貞操逆転世界でお金のためにホストになったら、神様が生んだ『子』と呼ばれるようになった   作:主義

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ホストとしての初めての接客

店内の準備もやっと終わり、僕のホストとして人生が今日から始まる。ホスト人生というか、ホストのアルバイトだけど。

 

 

今更だけど、ホストってアルバイトできるもんなんだ。

 

 

「今日は何人のお客様からご予約いただいたんでしたっけ?」

 

 

「え…えっとたしかね。10人ぐらいだったと思うわ」

 

結局として、ホストは僕だけなのだ。綾乃さんが言うには元々この世界でホストになりたいなんて思う男性は少ないらしい。僕が応募してくれただけでも全然いいと言っていた。

 

 

僕一人だけとなると、どうしても対応できる相手は限られる。なのでこの店では、完全予約制になり、一人のお客さんに対して割ける時間は30分しかない。

 

営業の始まりは20時で終わりは25時。労働としては5時間だけなのに、給料はかなりの破格だ。

まぁ、この世界を前世と同じ基準で考えない方がいいんだと思うけど。

 

 

 

私服でホストをするわけにはいかないので、黒いスーツに身を包んでいる。服は全て、綾乃さんが用意してくれた。

 

 

「何から何まで用意してくださってありがとうございます」

 

 

「お礼を言われるようなことではないわ。ホストとして必要なものであれば、オーナーの私が用意するのは当たり前のこと。義幸くんにホストをしてもらうわけだし」

 

 

 

 

 

そしてスーツに身を包み、開店時間になるまで心を整える。女性と話すことに対する抵抗感はほとんどない。でも、ホストをするということは相手を楽しませなくてはいけない。そのために対価としてお金を得る訳だから。

 

 

 

 

入店してきたのはスーツに身を包んで、如何にもオフィスレディといった感じの女性。初めてのお客さんということもあるので、しっかりと接客をしてリピータになってもらえるようにしないと。

 

 

「今日はいらしていただき、ありがとうございます」

 

 

「うん」

 

女性は辺りを見渡して内観をしっかりとチェックしているように見える。そして最終的に視線は僕のところに戻る。

 

 

「田中様でお間違いないでしょうか?」

 

 

「そうよ」

 

 

「では、ご案内します」

 

前世でこういうことをホストがやることはあんまり少ない。しっかりとスタッフの方が居て、案内してくれたりするもの。だけど、うちのスタッフと呼べるのは綾乃さんぐらいだ。その彼女は飲み物などの準備があるため、後ろに控えている。

 

 

 

案内も終わり、僕は彼女の隣に腰を下ろす。

 

 

「僕はテツと言います。改めてお名前を伺ってもいいですか?」

 

 

「田中美晴」

 

 

「美晴さんとお呼びしても良いですか?」

 

 

「構わないわ」

 

 

「ありがとうございます。では美晴さんとお呼びしますね」

 

彼女の反応はそこまでいいものではない。まさか最初からこんなお客さんに当たるとは思っていなかったけど、逆に考えれば美晴さんのようなお客さんを楽しませてこそホストだ。

 

 

彼女だって予約までしてこの店に来てくれたということはホストに興味があるからだろうし。

 

 

僕は改めて気合を入れなおして美晴さんを見つめる。

 

「差し支えなければ、美晴さんはどんなお仕事をしているんですか?」

 

 

「…アパレル関係のお仕事を」

 

 

「そうなんですね。どのくらいされているんですか?」

 

 

「5年ぐらい」

 

 

「5年もですか。すごいですね、一つのお仕事を5年間も続けるなんて、僕にはできそうにありませんよ」

 

どんな風に相手を褒めればいいのか分からないので、まずは手あたり次第褒めていくしかない。美晴さんには良い気持ちになって帰ってもらわないといけない。

 

 

最初のお客さんの評判がそのまま、これからの店の客入りに大きく関わっていくのは僕も分かっている。綾乃さんには色々とホストとして必要なことを教えてもらった恩もあるし、僕のためにもこの店が繁盛するように頑張らないと。

