アラサーTSメスガキ魔法少女に煽られて恥ずかしくないの?♡ざぁーこ♡ 作:夏川優希
JTV社屋を飛び出した律は、空高く浮上し東京の街を俯瞰した。
都内の重要施設を破壊する、朝が来たら何もかもが変わってる――モモカの口ぶりから察するに、朝までに都内に設置された複数の爆弾を解除しなければ爆発するということだろう。
今のところ情報はそれだけ。
どこに、いくつ、どんな爆弾があるのかは分からない。
眼前に広がるのは日が沈んでもなお強い光を放つビルの林や繁華街。
日本の中枢ともいえる都内には重要施設など腐るほどある。
そのすべてに足を運び、爆弾を解除していく。それも朝までに。
(絶望的だけど、やるしかないな。でも重要施設って具体的にどこなんだろう。東京スカイタワーみたいな象徴的な施設なのか、あるいは浄水施設みたいなインフラ系か、本当に無作為に置かれてるのか……)
とその時、背後から――いや、足元の方から声がした。
律を追ってJTVを飛び出たルナ、セイラ、カナコが追いついてきたのだ。
「リ、律さん、早すぎますって……!」
「なるほど、上空から街並みを見て作戦を立てるということですね」
「さすがは律様♡ こんな状況で冷静な判断ができるなんて素敵です♡」
追いかけてきた3人にいつもと違った様子はない。
律の中身が男だと知ってもなお、彼女たちは律への態度を変えなかったのだ。
(10代の女の子にとって30歳の男なんて未知の存在だろうに……)
という律の内心とは裏腹に、その顔には30歳男性とは思えない生意気な笑顔が浮かんでいく。
「へぇ、ついてきたんだ♡ いいのぉ?♡ モモカじゃなくこんなオジサンについてきちゃって♡」
クスクスと笑う律に釣られるように、3人の魔法少女たちも笑顔を浮かべる。
「アタシ、変な勘違いをしてたみたいですけど……でも律さんが今まで苦労してきたことは勘違いじゃないと思います」
「さっきも言ったとおり、わたしたちが律さんに救われたのは事実ですから」
セイラ、そしてカナコがそれぞれ律にそう声をかける。
どこか優しげな表情を浮かべるふたりに比べ、ルナの表情はより暗く、固いものだった。
「モモカさんのことが本当に大切なら、こんなバカげたことはやめさせなくちゃいけない。爆弾なんかで変えた世の中が今より良くなるはずない。どうしてみんなそれが分からないのかしら……」
ルナの沈んだ呟きに律はハッとした。
モモカの犯行予告の衝撃で深く考えられていなかったが、言われてみればルナの言うとおりだと律も思った。
(よく考えたら変だよな。爆弾で吹き飛ばすことで魔法少女たちが理不尽な思いをしなくて良い世界に変わる施設ってなんだ?)
新たな怪人を生まないためにひとりひとりにクマをつけて見張らせるというのは、一応は筋が通っている。
しかし東京の重要施設を破壊するというのはどうだろう。
あるいは、まさか本気でクーデターでも起こそうというのか?
