アラサーTSメスガキ魔法少女に煽られて恥ずかしくないの?♡ざぁーこ♡ 作:夏川優希
「みんな、来てくれてありがとう。それから――今まで、本当にお疲れ様」
生放送で見るモモカとはだいぶ印象が違うように律は思った。
テレビの画面の中のモモカは悪い意味で若者っぽいと言うか。教師に反抗する学生のような目をしていた。
しかしいま元後輩たちに向ける眼差しには慈しみすら感じる。
「急にいなくなってごめん。特にルナには迷惑かけちゃったね」
ルナは表情を固くした。
それは懐かしくて大切な先輩に笑いかけてしまわないよう、あえてそうしているような気配がした。
「……わたしたちは昔話をしにきたんじゃありません。どうしてこんなバカげたことをしたのか聞いて、そしてそれを止めに来たんです」
「みんなで有無を言わずモモカを攻撃することもできるのに話を聞いてくれるんだね。それって、モモカのこと信じてくれてるってことじゃん。うれしー」
「ふざけないでください! どうしてこんなことをしたんですか」
声を荒げるルナ。
そして次にセイラが口を開いた。
ルナとは対照的に、まるで縋るような口ぶりで言う。
「闇の精霊に脅されているんですよね? だからわたしたちに助けを求めたんですよね?」
「助けを求めた? ……それは違うかな。ってか逆? モモカがみんなを助けたいんだよ」
「助けたいって、どういう」
「この業界を離れて気づいたの。魔法少女を取り巻く環境は異常だよ。みんなも思わなかった? “どうして私たちばかりがこんなに頑張らなくちゃいけないのか”って」
ルナの言葉に、今度は誰も反論しなかった。
辺りは静まりかえり、誰かが唾を飲み込む音さえ聞こえてきそうだった。
「怪人っていうのは、犯罪者、あるいは犯罪傾向にある者の終着地点なんだよ。生まれながらの怪人というものは地球には存在していないんだから。幾度も道を踏み外し、社会のセーフティーネットでもカバーできず、警察の捜査網をもすり抜けた、そういう人間がたどり着く末路なの」
概ねその通りだと律も思った。
怪人というのは乱暴に言えば特殊能力を武器に暴れる犯罪者であると律も認識している。
「――にもかかわらず、国や民衆は怪人の対策を魔法少女へ投げっぱなしにしてる。魔法少女には人間の犯罪者に対する捜査権も逮捕権もないのに、そのすべての責任を押しつけられている」
これについても反論は難しい。
なにせ目の前で話をしているモモカこそ、すべての責任を押しつけられた魔法少女のひとりなのだから。
彼女がその柔らかな心に一体どれほどの傷を負ったか、律には想像すらできない。
「怪人被害を減らすためにやるべきことは魔法少女を責めることじゃなく、人間が怪人になる前に芽を摘むこと――だからモモカがそれをやる」
ああ、マズいなと律は思った。
尊敬するかつての先輩の言葉。しかも言っていることは一見すると道理が通っているように聞こえる。
現に魔法少女たちが異論を唱える様子は見られない。納得しているような素振りを見せる者すらいる。
彼女たちは子供だ。
身近な人間の言う、分かりやすく手っ取り早い言説に飛びついてしまうということも十分考えられる。
しかし忘れてはならないのは、彼女のやっていることはテロ以外の何物でもないということだ。
これをどのように説明すれば魔法少女たちにも理解してもらえるだろうか――
そんなことを考えるよりも早く、律の口は生意気な笑顔を浮かべていた。
「だから自分が悪人を裁くんだって?♡ さすがに生意気すぎ♡ 神様気取りとか、イタいよ♡ 先輩♡」
モモカはスッと目を細めた。
その目の中に鋭い敵意が光った気がしたが、次の瞬間には柔和な笑みが浮かんでいた。
「初めまして、リツちゃん。あなたの活躍は楽しませてもらっているよ。〈黒き森〉を倒す配信なんて、手に汗握っちゃった。あなたは間違いなく最強の魔法少女だよ。……そんな功労者でもこんなこと言われちゃうんだから、本当いやになるよね」
モモカが手元に出したスマートフォン、その画面が切り替わるたびに音割れした声が上がる。
『白昼堂々、スーパーでリツに暴行を受けました! 缶が頭に当たって、打ち所が悪ければ死ぬところだったんです!』
『いまJTV前にいます! リツは集まった人々を威圧しながら中へ入っていきました。やはり今回のクマ事件にも絡んでいるのでしょうか!?』
昼間にスーパーで会った万引き男や、さっきJTV前で実況していた男がここぞとばかりにリツを叩いているようだ。
魔法少女に不信感を抱く者が多くなれば、最高戦力であるリツにバッシングが集まるのは当然の話ではあった。
「せっかく助けてもこんなこと言われちゃうんだよ。虚しくならない?」
「ざこが“ざこざこ”鳴いてるなって感じ♡ てか、こうなるように仕組んだの、モモカ先輩でしょ♡」
「ん? なんの話?」
首を傾げてとぼけるモモカに、リツはさらに追求する。
「あの生放送♡ わざと魔法少女にバッシングが集まるようにしたんでしょ♡ さっきリツたちに聞かせた演説を放送でも言っていれば多少は共感が得られたかもしれないのにわざとそうしなかった♡」
「聞かせても無駄だから言わなかっただけだよ。モモカがなんのためにそんなことしなきゃなんないの?」
「ふふ♡ 白々しい♡ 周囲から孤立させて囲い込む……悪いオトナがよくやる手段でしょ♡ みゃうみゃうにでもそそのかされたんじゃないの?♡」
ほかの魔法少女と同じく、モモカもまた子供だ。せいぜい高校生くらいだろう。
こんなだいそれたことをたったひとりで計画し、実行に移したとは考えづらい。
「それにぃ……♡」
そして律は辺りを見回した。
いやでも目に飛び込んでくる、テレビ局中に転がったおびただしい数のクマの着ぐるみたち。
少なくとも彼らは犯罪者ではない。ただこの場所で働いていただけの一般人だ。
「JTVの職員はなんの罪を犯したっていうの?♡ それを説明できなきゃ、やってること〈黒き森〉と一緒だよ♡ 自分の目的のために他者を踏みにじったってことなんだから♡」
「必要な犠牲……なんて言っても通じないか」
参ったな、とばかりにモモカは苦笑を漏らす。
次の瞬間、ルナの鋭い声が響いた。
「やっぱり今のモモカさんについていくことはできません。モモカさんにかつて仕込まれたとおり、怪人の甘言に耳は貸さない!」
かつての先輩であり、恩人であるモモカと戦う決心がついたのだろうか。ルナは魔法で銃を作り出し、構える。
モモカは一瞬だけひどく傷ついた顔をして、しかしすぐに冷酷な表情を取り戻した。
「そうだね。でもそれだけじゃ足りないよ。ウソつきの大人にも気をつけなきゃ」
そしてモモカはその視線をリツへと向けた。
その目には、やはり確かな敵意が浮かんでいた。
「そうじゃない? リツちゃん……いや、七瀬律さん」