アラサーTSメスガキ魔法少女に煽られて恥ずかしくないの?♡ざぁーこ♡ 作:夏川優希
(こんな……こんなはずじゃ……!)
モモカは空を縦横無尽に飛び回り、クマの大群から逃げ惑う。
クマは元々モモカが生み出したものだ。本来であればクマはモモカの制御下にあり、その行動はもちろん、消したり出したりといったことも、すべてはモモカの意のままであるはず。
しかし今、クマはモモカの制御を外れ、あろうことか生みの親たるモモカに襲いかかっている。
これもみうみうの仕組んだ策略のひとつなのだろうか。
カラフルだったモモカのクマは黒く塗り潰され、制御を奪われてしまった。
クマたちがモモカを襲う理由も分かっている。
モモカを取り込む気だ。そしてクマを作り出す能力を我が物とする気だ。
電話でのみゃうみゃうの口ぶりから、モモカからクマの制御を奪った怪人の察しも付いている。
クロサワだ。かつて史上最悪の怪人組織〈黒き森〉を率い、政界にまでその手を伸ばして、モモカを苦しめた諸悪の根源。
そんな怪人にモモカの能力が渡れば、どのような事態になるか。
モモカは今回の計画を実行するにあたり、さまざまなシミュレーションをしたが――正直、ここまで最悪の事態に陥るとは想定できなかった。
(魔法少女たちが苦しまなくていいよう、世界を綺麗にしようとしたのに……まさかあの悪夢をくり返す手助けをしてしまうなんて)
これまで大量のクマを作り出していたモモカにはもうそれほどたくさんの魔力が残されていない。
先ほどからできる範囲で新たにクマを出し、黒クマにぶつけてはみているものの、圧倒的物量を誇る黒クマに対抗できず、防戦一方。
逃げ切れないとなると、モモカに残されている手段はあとひとつだけ。
自害である。
敵の手に渡る前に能力を使えなくする。
現在敵の手に渡った黒クマたちを消すことはできないが、しかし新たな黒クマを生み出すことは防げる。
「みんな……ごめんね……本当に……」
モモカは誰に言うでもなく呟く。
そして飛行速度を上げた。
目前にビルが迫る。
モモカはそれを避けるどころか、さらに速度を上げる。音を置き去りにし、身体が軋むような速度を持って、ビルへとまっすぐに飛ぶ。
そのまま突っ込むつもりだった。
魔法少女であり、怪人でもあるモモカの強靭な身体であってもタダでは済まない速度で、鉄筋コンクリートにその身を叩きつけようとしたのだ。
(即死できますように)
モモカはそう願った。これ以上生き恥をさらすわけにはいかないし、中途半端に命をつなぎとめて痛みに苦しむのもごめんだった。
そして――衝撃。
残念ながらモモカの願いは届かなかった。
モモカは死ななかった。それどころか、ビルに激突することすら叶わなかった。
モモカの最高速度を上回る凄まじい速度で、何者かがモモカの進路を無理やり曲げたのだ。
金髪のツインテールを風になびかせ、八重歯をきらめかせ、そして生意気な笑顔でその者は言った。
「なに逃げてんの♡ ざぁーこ♡」
「な……七瀬、律……?」
律はモモカを片手で担いだまま、もう片方でハートのステッキをふるう。
刹那、巻き起こった風が竜巻のごとく渦を巻き、襲い来る黒クマたちを飲み込んだ。
風の刃により、黒クマたちはまるでミキサーにでもかけられたかのごとく切り裂かれ、ポップコーンみたいに次々と弾けていく。
「あは♡ バカみたいに集まって♡ こんなの一網打尽にしてくださいって言ってるようなものじゃん♡」
「……悪いけど、黒いクマはモモカにもコントロールできないよ」
この状況を収める鍵をモモカが握っていると考え、律は自害を止めたのだろう。
でなければ助けるはずない。モモカは律の秘密を暴き立て、あまつさえその秘密を罪であると切り捨てたのだから。
――そう、モモカは考えたのだが。
「そんなの知ってるし♡ てか見たら分かるでしょ♡ 役立たずに期待なんてしてないよ♡」
「じゃあなんで助けたの!?」
「いやいや♡ 別に助けてはないけど♡ ただ、責任取ってほしいだけ♡ こんなことになったのはモモカ先輩の責任でしょ♡」
声を荒げるモモカに、しかし律は生意気な笑みを崩さない。
「魔法少女たちを率いるのはモモカ先輩の方が得意じゃん♡ リツはざこたちのお世話係なんてまっぴら♡」
モモカはハッとしたように律を見つめる。
律はモモカに、かつて魔法少女だったときのように仲間を率いて仕事をしろと言っているのだ。
街は大混乱、交通網も麻痺している。地上はパニックになった人間であふれており、それを収める人手はまったくもって足りていない。
死ぬ覚悟があるなら少しでも人の役に立てということか。確かに律の言葉は理に適っている。
しかしすぐモモカは我に返った。
魔法少女と並ぶ資格がいまのモモカにあるはずはない。
律のまっすぐな目を直視することができず、モモカは足下へ視線を落とす。
「冗談でしょ……モモカがいまさら魔法少女みたいに戦うなんて……」
「喋ってるひまないから♡ いいからやって♡」
「それじゃあ、まずは、なにを――」
「後輩になに聞いてんの♡ かつての最強の魔法少女が指示待ちだなんて笑わせる♡ ダサいこと言ってないで、自分にできる最大限のことをやんなよ♡」
モモカは言い返そうと口を開きかけたものの、言葉は出てこなかった。
律の言うとおりだと思ったからだ。
生意気な煽り口調ではあるが、言っていることは至極まともだった。
モモカは覚悟を決めた。
「モモカは他の魔法少女たちと一緒に住民の避難をする」
「あっそ♡ しっかりやってよね♡」
もう律の目は別の方を向いていた。
これからの戦いを見据えているような、そんな鋭い視線。
律から離れるように下降していたモモカが、ふと思い立ったように振り返った。
「群馬怪人収容所から逃げ出したのは、多分――」
「言われなくても分かってる♡」
律はスッと目を細めた。
北西の方角から飛来する、黒クマの大群。
先ほどモモカを追っていた群れとは比べものにならないほどの数だ。
その一体一体からマリオネットのそれのように伸びている糸に律は覚えがあった。
「本当、しつこい人♡」
凄まじい数の黒クマが集まり、固まり、巨大な1体のクマへと変貌する。
「私はすべてを犠牲にした」
巨大黒クマの中から声が聞こえてくる。
年齢も性別もバラバラの人間がいっぺんに喋っているような声。
しかし不思議と、誰が喋っているのか律には分かった。
「いまさらなにしにきたの♡ クロサワのお兄さん♡」
「もちろん決まっている。魔法少女リツ――お前を殺し、私は再び東京を手に入れる!」