「モモカって昔から極端な思想とか持ってたりしてた?♡」
律の問いかけに、セイラが慌てたように首を横に振る。
「い、いやいや! そんな危ない人じゃなかったですよ。それに、その……」
セイラはなにかを言いかけて、しかし直前にそれを飲み込んだ。そして助けを求めるようにルナに視線をやる。
言って良いものか迷ったようだったが、しかしルナは躊躇なくそれを口にした。
「モモカさんのお父さんは国会議員なんです。代々政治家を輩出しているお家のようで、ひいおじいさんは総理大臣も経験されているとか。まぁ魔法少女は正体を公にはしていないし、わたしたちも敢えて触れませんでしたが……公然の秘密でした」
ルナの説明に、カナコは怪訝な表情を浮かべる。
「〈黒き森〉が壊滅してしばらく経ってるのに今になってこんな事件を起こすなんて、なんか変ですよね。もしかしてお父さんとなにかあったんでしょうか」
その問いに答えを持つ者はいない。その正解を知っているのはモモカ本人だけだ。
しかしこれから向かうべき場所のヒントにはなった。
「政治家かぁ♡ じゃあ……まずはあそこに行ってみよっか♡」
律が指さしたのは、日本の政治の中心地。様々な建造物の建ち並ぶ都会の中でも一際異彩を放つ白亜の殿堂。
――国会議事堂であった。
***
結論から言えば、律の予想は当たった。
国会議事堂に爆弾はあったのだ。
線香花火のごとくオレンジ色の火花を散らすクマが、本会議場の中心――議長席の影で膝を抱えているのを捜索の末に4人は見つけた。
恐らくは時限装置だろう。クマの腹部には液晶画面が埋め込まれ、残り時間が4時間程度であることを示している。
「見つけたわ! みんな、気をつけて!」
可愛いのは見た目だけだ。
石造りの国会議事堂を吹き飛ばすだけの威力があるのだろう危険な爆弾を前に緊張が高まるが。
「ふーん♡ なるほどね♡」
律は躊躇なくクマ爆弾を引っ掴み、上へ下へとひっくり返してそれを観察する。
そのあまりに無謀な行動に魔法少女たちから悲鳴が上がった。
「ちょ、ちょっと待ってください! いま魔法障壁を張りますから!」
というルナの言葉に律は首を横に振る。
「大丈夫だよ♡ 完全に時限式で、このカウントダウンがゼロにならないと爆発しないみたい♡」
モモカの行動により、東京は大混乱に陥っている。しかし他の怪人たちとモモカは明確に違うと律は感じていた。
「モモカは多分、人間の命をできるだけ奪わないようにしてる♡」
クマに飲まれた人間は、恐らくクマの中で生きている。
そしてこの爆弾。一目で爆弾と分かるクマのデザインで、巧妙に隠されているわけでもない。これは近づく人間が爆発に巻き込まれないよう注意喚起をしているのではないか。
「テロリストのくせに人を傷つける覚悟もないなんて甘ちゃんもいいとこ♡ 実現不可能な理想ばっかり掲げて勝手に潰れるタイプとみた♡」
律がその手のひらに魔力を集め、親指と中指で軽くクマを弾く。
瞬間、クラッカーのような音を立ててクマが弾けた。
なんの衝撃も痛みもなく、魔力さえあれば誰でも安全に爆弾クマを解除できるということがいま証明された。
モモカは、たとえ意見が対立したとしても大事な後輩を傷つけるようなマネはしない――律の予想はまたしても当たった。
「こんなことになる前に出会えていたら良かったのにね♡」
どうしてモモカがこんなテロ紛いのことをしようと思ったのか、その本心は未だ見えてこない。
しかしこうなる前に誰かがそばに居たならば、こうはならなかったような気がしていた。
国会議事堂の爆弾クマの処理は終わった。
しかしもちろんこれで終わりではない。東京のどこかに、まだまだ爆弾クマは潜んでいるはずだ。
「次はどうしましょうか。政党の本部ビルとか、有名政治家の事務所とか、あるいは中央省庁とかでしょうか」
「そんなのひとつひとつ調べてたら時間が足りないよ! 爆弾は簡単に解除できるって分かったし、4人で手分けしよ!」
「4人で手分けしてもきっと間に合わないわ。すべてを解除しようとするんじゃなく、優先順位をつけて回っていくしかないんじゃないかしら……」
優先順位をつけて回っていく――それは優先順位の低い建物を見捨てるということと同義だ。
言い出したルナはもちろん、セイラもカナコも表情を暗くする。
しかし律は違った。
口元に手を当て、いつもの生意気な笑みを3人に向ける。
「じゃあもっと人手を集めればいーじゃん♡」
「人手……ですか。でも他の魔法少女たちは――」
「爆弾クマを探すだけなら魔法少女じゃなくても良いでしょ♡ ね、誰かスマホ出して♡」
「え?」
首を傾げるルナに、律はますます生意気な笑みを深める。
その八重歯がキラリと輝いた。
「配信でリスナーのお兄さんお姉さんたちに爆弾クマの捜索を呼びかける♡ どうせみんな暇でしょ♡」