアタシ帰るわ! お大事に〜!」
纏わり付くようなふたりの視線から逃れるように、セイラは病室を後にした。
病院は幸いにもセイラの住むマンションから徒歩圏内だ。
このまま帰宅しようと考えて歩いていたが途中でふと足を止める。
「あれ? 家の鍵……あ、あれ?」
朝までは確かにあったはずの鍵が、いくら探しても出てこないのだ。
カバンの中を引っかき回しながらセイラは今日の自分の行動を振り返る。
そして思い至った。
魔法少女連盟戦略会議室――〈化蛇〉の拠点でのことを報告するためセイラは朝からずっとそこにいたのである。そこで一度、カバンを机から落として中身を床にぶちまけてしまった。その時に落ちた鍵を拾い損ねたに違いない。
「あーあ、なにやってんだアタシ……」
大きくため息をつき、物陰で魔法少女に変身。
空にある戦略会議室へと向かう。
思った通り、鍵はセイラが午前中に使っていた部屋の床に落ちていた。
安堵のため息を吐き、今度こそ自宅へ帰ろうと踏み出したが。
「……ん?」
部屋の机に置かれたパソコンがセイラの興味を引いた。
プイプイがセイラからの報告を聞きながらそのパソコンのキーボードをカタカタ叩いていたのは記憶に新しい。
「妖精さんもパソコン使うんだなぁ」
しみじみ言いながら、何の気なしにパソコンを覗く。
セイラに悪気はなかった。そこにあったから見ただけだった。
しかしそこに表示されていたのは、〈化蛇〉の研究所内から押収された研究資料の一部だった。
その多くは難解な専門用語が綴られており、セイラの目はつるつるに滑っていくばかりだったが、なんとか読み取れた部分もあった。
『魔法少女化した少女が怪人契約も併せて行った場合、より強力な能力を得る可能性がある』
それは〈化蛇〉に捕まった際にみゃうみゃうから聞いた言葉でもあった。
それを思い出し、セイラは露骨な嫌悪感を浮かべる。
「そんなわけないだろ。っていうか魔法少女が怪人になんてなるわけないし。なにを根拠にそんなこと言ってんだよ」
他人のパソコンであることも忘れ、セイラは椅子に腰を下ろしてその資料をさらに読み込んでいく。
仮説を立てるに至った根拠については専門的すぎてセイラは理解できなかったが、その資料には他にも様々な仮説が記載されていた。
『怪人化した際の能力は本人の強い願望に影響される。つまりたいした願望もない闇バイト怪人を何人作っても強力な能力は生まれない』
「ふーん。なるほど。まぁそりゃそうか」
『怪人がみゃうみゃうと結ぶ追加契約は支払う代償が大きいほどに能力が増す。これは魔法少女にも当てはまる可能性がある。例えば、魔法少女リツ』
「……え?」
唐突に出てきたリツの名前に、セイラは思わず声を漏らす。
心臓の鼓動が早くなる。なにか見てはいけないものを見ようとしている気がする。しかしここまできて、その資料を閉じることはできなかった。
『リツが確認されたのは黒沢商事襲撃事件でのプイプイによる配信が初だが、それ以前の情報が全くといって良いほどみつからない。生年月日、通っている(あるいは通っていた)学校、親族や友人や知人の情報に至るまで一切が不明。まるで黒沢商事襲撃事件の際にリツという存在が突然発生したかのよう。以上のことから、魔法少女リツは――』
セイラは思わず椅子から立ち上がった。
続く内容は、セイラにとって非常にショッキングなものだったからだ。
「そ、そんな、まさか。リツさんが、そんな」
セイラは目に涙を浮かべながら、もう一度その文章を読み直す。
読み間違いなどではなかった。
そこにはハッキリとこう書いてあった。
『――"自分が生まれてから魔法少女になるまでの記憶と記録を世の中から消す”という代償を払い、今の強さを手に入れた可能性がある。この仮説であれば〈黒き森〉のクロサワに人質を取るという旨の脅迫をされた際に「大切な人はいない」と言い切っていたことにも説明が付く――』
セイラはストン、と崩れ落ちた。
どういう理由でリツがそのような選択をしたのかは分からない。
しかしおそらくは、自分たちがいつまでも〈黒き森〉に太刀打ちできなかったせいで、リツは大事な何かを失ってしまったのだろう。
だからリツは強い意志をもち、今まで積み上げてきたすべてを犠牲にし、あの力を得たのだ。
そしてたったひとりで〈黒き森〉を打ち倒して見せた。
普通であればふがいない魔法少女に憤って当然。
にもかかわらず、リツは文句も言わず率先して怪人を倒し、しかも自分の払った代償についても口を閉ざしている。
それがどれほど辛いことか、セイラは想像するだけで胸が張り裂けそうだった。
自分だったら耐えられるだろうか、と自問してみる。
優しい両親。一時は対立もしたが、それ以上に尊敬している姉。魔法少女の仲間たち。彼らの記憶から自分の存在が消えてなくなってしまうとしたら。
セイラは首を振る。とても耐えられない。
それは正真正銘ひとりぼっちになってしまうということだ。
「アタシたちはっ……そんなことにも気づかずのうのうとっ……!」
しかしこんなこと、誰かに話せるはずもない。
リツの小さな体が背負った「代償」をルナやカナコが知ればどんな取り乱し方をするか分かったものではない。
なによりリツ本人が言っていないことをセイラの口から話して良いはずもない。
「ッ……リツさんっ……」
「なに?♡ 呼んだ?♡」
どうやらリツも同じようにプイプイに呼ばれて魔法少女連盟戦略会議室へと来ていたらしい。
ひとり泣いているセイラを見るなり、口元に手を当ててクスクスと笑う。
「え♡ 待って♡ なんで泣いてんの?♡」
「……リツさん!」
セイラは涙も拭かず、リツの小さな体を抱きしめる。
「なに急に♡ 怖いんだけど♡ 意味分かんない♡」
「良いんです……アタシだけは……アタシだけはリツさんの"代償"のこと、分かってますから……!」
「は?♡ 本当になに?♡」
――セイラの勘違いに、律はわけも分からず困惑するばかりだった。