衛非地区で始まりの主をコロコロした四日後、俺はルミナススクエアに来ていた。理由は勿論、ヴェリナのための土産探しである。リクエストされていた紅茶の葉と金平糖は既に買ってあり、両方ともホテルのロッカーに預けてある。
衛非地区の被害はさほど大きく無かったようで、諸々の報告が終わってから戻ってみれば町全体が祝賀ムードに染まり盛り上がっていた。気持ちは分からなくはないがあの切り替えの速さは驚きを超えて少し引いた。活気があるのはいいことだけどな。
その街中で目当ての金平糖を扱っている出店も当たり前のように営業していて問題なく買えたという訳だ。商魂逞しいとは今も張り切って売上を伸ばしてる彼女らのことをいうのだろう。
一応適当観にも顔を出して情報の擦り合わせをしている。といっても特別共有することもなかったため、中身は近況報告に近い雑談である。儀玄は青溟剣の使い手を心配しすぎてママになってたし、儀降も無茶を止めさせたい母親みたいになってた。姉妹揃って母性を持て余しすぎだろ。
市長が目をかける兄妹とも顔を合わせておいたが、この二人に関しては俺の出番がきた時には手遅れだろうし、あまり関わりが増えるとは思えない。いや、これはフラグという奴だな。考えないようにしよう。
そんな感じで事後処理が終わったのが昨日のことである。念のため残っている俺はほぼオフなので気ままに良さそうな土産を探しているのだ。
欲しいとお願いされたものは既に買えているため別に探す必要はないのだが、ただお願いされたものだけを渡すのは少しばかり甲斐性に欠ける気がする。友人ならそれが適切な距離感ではあるが、恋人が相手ならばやはりちょっとしたプレゼントを渡したいと思うのは普通の感性だろう。
しかしながら対人経験がゴミカスの俺は相手が喜びそうなものにとんと疎い。それなりの付き合いだから好みくらいは分かるものの、それらはヴェリナ本人からリクエストされている。
アクセサリー系は土産としては重いので却下。季節に合わせた小物類もセンスが死んでいる俺が選ぶにはハードルが高い。一瞬髪を纏めているリボンに思い当たるが、毎日着けているとなれば彼女も相当数揃えていると思われる。
中々良いのが思い付かねえ、などとヴェリナから連想する候補を洗いだしながら散策していると、視界の端で小さく揺れる若葉に気づいた。釣られて視線を向ければ控えめな主張ながらも佇むフラワーガーデンと、傍の看板に書かれた店名らしい朝露の文字。見た目と相違ないのなら花屋なのだろう。
花か。少しキザっぽいが悪くない。
ロスカリファの中でもトップに近い立場で辣腕を振るうヴェリナだが、何でもできそうに見えてちゃんと苦手なことがある。その一つが植物を育てることだ。
彼女によって散った儚い命は数知れず。普段はどんな仕事でもそつなくこなす姿とのギャップもあり、その弱味はシリアルプラントキラーなる渾名を持って周知の事実となっている。それを耳にした時のヴェリナの顔は、まあ可愛いものであった。
土産としても重すぎず軽すぎずいい塩梅ではないだろうか。ヴェリナでも育てられる植物を見つけられたら言うこと無しだ。
早速足を運んでみると、店の外にある棚田に飾られた植物たちは元気いっぱいにその花弁と緑の手足を揺らしてい挨拶をしてくる。所詮は素人なので見た通りの感想しか浮かばないが、とても大事に育てられているらしい。
さて、君たちの中で誰が一番枯れやすい?あー、聞き方が悪かった。わざと枯らすつもりはないんだ、本当本当。ただ送る予定の相手がな?ちょっとばかし構い過ぎるんだ。だからそうだな、一番逞しい子はだれ?……この子?ふーむ確かに、立派な体つきだ。
「お気に召された子がいましたらお包みいたしましょうか?」
声がした方向に顔を向けるとショートボブの女性が微笑みながら立っていた。胡蝶蘭のような色合いのドレスに艶やかな黒の中に一房だけ入った白いメッシュ。端正な顔立ちにある垂れ目はゆったりとした雰囲気を纏っていて、どこか余裕のある佇まいは歳上の女性のそれだ。多分、この店の店長さんだろうか。
「ちょっと悩み中ってとこですかね。この子らは目当てじゃないんで」
