アラサーTSメスガキ魔法少女に煽られて恥ずかしくないの?♡ざぁーこ♡ 作:夏川優希
魔法少女を志す少女というのは大抵の場合2種類に分けられる。
事情があって金が必要な者、あるいは怪人に対し個人的な恨みやトラウマを抱えた者だ。
しかしモモカはそのいずれにも当てはまらない。
「ノブレスオブリージュだよ。私たちのような特別な人間は特別な使命を背負っているんだ」
それがモモカの父親の口癖だった。
モモカの家は代々政治家を輩出する家系。
国会議員として国民のために身を粉にして戦う父親をモモカは尊敬していた。
そしてモモカは父親の教えに従い、民を守るため魔法少女となった。
モモカは魔法少女として怪人と直接戦い、父は政治家として怪人を根絶するための制度を作り、父子で怪人と戦っていく――
そんな日がいつまでも続くと思っていた。
しかし〈黒き森〉の登場で日常は一変した。
〈黒き森〉の脅迫に屈し、戦いを諦める仲間たち。
しかしモモカは簡単には屈しなかった。親としての心配からか父にも魔法少女を辞めるよう言われたが、モモカはそのとき初めて父親に逆らったのだ。
しかし守ろうとした人々は、モモカを賞賛するどころか石を投げた。激しい誹謗中傷にとうとうモモカの心は折れた。
そしてモモカは魔法少女をやめ、普通の学生として何不自由ない生活を送ることになった。
魔法少女リツが現れ〈黒き森〉を倒したこともまるで別の星の話のように感じていたし、プイプイがやってきて魔法少女に戻らないかと誘われたものの、後輩を置いて逃げ出した後ろめたさからなかなか決心がつかず。変身ブローチは机の奥にしまいっぱなしになっていた。
そんなときだった。みゃうみゃうがやってきたのは。
みゃうみゃうはモモカに信じられないことを言った。
例えば、父親が〈黒き森〉と通じていたとか。
例えば、モモカへの誹謗中傷は父親が扇動していたとか。
もちろんウソだと思った。とても信じられる話じゃなかった。
しかし言われてみれば違和感はあった。
モモカへの誹謗中傷が巻き起こったのは、父親が選挙に勝った直後だったのだ。
当時は自分への誹謗中傷が父親の選挙に影響しなくて良かったと胸を撫で下ろしたものだが。
そしてモモカが魔法少女を辞めるとすぐに誹謗中傷が止んだことも怪しく思えてくる。
疑惑は徐々に大きくなり、やがてモモカは父親を問いただした。
すると父親はアッサリとそれを認めた。
怪人組織と持ちつ持たれつの政治家は珍しくない。政界で生き残るには清濁併せ呑むことが必要。
〈黒き森〉との関係を保つため、そしてモモカを守るため、人を雇ってモモカへの誹謗中傷を扇動した。
そして呆然とするモモカに、父親はこんなことを悪びれもせず言い放った。
「民衆というのは羊で、私たちは羊飼いだ。彼らは考えて動いているのではない。私たちの放った犬に追い立てられて動かされているに過ぎないんだよ。使える犬はたくさんあるに越したことはない。それが怪人だったとしてもね。モモカももう15歳なんだから、そういう世の中の仕組みを知っておいたほうがいい」
その瞬間、モモカは気づいてしまった。
自分も父の犬でしかないと。
父を選挙で勝たせるための広告塔として魔法少女をやるよう仕向けられていたのだと。
怪人との命がけの戦いも、モモカの心を裂くような誹謗中傷も、すべては父親の都合でしかなかったのだと。
こうして世界で一番尊敬していたはずの父親は、世界で一番憎むべき相手へと変わった。
モモカは怪人になった。
そしてその能力を使い、人々の罪を探った。
大物政治家、警察幹部、高級官僚――彼らがどれほどの罪に塗れているのかを目の当たりにし、モモカは幾度目かの絶望を味わった。
いくら後輩の魔法少女たちが頑張ったところで、怪人を根絶することはできないだろう。
本当に厄介な怪人は〈黒き森〉だけではない。
しかもヤツらはそう簡単には尻尾を出さないに違いない。日本の中枢の奥深くにまで入り込んでしまっているのだから。
だからモモカはすべてを壊そうとした。
すべてを一度更地に戻して、そこからモモカの監視の下、新しく綺麗なものを作り直す――そこまでしないと怪人を一掃することはできない。
