武蔵転生記   作:masasoukoku

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第一話

斬られ、散り、肉を失い――

それでもなお、宮本武蔵の魂は消えなかった。

 

「ほう……死とは、こういうものか」

 

暗闇の中を漂っていた意識が、不意に光へと引き寄せられる。

 

次に目を開けた時、彼は見知らぬ草原に立っていた。

 

空気が違う。

風が違う。

地面を踏む感触すら、元いた世界とは別物だった。

 

「……異界か」

 

武蔵は口元を歪める。

 

その時だった。

 

遠くから悲鳴が聞こえる。視線を向けると、小さな村。

その周囲では甲冑姿の騎士たちが村人を追い立て、火を放ち、笑っていた。

 

――カルネ村。

 

武蔵には知る由もない。

 

だが、わかることが一つあった。

 

「弱き者を斬る顔ではないな。……つまらん」

 

騎士の一人が老婆を蹴り飛ばした。

 

その瞬間、武蔵の頬が吊り上がる。

 

ニヤリ。

 

「ならば、試そう」

 

腰に刀はない。だが、武蔵にとって刀とは鉄ではない。

“斬る”という観念そのもの。

 

騎士の前に立つ。

 

「何者だ貴様!」

 

騎士が剣を抜く。

 

武蔵は答えない。

 

ただ一歩。

 

踏み込んだ。

 

次の瞬間――

 

騎士の首が、音もなく宙を舞った。

 

剣を持っていない。

触れてすらいない。だが確かに、“斬られていた”。

 

周囲の騎士たちが凍りつく。

 

「ば……化け物……!」

 

武蔵は笑う。

 

「よい。よいぞ」

 

血煙の中、彼の瞳は獣のように光る。

 

「この世界にも、斬り甲斐のある者がいそうだ」

 

その背後、森の陰から全てを見ていた黒衣の魔法詠唱者――

アインズ・ウール・ゴウンは静かに呟いた。

 

「……面白い存在が現れたな」

 

ナザリックにとって最大の“未知”が、今ここに生まれた。

 

宮本武蔵は歩く。

 

ただ歩くだけ。

 

その進路上にいた騎士たちは、次々と崩れ落ちていく。

 

胴が裂け、首が飛び、腕が宙を舞う。

 

誰一人として、武蔵の動きを見切れない。

 

「ば、化け物だ!」

 

逃げ出そうとした騎士の背を、武蔵は指先だけで断ち割った。

 

血飛沫が舞う。

 

だが武蔵の顔には、退屈の色しかない。

 

「……おもしろくない」

 

倒れ伏す死体を見下ろし、鼻を鳴らす。

 

「弱すぎる」

 

剣筋は鈍い。

間合いは浅い。

覚悟もない。斬るたびに、期待がしぼんでいく。

 

「この世界も、こんなものか――」

 

そう呟いた、その時。

 

ぴたり、と武蔵の足が止まった。

 

風の流れが変わった。

 

木々のざわめきの奥。

血の匂いの向こう。

 

“視線”がある。

 

しかもただの視線ではない。

 

深い。重い。底が知れない。武蔵の口元がわずかに上がる。

 

「ほう……」

 

ゆっくりと首を巡らせる。

 

森の影。

 

そこには誰も見えない。

 

だがいる。

 

確かにいる。

 

「何者?」

 

武蔵は問いかける。

 

返事はない。

 

だが、その沈黙が逆に確信を深める。

 

――強い。

 

今まで斬った連中とは、まるで違う。生き物としての“格”が違う。

 

武蔵の背筋に、久しく忘れていた熱が走る。

 

「だが強いな」

 

その言葉には歓喜が混じっていた。

 

まるで飢えた獣が、ようやく獲物の匂いを嗅ぎつけたように。

 

影の中。

 

アインズ・ウール・ゴウンもまた、武蔵を観察していた。

 

(剣も持たずにあの斬撃……武技か? いや、違う)

 

アインズの赤い光が揺れる。

 

(面白い。ユグドラシルにもあんな存在はいなかった)

 

互いに姿を見せぬまま、二つの怪物は笑っていた。先に動くのはどちらか。

 

その瞬間――

森の奥から、さらなる異形の気配が近づいていた。

 

ナザリックの守護者、アルベドが到着しようとしていた。

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