拓銀令嬢世界で女神転生のデビルサマナーをするのはちょっと大変 作:一宮 千歳
拓銀令嬢。原作は小説である。正式名称を『現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変』。
小説家でなろうとカクヨムでWEB連載されており、書籍化もされた桂華院瑠奈というお嬢様が主人公の、バブル崩壊後の現代が舞台の架空戦記である。
架空戦記、というジャンル分けはちょっと大雑把では? とはおもうものの、一旦置く。
ここで問題となるのは桂華院瑠奈お嬢様が経済界・政界へ深く関与することである。
まず悪魔というのは、『生体マグネタイト』なる、精錬時緑色になるエネルギー物質を求めるそうなのだが、その発生源、根本は「人の精神活動」と聞く。
養父母の言うことには、バブル期以来、悪魔、あるいは悪魔の跋扈する異界が発見される事例が格段に増えたそうだ。
ざっくりいえば、中央線に人が飛び込むたびに悪魔が喜ぶ。なんなら飛び込まなくても喜ぶ。
強い感情の動き。それが生体マグネタイトのもとだ。
つまり、経済活動と悪魔は密接に関係する。すなわち、この時間軸以降のお嬢様は常に台風の目!
言い換えれば、いちおう止められなかった惨事もあるにせよ、桂華院瑠奈お嬢様は世界、少なくとも日本を良い方向に導く存在なのだが、
その「良い日本」への道が閉ざされる可能性がある、というのを私だけが認知している、ということになる。
そのうえで、人に害をなす悪魔を排除していくためには、お嬢様の経済活動を否定するか、暗躍する悪魔を闇から闇へと葬る必要がある。
選択するのは、もちろん後者だ。
お嬢様の勝利は日本の勝利だが、悪魔もはびこる。そこを解決するのが、今生の私の役目なのではないか。そう判断したのだ。
なんかちょっとシリアスになっているのは、覚悟を決めたせいだ。
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あずさサマナー計画の根幹は、私が戦闘力を得ることにある。
毎日小学校が終わってから、絶賛訓練中だ。
剣の稽古。魔法の修練。避ける訓練もあれば、むしろ攻撃を受け、耐性をつけるための訓練もある。
原作が未来知識で銀行を買っている横で、スポ根漫画している。なんだかやるせない。
が、日常に忍び寄る悪魔の気配、というのは肌身に感じる。
実体化できていないだけで、私や訓練を積んだサマナーならその姿を認識できるような悪魔は身近にいるのだ。
それらが生体マグネタイトを得るか、世界が異界化して実体化すれば、一般人の目につく上に危険だ。……いや、いたずらぐらいしかしない、無害なやつも居るが。
訓練に伴い、『
「その『練気の剣』は、悪魔を倒すごとにマグネタイトを吸う。霊的な成長を得た後で一部の悪魔と合体させれば、より強力な剣にすることもできる」
とは、父の談だ。ほんまかいな、と思うが、父の持つ「剛烈刀」という剣は、いくつかの悪魔合体による形状変化を経てそうなったらしいので、とりあえず本当だということにしておこう。
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『……これは明かしていいでしょう。
我々のファンドのオーナーはスラブの血を引いています。この国の同胞に手を差し伸べたいという思いがあったのかもしれませんね』
ニュースを見ていた。ムーンライトファンドによる、北海道開拓銀行のTOBの報道だ。
私たち家族も、それを見ていた。室内でCOMPをフル稼働させている。マグネタイト増加兆候を読み取るためだ。
「お父様」
「ああ、生体マグネタイト反応が活発化している。これは……?」
このTOBが成立すれば、背後に蠢く金融資本が再編され、その過程で切り捨てられてしまったはずの数千人の行員たちの絶望が、救われたという歓喜へと変わる。
「お父さん、波形が変わった。これは希望の渦よ。これだけのマグネタイトが一度に解放されれば、異界の連中がやってくる」
瑠奈お嬢様のTOBは見事だった。見事すぎたのだ。
驚愕する父、義直(よしなお)がこちらを見る。
「実戦になるが、大丈夫だな?」
「訓練の成果を見せるときですね
……成功おめでとう、瑠奈お嬢様。でも、あなたが作ったその『希望』という名の
独りごちる私の言葉を、父は聞いていたのかいなかったのか。
「では、往くぞ。目的地は北海道の地下上水道だ」
瑠奈のTOBが成功した瞬間、北海道の水道局のデータが異常な値を示し、それを検知したという。
父が造魔に転移魔法、【トラポート】を唱えさせた。え、そんな長距離移動するんですか。
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陰鬱な空気が漂う地下水道。うーん、娘を連れてこんな陰鬱なところに来るなんて、うちの父親どうかしてるんじゃないかな。
都市の地下、というのは生体マグネタイトのたまり場になりやすいそうだ。感情はある種の廃棄物、流して捨てる、循環する、というのはまあもっともらしい説明だった。
ただ、説明はどうでも良かった。問題は、ここに悪魔が湧いている、という事実だ。
TOB成立による、地元の歓喜の渦。それが悪魔の糧となり、大量発生を招いていた。
「放っておけば異界化する。異界化した上水道の水は、一般人には遅効性の毒となる。急ぐぞ」
私はたまに単独で【天使エンジェル】や【霊鳥ハンサ】を練気の剣で打ち払っていた。
見目麗しく、神聖なオーラすら放っている気がするが、これらはあくまで悪魔。マグネタイトを喰らい、強力な存在になれば、やはり人に危害を加えることもあるそうだ。
ただ、父いわく雑魚も雑魚というこれらは、私が初心者であることを差し引いても一撃で倒せるような低級悪魔だった。
その悪魔たちが吸収していた『希望』や『歓喜』をもとにした生体マグネタイトが、斬った瞬間に光となって霧散し、刀身に吸い込まれていく。不思議な感覚である。
「見た目の良さにアテられる初なサマナーもいるが、あずさは平気なようだな」
「こんなんでも中身は成人女性ですからね……お父さんはすごいですね」
父は私では手におえそうにない、(相対的に)高位な【霊鳥スパルナ】や【天使アークエンジェル】といった悪魔と、私をかばいながら戦っている。
「あずさもそのうちに倒せるようになる」
父がニヤリとこちらを向いて笑ったその時、逆側の影から飛び出してくる悪魔がいた。
「危ない!」