拓銀令嬢世界で女神転生のデビルサマナーをするのはちょっと大変 作:一宮 千歳
乗り気の返事だろうか。いや、「検討する」で終わらせてはいけない。約束を取り付けないと。
「流石にすぐに伺うのは失礼だから、来週の金曜日とかどうでしょう?」
「やたら積極的だけど、何が貴女をパジャマパーティに導くの……?」
「女の子同士、密室、何も起きないわけがなく……」
「起こさないでよ」
「冗談はさておき、同性の女の子同士、だからこそ警戒されないし、密談がしやすいでしょう?」
「まあ、それはそうね」
「ということで、来週金曜日にお邪魔します。積もる話はそこで」
「一応聞くけど、明日香ちゃんと蛍ちゃんは外した方がいいわよね?」
「あの二人に聞かれて困る話もしますよね?」
「……了解」
ということで、約束は成った。
雪こそ降らないが寒い毎日、瑠奈お嬢様のおベッドでわちゃわちゃさせていただく妄想に励みながら、予算請求案をこねこねした。
悪魔常駐に必要な生体マグネタイトの計算、COMPの電池と電気代、メモリ増設費用といったちょっとこまごましたものから、裏ルートでしか手に入れられないPCパーツ、武器、あとピクシーの貢ぎもの代まで。
電池代とかしょっぱいこと言っちゃうのは前世のサガだ。でも、「この少額の使途不明金は何」「電池代です……」とかいう情けないやり取りはしたくないし、計上するのは間違ってないと思う。
あと、私の家は桂華院本家のサマナー。本家からの支給はあるのだが、やってることが専属護衛な以上、費用も指示も瑠奈お嬢様から直接出してもらえれば話が早く済む。防諜の観点からも都合がいいので、そうしたい旨も伝えなければ。
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約束の金曜日。明日香ちゃんや蛍ちゃんの目を完全に盗み、桂華院瑠奈のプライベートルームに潜り込んだ。いや、招かれた。
「盗聴器はないですよね?」
「……念のため、探したわ。この部屋にはない」
高級シルクのベッドの上、フリルだらけのパジャマに身を包んだお嬢様がちょこんと座っている。前世のオタクの魂が「家宝にする!」と大歓喜するとんでもなく可愛い絵面を前に、私はスクールバッグから、ガチの数字が並んだ『じゆうちょう』を厳かに取り出し、お嬢様の膝元へと滑らせた。
「今年度霊的防衛予算編成案です」
「誰が国会を開けといった!」
「瑠奈様の安全のためですよ?」
「……まあそうだけど。あと、様やめて。」
「はい、じゃあ、瑠奈ちゃん」
内心様付けはやめられないが、口にすることぐらいはできる。前世成人女性として、思ってもいないフランクな接し方をするのは得意中の得意だ。いや、親愛はあるんだけど、様付けってやめられなくない? モビルスーツ乗りの偉大な女性とかさ。
「……聞きたいんだけどさあ」
「はい?」
瑠奈お嬢様はベッドの上で私の
「あなたの言ってること、かーなーり、
「……めがてん?所さん?」
「違うわよ!……えー、知らないの、女神転生?」
「ちっとも」
瑠奈お嬢様が頭を抱える。
「あのね、ゲームにあるの。そういう設定が。……あなたもしかして、『花散る』も知らなかったり、する?」
「……瑠奈ちゃんをはじめとした主要登場キャラクターのプロフィールぐらいしか、存じ上げませんね」
「ええ……」
瑠奈お嬢様は高級シルクのシーツを握りしめたまま、完全にフリーズした。そこに私が言葉をかける。
「……じゃあこの世界、魔改造じゃなくて、クロスオーバー二次なんですか?ハーメルンなんですか?」
「なんでそこだけ理解が早いのよ!……でも、私の知識からすると、そうみたい」
そうなると、気になるのは一つ。
「えっとじゃあ、メガテンってどんな作品なんですか?」
「……ごく単純化していえば、悪魔と交渉したり戦ったりして、ポストアポカリプス日本を生き延びるゲームね」
