拓銀令嬢世界で女神転生のデビルサマナーをするのはちょっと大変   作:一宮 千歳

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拓銀令嬢要素どこと言われたらすいませんとしか言いようがなく


交渉の結果

『どうした、貧弱な人間少女』

 

「なんでもない。精気を吸うなら、早くして」

 

『そうか、では、早速』

 

デカラビアが一つ目を閉じ、開くと、その目が虹色に光ったような気がした。

 

一瞬間をおいて、全身の血液が凍結したような怖気(おぞけ)に襲われる。

 

それに伴って、思考速度が落ちていく。

 

……これは、良くない。

 

うめき声が、口から漏れる。

 

目の前で、デカラビアの虹彩が煌めく。

 

『ふむ、興味深い味だ

 

 若い果実かと思えば、よく熟れている』

 

「……ッ」

 

意味深な言葉の後、冷たさの次、熱さが襲ってきた。体の芯から熱されたような刺激が全身を駆け巡る。常温の、むしろ涼しいはずの地下上水道が暑く感じる。

 

デカラビアの声が、耳元ではなく、脳の奥底に直接響く。

 

『どうだ?』

 

甘く、低い、湿度を帯びた声だ。

 

声にならない声が、私の口から漏れた。

 

『だが、程々にしないとな。睨まれているしね、あの大層な義侠心に満ちた、親父殿に』

 

少し視線をずらせば、息も絶え絶えな父が、デカラビアを睨みつけている。

 

『親子愛、というものかな。これも間近でだけ得られる純度の高いマグネタイトのもとだ。娘の温もりを吸い取りながら、父の殺意を食う。……ふふ、最高のご馳走をいただいた』

 

寒さから、熱さから、解放された。

 

『そら、吸収(ドレイン)は済んだ。魔石だ。まずは親父殿に、私が使ってやろう』

 

「それは――」

 

喉から声が出ない。舌が回らない。

 

だが、それは許せない。悪魔の使う魔石。変な精神汚染が、含まれていないと、言い切れるか?

 

「……それは、……だめ……」

 

『ふうん?』

 

「石を、こっちに渡して……。私が検品して、私が……使う」

 

『検品、か。目利きの能力は?経験は?』

 

そんなものはない。ないが。

 

「純製、の……保証。破る……ようなことが、あれば……」

 

『ふむ』

 

「貴方は…………自害、して。」

 

『……フハッ』

 

悪魔との契約の基本は、お互いに嘘がないこと。

 

悪魔は、基本的に嘘をつかない。だから、人間が嘘をつかなければ、その契約は完全に履行される。

 

『悪魔は嘘をつかない。それは、知っているな?』

 

「……ええ」

 

『ならば、私が人である可能性(・・・・・・・・・)でも考えたのか?』

 

そう、ダークサマナー。そういう邪悪な意図を持った敵である可能性が、ほんの僅か、ある。

 

「ないとは……いいきれない」

 

『いいだろう。違反時の自害契約を受諾する。故に、その検討は無意味だ。』

 

デカラビアが、父に魔石を使った。

 

「あ……」

 

『私の言葉に嘘はない。この魔石はあらゆる悪魔の意図が絡まない純正で、君の父親殿は後遺症もなく立ち上がることができる。

 

 そして、君も。』

 

父の指先が、ほんの一瞬、痙攣するように跳ねる。

 

立ち上がった父が、私を見て、苦り切った顔を一瞬見せた後、剣を拾った。

 

私にも投げ渡された魔石の力で、デカラビアに吸い取られたヒットポイント(生命エネルギー)が戻ってくる。

 

『さて、どうする。帰るか、もう少し休むか? 私はどちらでも構わないが』

 

デカラビアの問いかけに、父が答える。

 

「残った悪魔は……狩る。COMPを確認したが、地下の掃討は進んでいない。ここで引けば、他のサマナーが居るとはいえ、この水道の異界化が近づく。」

 

『ほう。確かにすぐ帰るという契約ではないな』

 

デカラビアがくるくると回転する。

 

『契約に瑕疵はない。私も同行する。

 

 さ、どこから行く?』

 

「指図をするな……!」

 

『ハハハ』

 

待てよ。私は、なにか間違えたか?

 

頭の中に、直接デカラビアの声が響く。

 

(君は間違えている。私が配下を呼び出して襲いかからせても何ら問題はない、という点を、検討したかな?)

