アラサーTSメスガキ魔法少女に煽られて恥ずかしくないの?♡ざぁーこ♡ 作:夏川優希
「律さん起きるプイ! 律さん! ……や、やっぱりだめプイ」
先の戦いの影響によるものか。律は深い眠りに入っており、プイプイが必死に揺すってもまったく目を覚ます気配がない。
「どどど、どうしようプイ!」
「なにを慌てているの」
ルナが低い声で呟いた。
魔法で作り出したライフルを構え、横たわったクロサワへ突きつける。
「蜂の巣にすれば済む話でしょ」
「だめだめだめだめ! だめだプイ!」
プイプイは半狂乱になりながら、そのふわふわの体でルナへ体当たりをくり返す。
ルナは眉間にシワを寄せて小虫でも払うように手を振った。
「なによ。この期に及んで怪人を殺すなって言うの?」
「違うプイ! 下手に攻撃すると爆発するかもしれないプイ! もう怪人じゃなく爆弾として扱わないとだめプイ!」
モモカの作り出した爆弾クマは魔法少女が簡単に処理することができたが、しかしクロサワはそうはいかない。
下手に刺激を加えれば即座に爆発し、かといって放っておいてもじきに爆発する。
「あとどれくらいで爆発するんですか?」
「わ、分かんないプイ。今すぐかもしれないプイ」
カナコの質問に、プイプイが消え入りそうな声で答えると、魔法少女たちの緊張はピークに達した。
東京とその近辺の交通網は麻痺しており、今なお東京にとどまっている人間は大勢いる。
今から避難を呼びかけたところで到底間に合わない。
「ああくそっ、アタシが余計なこと言ったせいだ」
「別にセイラさんのせいじゃないです。それより今はどうするか考えないと」
「……」
カナコの言葉にもセイラの表情は晴れず。やがて思いつめたように口を開いた。
「アタシがクロサワを海まで運ぶ」
「え?」
「できるだけ被害の出ない遠洋までクロサワを運ぶよ。もうそれしかないだろ!」
周囲の人間が避難できない以上、クロサワの方を人気の無い場所に運ぶしかない。
とはいえ爆発までの猶予はない。クロサワを遠くへと運び出すことができたとしても、その役割を負った魔法少女はほぼ確実に爆発に巻き込まれるだろう。
当然ながら実の姉であるルナはセイラの決意を飲み込むことができなかった。
「そんなの危険すぎるわ! いつ爆発するかも分からないのよ!」
「でも誰かがやんなきゃいけないだろ!」
「ならわたしがやるわ。わたしの方が早く飛べる」
「ダメだ! こうなったのはアタシの責任で――」
と、勃発しかけた姉妹喧嘩は次の瞬間に唐突に打ち切られた。
モモカが唐突にクマを出したのだ。白い大きなクマがクロサワの体を取り込む。
「も、もしかしてこれで爆発を防げるんですか!?」
カナコが期待に弾んだ声で尋ねるが、しかしモモカは静かに首を振った。
「気休め。多少爆発までの時間を遅らせる程度だよ」
「それなら、やっぱりアタシが――」
「ダメ。モモカが行く」
セイラの伸ばした手をはたき落とし、モモカがぴしゃりと言った。
「こうなったのはセイラじゃなくてモモカのせいだし、ルナよりもモモカの方が早く飛べる。起こしたことの責任は取らないとね」
「で、でも……!」
「大丈夫。モモカは怪人で、どうせ生き残っても収容所で一生を過ごすだけだもん。命の価値が違いすぎる。そうでしょ、プイプイ」
プイプイはすぐに答えることができなかった。
モモカはプイプイにとっても大事な仲間のひとりであり、しかし倒すべき怪人でもあるのだ。
プイプイは静かに項垂れた。
「ボクの……ボクの力不足プイ。こんなことになる前に……もっと早く、相談してほしかったプイ……」
「ごめんね。でも罪を償うにはこれしかないから」
モモカはそう言って薄く笑う。これが本望とでも言わんばかりに。
――しかし、どうやらもう時間切れだった。
「美しい自己犠牲だな。感心するよ。だが無駄だ!」
クロサワを取り込んだ白クマの内側から黒い光がにじみ出す。
モモカの作り出した白クマには魔力を吸収する機能があったが、それを上回る勢いで魔力を暴走させているのだ。
「くっ……もう時間が……!」
モモカは必死に白クマを抱えようとするが、それを嘲笑うかのように黒い光が眩く輝き出す。
漏れ出る凄まじいエネルギーがモモカの手を焼き、周囲にも頬を焦がすような熱気が漂う。
「もうおしまいだ。全部終わってるんだよ! ハハハハハハハハハ!!」
「うるさい♡ 暑い♡」
「え?」
間の抜けた声がクロサワの口から漏れる。
白クマに包まれているせいで、その視界は覆われている。しかしその声をクロサワが間違えるはずはない。あの甘ったるい、生意気で、忌々しい、メスガキの声。
「り、律さん……?」
セイラが思わず呟いた。律が立ち上がっている。3日は起きないと言われた律が。
――いや、起きたわけではない。その目は瞑ったままだ。
「ね、寝ぼけてる?」
ルナの呟きに、クロサワが半狂乱になって叫んだ。
それと連動するように黒い輝きもどんどんと強くなる。
「そんな! そんなバカなことがあってたまるか! お前は! 私と! 一緒に! 死――」
「だからうるさいって♡」
律は白クマに包まれたクロサワをガッと掴み大きく振りかぶった。
「ふん♡」
寝ぼけているということもあってフォームはめちゃくちゃだ。
しかしその力は凄まじかった。
「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
クロサワはまるで大砲で打ち上げられたかのような、尋常じゃない勢いで空高く飛んでいく。
みるみるうちにその姿が小さくなり、肉眼ではほとんど確認できなくなったころ――
バァン! という凄まじい炸裂音と衝撃波、そして青空に輝く黒い光だけが地上に届いた。
その場にいる誰もがぽかんと口を開けて青空を見上げる中、律だけは「静かにしてってば♡」と、クロサワの炸裂音に文句を言っている。
「本当、この人には敵わないね……」
律の可愛らしい寝顔を見下ろし、モモカはため息のようにそう呟くのだった。