告発など無意味だ。愚かな民衆たちはきっとモモカを信じない。
あの時のように誹謗中傷が吹き荒れ、モモカの話に耳をかそうともしないだろう。
そうモモカは判断したのだった。
だから東京都民全員を監視するためのクマを作り出し、東京中に爆弾クマを配置し――そして、爆発のタイムリミットがすぐそこにまで迫っていた。
「そろそろ時間かぁ」
モモカはJTV社屋から窓を見やった。
ビルの隙間から漏れる朝日に思わず目を細める。
この東京にいくつ爆弾が残っているのか、それはモモカにも分からない。
モモカの手を離れた爆弾はモモカ自身にも存在を感知できないし、爆弾を止めることもできない。たとえモモカを殺したとしても同じだ。もう爆発は止められない。律などの他の魔法少女に敗北することを考え、そのようにモモカ自身がセッティングしたのであった。
いまはただ、他の人間たちと同じようにその時が来るのを待つしかない。
もしも律たちがすべての爆弾を解除できたなら、そのままモモカは計画を諦める気でいた。
それは律たちがモモカよりも優秀な魔法少女であることを意味する。であれば、彼女たちの決定を尊重するべきだと考えたからだ。
彼女たちならば、もしかしたらこんな強引な手を使わずとも日本に蔓延る怪人たちを一掃することができるかもしれないから。
そして――その時は来た。
東京は静かに、朝を迎えた。
爆発音はどこからも聞こえなかった。
――しかし異変は、東京から離れた場所で確かに起こっていたのだ。
「え」
スマホの画面が映し出したネットニュースの見出しに、モモカは己の目を疑った。
群馬怪人収容所での爆発。
どのメディアを見てもその事件の速報が流れており、SNSには崩壊した収容所の画像がいくつも投稿されている。
モモカは律たちに宣言した通り、東京都内にしか爆弾を仕掛けてはいなかった。
ましてや怪人収容所なんかにモモカが爆弾を仕掛ける理由などない。
だが、ひとつ思い当たる節はあった。
みゃうみゃうだ。
モモカはスマホを操作し、口元に当てる。
「一体どういうことなの!? モモカのやることに口を出すなって言ったでしょ!?」
すると電話の向こうから勝ち誇ったような声が響く。
『みゃーっみゃっみゃ! 口は出してないみゃ、手は出したけど!』
「このクソ精霊……! 一体何したの!?」
『はじめっからお前に期待なんかしてなかったみゃ。ガキの世直しなんか失敗するに決まってるみゃー。まぁでもいい感じに東京を混乱させてくれたおかげでこっちはうまくいったみゃ』
「っ……まさか……」
もちろんモモカはかつての宿敵であったみゃうみゃうを信用していたわけではない。
作戦の共有などもちろんしていなかったし、むしろ世の中から怪人を一掃しようというモモカの計画を邪魔する可能性も考えてみゃうみゃうを遠ざけていたくらいだ。
しかしみゃうみゃうは遠くからモモカのことを見ていた。
東京の混乱を高みから見物していた。
そしてチャンスを狙っていたのだ。世の中にさらに大きな負の感情を巻き起こすようななにかを起こせないかと。
日本中の視線が東京に集まる中、あちこちに設置された爆弾クマのひとつを密かに持ち出した。それを爆発の直前、群馬県にある怪人収容所へと投げ込んだのだ。
怪人収容所は妖精さんの手も入った高いセキュリティを誇るが、高威力の爆弾という物理的な攻撃に対し無傷ではいられなかった。
「質の高い怪人はそうそう生まれるものじゃないみゃ。新しいものを生み出すより、既存の成功作を運用したほうが確実だみゃ」
『それは――』
みゃうみゃうはモモカの言葉を待たずにマジカル通信機の電源を切る。
モモカはもう用済み。みゃうみゃうの興味はすでに別の怪人へと移っていた。
それはかつて史上最悪の怪人組織〈黒き森〉を創立し、東京を手中に収めながらも、リツによって収容所送りにされた怪人。
「久しぶりだみゃ、クロサワ。さて、次はなにをやるかみゃ?」
「もちろん決まっている」
瓦礫を踏みしめながらクロサワが歩いて行く。
その憎悪に燃えた目は、ここではないどこかへ向いていた。
「魔法少女リツ――ヤツを殺し、再び私が東京を支配する」