 

「……ッ!」

 

この感情は怒りか、羞恥か。生き延びたいと言う割に、何というずさんな案を提示してしまったのだろう。

 

実質的な敗北だ。命を失っていないのは、単なる幸運でしかない、奇跡に等しいのだと、次の言葉で実感することになる。

 

(だがね、私は君を面白いと思っている。あえて、そうあえて、そんな無粋はしないでおいてやろう)

 

意図のしれないデカラビアの申し出に、私は空恐ろしいものを感じた。

 

 

----

 

悪魔の掃討は問題なく進んだ。結局デカラビアほどの高位悪魔でもなければ、父の剛烈刀が【天使アークエンジェル】や【霊鳥スパルナ】に劣る道理はなかった。

 

マグネタイトを失ってしまった点も、最初から父は仲魔を召喚しておらず、私のカシオペアも造魔であることからマグネタイトを消費しないため、目下の戦闘ではあまり問題になっていない。

 

戦闘だけはうまくいっている。デカラビアさえ居なければ、この悪魔掃討、私の初陣はつつがなく終えられたことだろう。

 

だが、現実はどうだ。デカラビア一体に大きな損害を与えられた。長期的に見ればMAG(マグネタイト)不足にはいいことがない。今は必死にその補填を行なっているだけだ。

 

そして当のデカラビアは、何を考えているかわからない顔(一つ目ヒトデだから本当にわからない)で、私たちの悪魔掃討を眺めている。いや、敵対悪魔が及び腰に見える点でも、威嚇効果を発揮してくれているのだが、私たちでは手に負えない悪魔が、黙ってついてくる、と言うのは不気味だ。

 

『時に、気になったのだが』

 

来た。

 

『スパルナやエンジェルあたりなら、娘御には扱えるのではないかね?』

 

「あずさは新人だ。新人の育成には人間なりの考えがある。黙って見ていてもらおう」

 

『人形使いのようだな』

 

「黙れ」

 

『【テトラカーン】一枚でやられた親父殿に発言権を認めているのは、私の温情である。発言には気をつけたまえ?』

 

「くっ……」

 

「……MAG(マグネタイト)が足りないわ」

 

私は父に代わって、契約しない理由を訴えた。

 

「そもそも交渉に使える手札が武力しかない。命乞いする個体も確かにいたけどね。さらに言うとそこから私が契約するにはCOMP容量が足りないの」

 

『……ふむ。カシオペアとやら、それほどの容量を割く価値があるか?』

 

「少なくとも【タルカジャ】は重宝してる。【アギラオ】も、火炎が弱点の相手には効果がある。それに」

 

『それに?』

 

「初めての仲魔だし、必ず命令に従う。これって重要じゃない?」

 

『私のような気まぐれな同行者とは話が違う、か。なかなか優秀だな、娘御殿は』

 

「……あずさでいいけど」

 

『ではあずさ、インストラクションをしてやる。次のスパルナ、父に任せずお前が単独で狩れ』

 

「「なっ……!?」

 

『格上狩りこそ真の成長の糧だ。悪魔は常に格上に挑むことで強くなる。人間も変わらんだろう』

 

「人に悪魔の理屈を持ち込むな……!」

 

『親父殿。警告2だ。……負うであろう負傷は、私が魔石で回復してやる。どうだ? 乗るか?』

 

デカラビアがくるりと回る。これ、面白がってるな。

 

「対価は?」

 

『いらん。面白いからな』

 

「じゃあ、契約にあたり、一つ。」

 

『なんだ?』

 

「スパルナを狩るところは見せてやる。でも、口と手を出すな。鑑賞する権利だけをやる」

 

『……ますます面白いな。親父殿、どう育てたのだ?』

 

「……」

 

その質問に、父は答えられない。なぜなら育てられていない。私は、前世の記憶をもとに、デカラビアという目上の相手とやり合っている。

 

「……親子の絆を裂こうって? 悪魔らしいわね」

 

『純粋な興味だよ、あずさ』

 

そんなやりとりをし、父が何匹かのアークエンジェルを狩った後、その瞬間は来た。

 

金の体毛、大きく開いた翼、首周りのファーは青い。冠のようなものを身につけた、鳥。

 

【霊鳥スパルナ】だ。

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