アラサーTSメスガキ魔法少女に煽られて恥ずかしくないの?♡ざぁーこ♡ 作:夏川優希
「うみゃみゃみゃ……ルークはもうダメだみゃ。あのクソガキ、期待外れもいいとこだみゃあ」
ネオン輝く繁華街。
その入り口にそびえる巨大なアーチに腰掛け、行き交う人々を見下ろしながらみゃうみゃうは毒づく。
かつてその街では怪人たちが跋扈していた。
どんな金持ちよりも権力者よりも大きな力を怪人たちは持っていた。
警察権力すら怪人の前では意味を成さず、人間たちはただ怪人に蹂躙されるしかなかった。
世の中は閉塞感や絶望感といった負のエネルギーに満ちていた。
「あの頃はよかったみゃー……」
それが今はどうだろう。
〈黒き森〉が潰されたことを契機に、怪人の影響力は目に見えて低下した。
肩で風を切って我が物顔でこの街を歩いていた怪人たちも、今やネズミのようにコソコソと隠れながら生活をしている。
どうしてこんなことになったのか。
答えは明確。
みゃうみゃうはそのコインのような金色の目を鋭くさせる。
「あの忌まわしいメスガキのせいだみゃ~! ぜってぇ泡ふかしてやるみゃ……!」
その方法をずっと考えている。
この前まではルークに期待を寄せていたが、あれはもうダメだとみゃうみゃうは判断していた。
そして粗製濫造の闇バイト怪人をいくら作っても効果はないということも分かった。
いま必要なのは怪人界のスターなのだ。
希望の星である魔法少女リツを打ち砕き、再び人間たちを絶望の淵に叩き落とす。
かつての〈黒き森〉のような、いや、より強い負のエネルギーを作り出す者が必要だ。
そしてみゃうみゃうの頭にひとりの人間が思い浮かぶ。
「……そうだ。いいこと思いついたみゃ」
みゃうみゃうは腰掛けていたアーチから飛び立った。
ネオンの光を離れ、より濃い闇へ引き寄せられるように飛んでいく――。
***
律は困惑していた。
ここ数日、いろいろなことがあった。
〈化蛇〉の総統を確保しようとしたことがマズかったらしい。
律たちは警察による研修を受けることとなり、そこで魔法少女という存在が法律上いかに人間に対して無力であるのかをイヤというほど叩き込まれた。
そして律の目の前で〈化蛇〉の総統が殺されたことはもっとマズかったらしい。
律は警察に個別で呼び出されてこんなことを聞かれた。
「怪人・ルークと個人的な接点は?」
「ルークとはあのあと戦闘になったの? へぇ、なってないんだ」
「どうして彼はあなたのことは襲わないんですか?」
どうやら警察は律とルークが裏で通じているのではないかという疑いを持っているらしい。
ルークは律の配信に度々現れては、律にとって都合の悪い者を消していく。確かに警察にしてみれば疑ってしかるべき状況かもしれない。
しかし律にとっては無実の罪で警察に疑われ、同じことを何度も聞かれているということになる。それは決して愉快なことではなかった。
――しかし律が困惑したのは警察による取調べなどではない。
その後のセイラの反応である。
「リツさんを疑うなんて……警察はおかしいですよ……!」
律はギョッとした。
警察の取調べなんかよりずっとずっと困った。
セイラが泣いていたからである。
「リツさんがっ……どんな犠牲を払って魔法少女になったのか……みんな、なにも知らないくせに……!」
涙に濡れた瞳には怒りすら滲んでいる。
セイラの形相は尋常ではなかった。
彼女のこんな顔は今までに一度も見たことがなかった。
(セイラ、一体どうしちゃったんだろ……)
確かに警察の取り調べは煩わしかったが、しかしいくらなんでも泣くほどじゃないだろうと律は思う。
律に強く執着しているルナやカナコですらここまでの反応は示さなかった。
セイラがおかしくなったのはあの日からだ。
プイプイに呼ばれて魔法少女連盟戦略会議室へと出向いたあの日。
その時も“犠牲”がどうとか言っていた。
「もしかして男だったってバレた……? いや、でもなんかそんな感じじゃないんだよね」
「ん……ぅん……」
「分かんないんだけど、なんかとんでもない勘違いしてる気がするんだよなぁ」
「ぁの……律さん……実は……」
と、しどろもどろになったプイプイはそこで白状した。
〈化蛇〉の研究員による報告書に書かれた律についての仮説。
どうやらそれをセイラが見てしまった。そしてそれを頭から信じてしまったらしい。
「“生まれてから魔法少女になるまでの記憶と記録を代償に力を得た”……って。当たらずとも遠からずではあるけどさ……。っていうか見られて困るものをそんな適当なとこに置いといたらダメじゃん!」
律の指摘にプイプイは肩を落としてうなだれる。
「〈化蛇〉の研究報告書は魔法少女たちにも共有するつもりだったんだプイ。まさかリツさんのことが書いてあるとは思わなくて……」
「でもこのまま誤解させておいたんじゃセイラが可哀想じゃない? いっそ本当のことを言ったら――」
「律さんが男だって? 絶対ダメだプイ!」
プイプイはすごい勢いで律の提案を却下した。
今までうなだれていたのが嘘のような勢いだ。
目をひん剥き、とても魔法少女のマスコットとは思えない勢いで訴える。
「それがバレたら世間からどんなバッシングをされるか! 魔法少女たちとだって、今までのような関係でいられるか分からないプイ……とにかく、そのことは今までどおりトップシークレットだプイよ!」
「わ、分かった。分かったから」
まぁまぁ落ち着いて、とばかりに律は両手を前に突き出した。
その凄まじい剣幕に律はそれ以上の交渉を諦めるほかなかった。
“生まれてから魔法少女になるまでの記憶と記録を代償に力を得た”――実際のところその仮説は間違っているが、事情を知らない第三者がそれを証明するのは極めて難しい。
不幸にもと言うべきか、幸いにと言うべきか。クロサワ商事の社員であった“七瀬律”を探す者はいないのだ。
なんの情報もなく、この金髪ツインテールの小柄な少女がもともとアラサーの男だったなんて突拍子もない考えに辿り着く人間はそういないだろう。
「でも正体を知ってる怪人がふたりもいるのが不安だプイな。まぁ怪人収容施設にいるほうは問題ないとして、ルークが話してしまわないかが不安だプイ……」
「うーん。それは大丈夫だと思うけどなぁ」
「そんなのなんの根拠もないプイ! もう二度と軽率に自分の正体を明かさないでほしいプイ!」
「ごめんってば。そんなに怒んないでよ……」
バレるとすれば、正体を知る誰かが口を割ったとき。
そうでなければ正体が知れるわけない――律もプイプイもそう思っていた。
まさかあんなことになるなんて、この時のふたりはまったく予想していなかったのだ。