「……ポストアポカリプス日本んん!?」
ーーちょっと待ってほしい。ポストアポカリプス日本ということは、要は滅ぶということだ。滅ぶと言われても、どうやって。あと滅んだら、日本経済とかそう言う話ではなくなる。
「そうよ……でも、知ってる女神転生では、自衛隊のクーデターが起きてた。こちらではそれは起こり得ないし、気配もない。……知っている女神転生では、ないのかも」
「でも、COMPも悪魔も、いますよ?」
瑠奈お嬢様は難しい顔を崩さない。
「そこなのよ。……私の知らないストーリーが、始まろうとしてる。これは間違いないわ」
「……私の役割は、応援と防衛、と思ってましたけど、それだけに収まらなさそうですね……」
「……思ったんだけど、私もそのサマナーになるってセンは、ない?」
「それは、断じて、ないです」
私は瑠奈お嬢様のひらめきを断じた。
いや、一瞬いい線いくかもとは思ったのだ。COMPがあれば誰にでも悪魔は扱える。が、瑠奈お嬢様に限っては、下手に扱ってはならない理由がある。
「瑠奈ちゃん。あなたの最終目標、スローライフですよね」
「え、なんで知ってるの」
「それはこの際どうでもよろしい。サマナー業、最終的にスローライフを目指すには明らかにキャパオーバーです。現役のサマナーから言わせてもらえば、サマナーは世界の裏社会の本丸とも言える稼業です。一度片足突っ込んだら最後、死ぬまで足抜けなんてできませんよ?」
各国政府、悪魔とズブズブだ。そう養父から聞いている。
「うっ……」
「日本経済で手一杯ですよね? だから、悪魔の方は任せてください。いや、カネとコネは出してもらいますけども」
「……あー、最初の話に繋がるわね。お金かあ……」
瑠奈お嬢様がじゆうちょうをぺらりとめくる。
硬直。
「なにこれ」
「真面目に書いたんですけど。何かおかしいですか」
「電池代は100歩譲るわよ!仲魔用インセンティブ調達費(ワッフル)って何!? おやつ代じゃない! あなたはピクニックにでも行くの!?」
「COMPに使うんですよ!ゲームボーイより燃費悪いんですから!ワッフルは使役してる仲魔に貢いで忠誠を誓ってもらうのに必要です!」
「だからってなんでそんな子供っぽいおやつを!」
「いでよピクシー!」
伊達メガネのつるをぐいと押す。
ぼふん。妖精ピクシーが一体出た。
『おやつは必要よ!ワッフル、気になるわ!』
「本悪魔がこう言っております」
「……本物?」
「この流れで3Dホログラフィック出ると思う?」
座っていた瑠奈お嬢様の腰の抜ける音がした気がした。
明らかに人型。そして小型。ふよふよと漂い、生えた羽は半透明。今時点の日本の、いや世界の技術を全て投入しても、同じように動くものを作れないという事実。
実際のところ、瑠奈お嬢様が悪魔を目にするのは初めてだろう。驚きはいかほどか。
「嘘だと言ってよ、あずさちゃん」
「悲しいけどこれ、現実なのよね」
パロディ台詞にパロディ台詞で返す。
反対のつるのボタンを押し、ピクシーをRETURNする。
「……実物を見たら、怖くなってきたわ」
「私は生まれた頃から見えてますから、いること自体はそうかー、ぐらいの気持ちなんですけど、日本が滅ぶのはちょっといただけないですね……」
粒子になってCOMPに戻るピクシーを見届けたあと、瑠奈お嬢様の肩に手を置く。いや、抱きしめる。
「まあ、瑠奈ちゃん。私が付いてるよ。まだ貧弱で、頼りないかもしれないけれど」
「……一人よりは、何も知らないで滅びを迎えるよりは、マシかもね」
「すくなくとも、2008年9月15日が過ぎても、味方だよ」
「……えらく未来の、具体的な話をするわね。それ、来るかわからないわよ?」
「でも瑠奈ちゃんは、その時に備えてるでしょ?」
瑠奈お嬢様が擦り寄ってくる。
「……どうして」
「私もあれで色々失ったので。」
どちらからともなく、抱き合う。
二人で、泣いた。