拓銀令嬢世界で女神転生のデビルサマナーをするのはちょっと大変 作:一宮 千歳
地下上水道の初陣からしばらく経ったある日。
「転校ぉ?」
「ああ。帝都学習館学園、初等部に転校だ。」
父が突然の転校を指示してきた。
「いや、お父さんが言うなら、是非もないんだけど。なんでまた。」
「本家からのお達しだよ。『年頃の娘がいるのだろう?瑠奈の護衛として派遣しろ』とね……」
「……政治だあ」
私はげんなりした表情を隠せなかった。
「ああ。瑠奈お嬢様が絡む、誘拐未遂事件があったそうでね。それに伴い、カシオペアも再構成される。追加で、【ラクカジャ】【スクカジャ】【ディア】を組み込むことになった」
「【タルカジャ】【アギラオ】は残るの?」
「うん、残る。残るが、万一の悪魔を用いた襲撃、それがあった際に瑠奈お嬢様をサポートする役割が主になる」
「サポート……戦闘ではないよね」
「ああ。あずさが身代わりになってでも、瑠奈お嬢様を逃がす。そう言う捨て石の役割だ」
私だけが知る事実をぶっちゃけて言えば、瑠奈お嬢様は物語の主人公だ。その瑠奈お嬢様は、ピンチには陥るが死にはしないだろう。なんなら、高校生までの間は生存が確約されている。
いまだ権勢華やかなりし華族の没落。その象徴であるためだ。
……まあ、悪魔の跳梁跋扈は、原作にない要素だけど。
「とはいえ、それではカシオペアが人目につく事になるのでは?」
「……そこなんだよな。どうも隠匿性を無視している」
「はあ……」
父がぴ、と指を立てる。
「そこから考えられる可能性は一つ。上の本来の意図は、『そもそもそんな事態になる前に敵を片付けろ』だ」
「……無茶な」
「お前には非実体の魔的なものを見る"眼"があるだろう。できる、と判断されてしまったようだ」
私は頭を抱えた。
「COMPはどう隠すんですか……」
「ランドセルと、あと伊達メガネを改造する、そうだ。メモリも増量になる」
「嬉しいようで嬉しくない……仕事が辛い……」
というわけで、常時ランドセルを背負う伊達メガネ少女が爆誕することになった。キック力増強シューズがあったら死神になるところだった。私の場合悪魔としのぎを削るので、割と笑えない。
いいことに目を向けよう。メモリの増設、カシオペアのスキル拡充。これで戦闘で判断しなければいけない事項も増えたが、カシオペア以外の仲魔を勧誘できるようになったことを意味する。
問題は、授業中の護衛だ。なににつけてもランドセルを取りに戻る必要性が出てくるし、そのランドセルを背負って現場に駆けつける必要がある。体育館での体育の授業中だったら?怖気がする。
「父さん、ランドセルをCOMPにするのはいいんだけど、ランドセル必須はいかにもまずいです。たとえば、伊達メガネから遠隔召喚ができるようになりませんか?」
「技術部もそのぐらいは検討している……召喚はできるが、COMPから直接召喚するのに比べて、1分ほどの時間差が生じるそうだ」
「1分か……」
スパルナとの戦いも、20秒弱でケリがついたように思う。その上で1分は悠長に過ぎる。格上相手なら3回死ねる、と言うことだ。
「容量を食う、造魔だからだよね? 低級悪魔、【妖精ピクシー】や【地霊ノッカー】ならどう?」
「それなら遅れはあるものの、数秒で済む。……契約するのか?」
「うん、そいつらなら、そこらにいるから。転校は、いつ?」
「明後日だ。ランドセルと伊達メガネは明日届く」
「……急すぎ! 契約してくる!」
慌てる私に、父が引き留めの言葉をかける。
「待て。ピクシーなら、私が契約している。
父がCOMPを操作し、SUMMONコマンドを実行すると、約20cmの羽の生えた人型が、ふわり、と実体化した。
『話は聞いてたよー。義直チャンの娘チャンに契約更新するの? 良いけど、私は高いよー』
「じゃあ、この、裏が表で表が裏の、とってもレアな10円玉は?」
『なにそれすっごい! わかった、契約する! 私は妖精ピクシー、コンゴトモヨロシク!』