「それは出過ぎた真似を失礼しました。私はオーナーを勤めているランと申します。声をかけて頂ければすぐに準備できますので、お好きなだけ悩んで構いませんよ」
ランと名乗った女性は営業スマイルを作ったまま、一歩引いた距離感を保っている。近くもないが遠くもなく、悩んでいると口にする客に商品を押し売りしてくる様子もない、適切とも言える接客の距離感。立ち寄ったのは偶然だが、中々良い店に出会えたようだ。
折角なのでヴェリナのような初心者でも育てられる植物を聞いてみることにしよう。
「すいません、初心者でも育てられる植物ってあります?」
「それでしたら此方の方に……」
数歩ほど歩いて誘導されたのは比較的にこじんまりとしたスペース。どの鉢植えにも花は咲いておらず幹も細めだが、元気が有り余る姿は小さくも逞しい。
「初めての方へお勧めできるのはこちらのバキラやサンスペリアなどになりますね。バキラは病気になりにくく丈夫な種類で、サンスペリアは乾燥を好む植物になり少ない水やりでお世話できるのが特徴です。
他にも種類がありますが、何か気にしている点などはございますか?」
気にしている、と言われて思い浮かぶのはヴェリナの沈んだ表情。基本的に見せることはないが、付き合いが長ければ感づく程度の変化がある時は大体植物関連でやらかした時である。そのことを踏まえるならば。
「成長が眼で分かるやつがあればそれがいいですね。育てている実感があるというか、変化に気づきやすいみたいな」
「でしたらお勧めはこちらのモンステラでしょうか。乾燥に強く日光の少ない場所でも育てられる品種で、成長が早いので育っていく様子が楽しめるのも特徴ですね」
まさにドンピシャな品種があった。葉に割れ目が入った見た目もお洒落なヴェリナのセンスと合致しそうだ。
ワンチャン枯らす可能性あるけど、いい?それは誰でも同じ?流石植物くん、精神レベルが人間よりも遥かに高い。それじゃあ決まりで。
「決めました。このモンステラを一苗と、あとは別で薔薇も一本包んでください」
「承知しました。薔薇の包装はプレゼント用など種類がございますが、ご希望はありますか?」
「あー……いや、普通のやつで」
「では少々お時間頂きますのでお待ちください」
薔薇の追加注文をした瞬間オーナーの視線が生暖かいものに変わった。当たり前に頼んだけど普通に恥ずかしいわ。モテる男はこれで動揺したりしないの?顔めっちゃ熱いし凄い目が泳ぐんだけど。
というか買うだけでこんな恥ずいのに本人に渡すのさらにハードル高くないか?やばい、想像するだけで全身がかゆくなってきた。
……まあ、まあまあ。しばらく思い出す度に悶えることになりそうだが、ヴェリナが喜んでくれるなら安いもんか。そういうことにしよう。そういうことにしないと羞恥心がやばい。
未来の自分にさじを投げて、顔の熱を冷ますために併設されていたベンチに座る。あとの残った時間どうすっかなーなんて考えながら、見ることの少ない雲を散らす青空を眺めることにした。
「其方、先の戦いでエーテリアスを斬った人間だな?予定がなければ少しばかり時間を頂戴したい」
なーんでこんなところに虚狩り様がいるんだよ……しかもバレてるし。
柊要
主人公。念のため地上にお留守番している。パエトーン兄妹とは顔合わせ済み。本格的に絡むのはもう少しあと。
自分で選んだもので喜んでほしかったり、ナチュラルに薔薇を買ったりするところがある。考えるよりも行動に移す方が早いため、あとから羞恥心がぶり返して悶えるタイプ。今のところヴェリナ専用。
実は五感がぶっ飛んでいるので動植物と意志疎通が取れる。が動物には基本逃げられるかへそ天がデフォルトなため、あまりいい思い出がない。肉食系の獣人シリオンにも同じ反応をされる(市長繋がりで知り合ったライカンが無意識に跪くくらい)ちゃんと傷ついてる。
最後の最後で虚狩りに捕まった。
星見雅
日課を終えて通りかかったところ、初対面なのに既視感のある男がいたので声をかけた。理由は言わずもがな。
作者の中で頭太刀川なのか修行馬鹿(褒め言葉)なのか未だに判断がつかない。個人的には自分を高める行為が好きで戦うのはそこまでって印象。でも儀玄とのPVもあるしな……って毎回なる。