拓銀令嬢世界で女神転生のデビルサマナーをするのはちょっと大変 作:一宮 千歳
『危ないとは失礼だな、このような閉所で刃物を振り回す貴君らの方がよほど危ない』
陰から飛び出してきたのは、赤色の星型に一つ目が付いた悪魔だった。
「……見たこともない、おそらく高位の悪魔!あずさ、下がれ!」
「でも……」
「足手まといになる!逃げろと言ってるんだ!」
父が私を叱咤する。しかし、目の前のヒトデのようなふざけた形の、しかし私よりはるか格上と思しき悪魔のオーラに気押されて、腰が抜けてしまった。どさり、と尻餅をつく。
『獰猛だな、人は』
「悪魔が何を言うか!」
父は剣の切先を悪魔に向け、戦闘態勢だ。
対して悪魔は、その形状から戦う気なのか対話する気なのか読めない。一つ目を閉じ、考え込んでいるようにも見えるし、魔法の行使のために集中しているようにも見える。
いや、もしかして。
「お父さん、もしかして、その悪魔、対話しにきたのかも」
「対話……?」
『おお、そちらの娘は多少なりとも了見があるようだ。それとも、むしろ世間知らずなだけかな?』
一つ目がニヤリと笑った気がした。
『対話、そう対話だ。生体マグネタイトは我々の糧だ。しかし、こうも『希望』の色が濃いものは久方ぶりに見る。『絶望』、『失望』。そういった生体マグネタイトが溢れることはよくあるが、ね』
「あずさ、聞くな!補助を頼む!」
「……カシオペア!」
「【タルカジャ】、実行します」
一つ目ヒトデが対話を求めているかもしれない、と言うのはあくまで私の想像、父は攻撃に移った。
私はしりもちながらもカシオペアを召喚し、
実戦ではこうする、と教わったコンビネーションを実行する。
しかし悪魔は平然としていた。
『【テトラカーン】』
「何をしても……ぐわああああああッ!?」
一つ目ヒトデに父の剣が触れた瞬間、父が吹き飛ぶ。
私には、何が起こったかわからない。
父が攻撃したのに、ヒトデは無傷で、父が攻撃された?
『世間知らずは親の方もか。【テトラカーン】は君たちの剣による物理攻撃のダメージをそのまま跳ね返す。【タルカジャ】が効いているなら、さぞ痛かろう』
「そんな……」
地に臥した父がピクリと動く。だが、立てはしなさそうだった。
甚大なダメージだ。
『さて、親は倒れた。君はどうする?』
考えろ、頭を回せ。
「……あんた、『剣』、『物理』を跳ね返すっていったね」
『言ったが?』
「ならこれは効くんじゃない!? ……カシオペア!」
腰はまだ立たない。だがカシオペアは生きている。
私は
「【アギラオ】、実行します」
二つの火球が螺旋を描いて一つ目ヒトデに飛ぶ。命中。
「これならダメージになるでしょ!」
あたりがもうもうと煙る。しかし。
『目の付け所はいい、が、痛打、とはいかんな。私と君では力量に差がありすぎる』
煙の中から現れたのは五体満足の一つ目ヒトデ。すこし焦げたような跡があるが、それだけだった。何らの痛痒も感じていないらしい。
「そんな……」
『さて、改めて聞こうか。情報を吐いて帰るのと、死。どちらが良い?』
突きつけられたのは、絶望的な二択。瑠奈お嬢様という存在を悪魔に知られ、その日本再建が頓挫するような道か、自分の死か。
死にたくはない。死にたくはないが、ここで死ななかったからと言って、その先の生に何がある?
『悩みたまえ』
一つ目ヒトデの言う通り、私は悩んだ。
「……それは……いえ、わかった」
私は、ハンドヘルドコンピュータを握り締め、提案を行う。
「今私たちが持つマグネタイトを譲渡する。その代わり、見逃して」
『……ほう』
父のものと、私のもの。COMPに蓄積されたマグネタイト。それをありったけ差し出して、命乞いをする。
「人間の単位で言う、約5000マグネタイト。これを差し出すわ。」
決死の覚悟で言い出したその条件に、一つ目ヒトデは食いついた。
『悪くない。いや、むしろいい。』
「それなら!」
『だがそれでは、別の悪魔にまとわり付かれた時に、野垂れ死ぬぞ? お前の父は今、虫の息だ』
「……何が言いたいの」
『追加契約だ。魔石を提供し、護衛してやるから、お前の精気を直に吸わせろ……ああ、それとお前の父はこの上水道脱出まで私と敵対しない、という条項も追加だ』
「せ、せいき? 小学生に何を要求してるの!」
『何を想像した、たわけ、
ならよし。さておき、契約には穴がある。
「……『脱出まで』? 違う」
私は震える奥歯を噛み締め、一つ目ヒトデに続けて提案する。
「『少なくとも、二人が立って歩けるように魔石は複数個』。『この上水道を脱出後、起算して24時間の相互不可侵』、および『提供される魔石が、人体に害を及ぼす呪詛を含まない純製品であることの保証』を追加。」
『いいだろう。契約成立後、貴君ら二人の生命の安全を保証する。片割れの意見も聞こうか?』
自分と、父の命には替えられない。掛けた札が釣り合っていない気もするが、ここはこの手が一番いいだろう。
だが、父の意思はどうか。
「あ、あずさ……」
「父さん! 喋らないで。お願いだから、今はただ私の言う通りに頷いて」
「……ゲホッ、ゲホッ……だが……」
「ここで死ぬより、生き延びて多くの悪魔を狩るの。……そのほうが、日本の、桂華院のためになる」
「ふふ、一人前のようなことを……いいだろう」
頷き、目を閉じる父。契約は、成立しそうだ
「聞いた、一つ目ヒトデ」
『聞いていた。……だが一つ訂正しよう。
私は堕天使、デカラビア。一つ目ヒトデではない。以後、しばらくの間、よろしく頼むぞ。』