「はっ……ここっ!」
剣は物心ついたときから隣にいた。……故に剣の振り方だけは理解しきっていると思い込んでいた、のだが……この銃剣という武器はどうにも勝手が違う。
振り抜いた剣先は空を斬り、後頭部にヒヤリとした鋭いものが当てられる感覚がした。
「……参りました」
「これで私の20連勝だな。キリもいいし、そろそろ終わるか」
笑いながらカグラは言った。その顔には汗ひとつ流れていなくて、僕と正反対だ。
僕がお礼を言うと、カグラはどうってことないという顔をして宿舎へと戻っていった。
「……はあ、上手くいかないな」
今はK社から東部親指の本部へと戻って、リハビリという名目でカグラに戦い方を教えてもらっていた……親指の戦い方を。
天罪星刀がない僕に残された武器はこの粗末な銃剣のみ。工房製の武器を買っても良かったのだが、どうも手に馴染まなかったから辞めた。
親指には様々な剣術や戦法がある。
その中でも、僕が習っているのは【パレルモ】
女性組員がよく習得している、流麗で華麗な速剣が特徴の剣術だそうだ。ずっと昔に、パレルモを極めたアンダーボスが煙戦争で英雄として名を挙げたと聞いて興味が湧いたから習っているのだが……。
「まあ、そう簡単にはいかないよな」
同じ構えを千回、それでできなければ万回繰り返し身につけるという……努力と経験がものをいう剣術。なんとなくだが、僕には合っている気がしないのだ。
それでも、今はひたすらに強くなることだけを考えなくちゃならない。
天罪星刀なしでもアランと戦えるように。……ひとまず、東部親指の壊滅は後回しだ。
そして、一つだけ気付いたことがある。
それは、僕の素の実力は……天罪星刀も心も望もない僕の実力は、カポIにすら大きく劣るということだ。まあ……僕は都市の人間では珍しく、強化施術や義体化を施していない人間だ。身体の一部に工房製の装置をいくつか入れてはいるが、その程度だ。……故に、弱い。
「……それに、望も戻っちゃったしな」
あの時出せた一望と半分の光輪は、今では出せなくなってしまった。
『周囲に誰もいないことを確認し』、銃剣を振るう。出てくるのはやはりたった一つの光輪だけ。以前はそもそも不完全な一望だったのだから成長はしたのだろう……。
「けど、やっぱり、弱いままは嫌だ」
ああ、少し眠くなってきた。今日は、十分に訓練したんだし、もう休んでしまおう。そう思った僕は、宿舎へと足を向けるのだった。……その蛇のような視線に気付かずに──────
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木陰からその様子を見ていた女が一人
「……おかしいなあ。ソルダートなんかが、望を使えるはずはないのに」
「あれは……前の掃討作戦に参加してた子だったかな」
「それに、独り言を言ってた……“弱いまま”ねえ」
女は、面白いおもちゃを見つけたかのようにクスクスと笑いながら、呟く
「猛虎の群れに、自ら小鳥が入ってくるなんて……ああ、どうやって遊んであげましょう」
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「今……何時だ?」
腕時計を見る。よく眠ったからか、視界がはっきりとしない。
「…大体20時か、寝過ぎたな」
ちなみに、前の掃討作戦に参加したことの影響で今の地位はソルダートⅢだ。……おかげで、ソルダートⅠ、Ⅱとは違って個別の部屋が与えられている。
「はあ、身体中痛いな」
筋肉痛だ。パレルモ自体、全身を使って攻撃する剣術なのに加えて、僕自身、あまり基礎的な筋力トレーニングをしてこなかったから、ここ数日はずっとこの状態だ。
そうして、眠気覚ましに夜風に当たろうと扉を開けたのだが……。
「なんだこれ、【令状】?」
「……………」
「……」
「はあ、クソ…」
【令状】
東部親指ソルダートⅢ “スズモリ カエデ”に命ずる。
汝の数多の罪に対し、東部親指から断罪が行われる
指定に日時に、【渡らずの廊下】に来るように
東部親指カポⅣ マリー・セジェット
以下,罪を列挙する
・任命式初日にてソルダートⅡ三名の殺害及び、式典場の床の破壊
・カポⅠカグラへの無礼
・夜の錐アランを逃したこと
・別組織の身分を隠して親指へ入団したこと
これらの罪は、カポⅣ マリー・セジェットにより断罪される
カポⅠⅠⅠⅠ(4)の表記は見やすさのため、これからはⅣを使用します。何卒ご理解を…!