拓銀令嬢世界で女神転生のデビルサマナーをするのはちょっと大変 作:一宮 千歳
春日乃明日香ちゃんと、開法院蛍ちゃんという、瑠奈お嬢様の幼稚園来の親友がいる。
私が瑠奈お嬢様の
ただ、霊的手段の、という部分は伏せている。本人以外の知るところは「半分本当」ぐらいがちょうどいい。
そこからの、護衛と訓練の繰り返しの日々。
その中で一際護衛的に面倒なのが、瑠奈お嬢様ではなく、開法院蛍ちゃんだった。
何せこの子、消える。物理的に完全に消えるのだ。
そのロジックは不明。万が一これが研究実用化されれば各国諜報は早晩瓦解しただろう。まあ、そんな未来は来そうにないが。だってそもそも、ほとんど誰にも捕らえられないし。
ただ、私の"眼"でならギリギリ見える。薄らぼんやり、何かのオーラのような形で輪郭が浮いているような感じ、とではあるが。
原作を考えるとかなりの偉業なのだが、なんとなく納得がいかない。
この目の特性上、「開法院蛍はひとならざるものである」と認めている気がするからだ。これなら逆に見えない方が良かった。
はー。
「はい、蛍ちゃんは瑠奈ちゃんの後ろにいますね」
「!」
「それぐらいわかってたわよね、瑠奈?」
軽口を叩くのは春日乃明日香ちゃん。幼稚園来の、瑠奈お嬢様の親友だ。
「分かりませんでしたけど!?」
瑠奈お嬢様がむくれる。その隙だらけの態度を、私が煽る。
「そうかー、庶民にできても公爵家のお嬢様には無理かー。」
「かっちーん。それ喧嘩?ねえ喧嘩?買うわよ、億出すわよ」
「億欲しい!」
「あげません!」
もちろん冗談である。
こういうじゃれあいもいつまでできるやら。
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で、この学校で外せない人といえば、帝都学習館学園中央図書館のヌシ、高宮館長である。
わたしこの人苦手。理由は人より「物語」を見る人だから。
できれば接触を避けたいが、瑠奈お嬢様が結構な読書家なので頻繁に図書館に向かう。二人で、だ。
高宮館長、1を聞いて10を知るというか、100を紡ぎ出す人なので、本当にあんまり話したくない。
「あら、後ろについてきているのは、新しいお友達?」
「はい♪ あずさちゃん、この方は館長の高宮春香さん」
「よろしくおねがいします、大原あずさと言います」
「まあ。大原さんは、何を読むの?」
ーー大原さん、と来た。これはつまり、生き字引たる高宮館長の脳内データベースの華族・財閥には"大原"の家名がない事を見越して、「パンピーが何しに来たの」と問いに来たに等しい。いや、考えすぎかもしれないが。
「ええと……宮部みゆきと、浅田次郎、恩田陸を少々。」
「あら。宮部さんに、浅田さん、それに恩田さん。どなたも『ここではないどこか』や『世界の綻び』を書いてるわね。……そういうの、お好き?」
やっべえ。前世の趣味をポロッと出してしまった。しかもそれが現職にニアピンしててちょっとタチ悪い!
ゾッとしたのは視線だ。家名がないからとパンピー扱いしてマウンティングにきたんじゃない。
この怪物、瑠奈ちゃんが演出してくれた友人関係の薄皮どころか、大原あずさという『小学生女児』のガワを引き剥がして、中身を覗き込もうとしてる……?
「装丁が、すてきで」
うーんわれながらすっごいダサい逃げ方!
しかも一般の子供なら『表紙の絵が好き』と言うべきなのに、『装丁』なんて単語を使った時点で、自分の業の深さを燃料として差し出している。やらかしにやらかしを重ねた。
「普通の子はね、表紙、っていうのよ。」
まな板の上のおさかなのきぶん。ころしてくれ。
「あずさちゃん。顔色が悪いわよ?」
「瑠奈ちゃん……うん、ごめんね。本借りて、座ろ。」
護衛が護衛対象に助けられてりゃ世話ない。
そして庇い方一つとっても、大宮館長は私たちの関係を見破るだろう。
エネミーサーチ機能がついた伊達メガネは、悪魔の気配を察知していない。つまり、悪魔の助けとかではなく、純粋な観察眼だけでわたしはほぼ丸裸にされた。
わたしは高宮館長への苦手意識を強めた。
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図書館のラウンジは、まあ端的にいえば豪奢なつくりだ。
重厚なつくりの机、ふかふかの革張りソファ、本の保管向けの薄暗さと、人間向けに用意された照明での快適な読書空間が作られている。
そして、今日は珍しく他の利用者がいない。
「ねえ、瑠奈ちゃん」
私は新聞を取ってきて、こしょこしょと、隣で本を読む瑠奈お嬢様に話しかける。
「なあに?図書館でおしゃべりは程々にね」
紙面に躍る、『ドル安誘導』『東南アジア通貨の不穏な値動き』という見出しを指でなぞりながら問う。
「世界規模の金融危機とか、起きたら介入するの?」
本を読む手を止めて、瑠奈お嬢様がこちらを見る。
「……ぶっ込むわね、いきなり」
「護衛としてはどういう事態になるか予測を立てたくて」
「原資があるなら、日本が沈まないようにするわよ」
「あるなら。……次は何を当てるの? インターネット関連?」
「……あなた、心でも読めるの?」
おどけるように言っているが、瑠奈お嬢様の目は笑っていない。値踏みする目だ。
「オカルト、信じる?」
「霊的防御、とか真面目くさって言うタイプの護衛に改めて聞かれたくないわね……」
「平成は31年で終わる。天皇陛下は生前退位して、令和が始まる」
あまりの暴言(暴言と言って差し支えないだろう)は、瑠奈お嬢様の驚愕の声で迎えられた。
「……!?」
「図書館で大声出さなくて、偉いですね」
「あなた……!?」
蚊の鳴くような、しかし明確に凍りついたお嬢様の間抜けな声。
「はい、転生者です。……そして、この言葉が理解できる貴女も」
「……何が目的なのよ」
「瑠奈ちゃんが、日本を救う、お手伝い」
私がそう呟いた瞬間、瑠奈お嬢様の手元でひらひらとめくれかけていたページが、音もなくピタリと閉じられた。
綺麗な言葉を使ったが、半分本心で半分打算だ。
個人スポンサーとして瑠奈お嬢様を抱き込めれば、サマナーとしての経費がずいぶん楽になる。
サマナーにしか知られていない事だが、生体マグネタイトは、金で買える。
それと、負の感情からくる生体マグネタイトより、生の感情からくる生体マグネタイトの方が、気持ち悪魔が弱く感じる、そうだ。
「……これ以上はここでする話じゃないわね」
「じゃあ瑠奈ちゃんのお家でパジャマパーティでも、します?」
ニコリと微笑んで提案する。瑠奈お嬢様の反応は。
「……検討、するわ」