「……おい」
「なあに?」
「……いや、いい。本悪魔が納得しているなら、な。」
ピクシーは10円玉を転がしてご機嫌だ。
裏が表で表が裏、要は普通の10円玉だ。まさか簡単な子供騙し一発でなんとかなるとは思わなかった。
「10円玉以外にも適宜報酬は用意しておけ。妖精は物欲を満たされれば満たされるほど忠誠を誓う。……若い頃は、しこたま小遣いを毟り取られた」
……ピクシーに一生懸命貢いでいる父の姿を想像してしまったが、すぐに打ち消した。
『ねえねえあずさチャン、この10円玉、ちゃんと私専用として取っておいてよね!』
「はーい」
COMPを操作し、ピクシーの能力を確認する。
【ジオ】【ジオンガ】【ディア】【ハピルマ】【羽ばたき】【スクンダ】【スクカジャ】……ふうん。レベルは8。
「おつかれさま、しばらく休んでて……RETURN」
「分かっていると思うが」
「重要なのはハピルマとスクンダとスクカジャ、あと目眩しの羽ばたき、でしょ」
わかっているならいい、と父が頷く。
なんでもこのピクシー、大正時代から桂華院のサマナーに仕えてきた由緒正しいピクシーなんだとか。
MAG消費を抑えるため、どんなサマナーでも扱えるようにするための、あえての低レベル。御霊合体によって追加された補助スキル。魔改造ピクシー、といったところか。
「まずはハピルマとスクンダで相手の足止め、そのあと羽ばたきで目眩し。それで1分稼げば、カシオペアも呼べてなんとかなる……かな」
「学生のサマナーは数が少ないし、今からの育成も厳しい。当分の間一人で踏ん張ってもらうことになる」
「責任重大過ぎる……」
「まあ、一般公安も動いている。そのお陰で単なる不審人物なら弾けるから、悪魔を使役して遠隔で攻めてくるダークサマナーに注意すればいい」
遠隔かあ……どう言う手を使えるのか、まずは相手の気持ちになってみるのが必要かな?
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帝都学習館学園初等部への手続きはすでに終わっていて、
話を聞いた翌々日にはわたしは初等部の制服を着ていた。かわいい。
そして転入のあいさつ。瑠奈お嬢様とおなじクラスになった。ウンガイイナー。
瑠奈様が珍しく単独でお手洗いに行ってくれたので、そこについて行って、こそこそと話しかける。仲良しグループに割って入るのも一苦労だ。
「本家から霊的警護を仰せつかりました。大原あずさです」
「小学生に警護って……それも、霊的? オカルト路線からも警戒しなきゃいけないってこと?」
「本家は、瑠奈お嬢様をそれだけ案じている、と言うことかと」
ぶっちゃけ私は直接そういった話を聞かされていない。が、本家筋ならどう考えたって仲麻呂様の意思は入っているだろう。
「……」
「というわけで、大変心苦しいですが、学校にいる間はそれとなく付き従わせていただきます。お手洗いもご一緒します。あ、私が行きたい時もついて来てくださいね?」
瑠奈お嬢様の口がぱくぱくと開閉を繰り返す。熱帯魚かな?
「繰り返しになりますが、私は霊的防御を担当いたします。瑠奈お嬢様が
逡巡ののち、瑠奈お嬢様は頷いた。
「……分かったわ。私の友達を紹介するから、その子達とも仲良くしてちょうだい」
「はい。それはもちろん。小学生女児としては、友達が増えるのは楽しみです。ですが」
「護衛対象の際限のない増加につながる、ね。分かってるわよ。分かってるけど、交友関係は好きにさせて」
……原作の交友関係、そりゃあ尊いものなので、"わたし"としては口出しする気はないのだが、護衛難易度が跳ね上がるのはとても困る。
幸い、伊達メガネによる校内スキャン結果は白。今のところ、外部からの侵入以外は警戒しなくていいわけだ。
それならまだ、やりようはあるか?
「わかりました。まとめて守れるくらい、強くなりますね」
「よろしく」
私と瑠奈お嬢様の歪な友情は、ここから始まった。