 

 

 

「美晴さんがしっかりとお仕事に向き合って取り組まないと続かないと思います。そういう方を始めてのお客さんと迎えられたことは本当に嬉しいです」

 

 

「……褒めるのが上手ね」

 

 

「そうですかね。僕は考えていることを言葉に出して説明するのがあまり得意ではないので、美晴さんに伝わったのならよかったです」

 

 

 

すると美晴さんが急に「私の話だけじゃなくて、あなたの話を聞きたいわ」と言い出した。

 

「僕の話ですか?」

 

 

「ええ」

 

確かに相手の話ばっかり聞いてばかりで自分のことを開示していなかった。多少、開示しておかないと相手が不安に思うのかもしれない。

 

 

「わかりました。ではどんな話をしましょうか」

 

 

「どんな話でもいいわ。あなたの話であれば」

 

 

「では…どんな話をしましょうか……」

 

考えようと思案を巡らせたものの、あんまり良い案が思い付かないので『普段』のことを話すことにした。

 

 

 

あんまり家庭事情を話すのは良くないとは思うけど、話すことがほとんどないので仕方ない。

 

 

 

 

 

 

その後は本当に他愛のないような話をした。家事のことや高校での出来事、妹たちと喧嘩した時の事など。

 

こんなことを話して、美晴さんが楽しんでくれるのか不安だったけど、聞いてくださっている時の美晴さんはさっきよりも口角が上がっていた。どうやら美晴さんの気分を少しは上げられたようで本当によかった。

 

 

「あなたの話は聞いていて楽しいわ」

 

 

「そんなことはないと思いますが、少しでも伝わったのであれば良かったです」

 

 

「伝わったわ」

 

次からはもっと伝わりやすいように頑張らないといけない。

 

「美晴さんが聞き上手で話し過ぎてしまいましたよ」

 

 

「…いや、あなたの話がうまいのよ」

 

 

「ありがとうございます」

 

そんなことないと思うけど、美晴さんは僕が否定したところでそれを受け入れることはないと思う。それは今まで話している感じで分かったので、ここは反論をしない。

 

 

 

そろそろ美晴さんを褒めるパートに移行する。さすがに世間話で全ての時間が終わるわけにはいかない。

 

 

「美晴さんはとてもキレイですね」

 

 

「…そうかしら」

 

 

「はい、キレイですよ。美晴さんみたいな美しい方と話す機会はあんまりないので、こちらの方が緊張してしています」

 

 

「ほんとに言ってる?」

 

 

「本当に言っていますよ。僕は嘘を吐くと顔に出やすい人間なので、初対面の美晴さんでも分かっちゃうと思います」

 

 

「…そう。ありがとう」

 

 

これは本当の話で、僕は嘘を付くのが本当に苦手。

 

妹たちからも「兄貴は正直者すぎる」とか「兄ちゃんはもっと上手く嘘を付くようにして」とか言われているので、本当に下手。

 

 

 

 

 

 

そこからしばらく話して予約の時間は全て終わった。

 

思っていたよりも時間は早く過ぎ去っていくようなものだと改めて実感した。

 

綾乃さんが奥から出てきて、美晴さんから料金を受け取るとまた奥へと消えていった。

 

 

「美晴さんのようなキレイな方とお話できてとても楽しかったです。よろしければまた来てください。僕は美晴さんのことをお待ちしていますので」

 

 

「…そう。気が向いたらね」

 

そして美晴さんは去っていった。

店を出る最後に僕に一瞥だけ目を向け、扉は閉じた。

 

 

 

 

 

 

「はぁ…」

 

彼女に甘い言葉を全然言っていない。

 

世間話のような話をしていたらほとんどの時間が過ぎていた。

もしかしたら、顔では退屈そうな感じはしなかったものの、内心では退屈に思っていたかもしれない。

 

 

この反省は次のお客さんの対応に活かしていかないと。

 

 

 

 

 

それから数分、休憩して僕は次のお客さんの対応を始めた。

 

 

 

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