別室。
レエブン侯と武蔵は静かに待っていた。
やがて扉が開く。
「お待たせいたしました。」
シャルティアが優雅に一礼する。
「どうやら話がまとまったようです。」
「再び謁見の間へお越しください。」
「承知した。」
レエブン侯は立ち上がる。
武蔵も静かに腰を上げ、二人はシャルティアの案内で再び玉座の間へ向かった。
重厚な扉が開く。
玉座にはアインズ。
その左右にはアルベド、デミウルゴスをはじめとする守護者たちが整列している。
レエブン侯は膝をつき、武蔵は静かに正座した。
デミウルゴスが一歩前へ進み出る。
「先ほど御提示いただいた提案について、アインズ陛下と協議いたしました。」
静かな声が玉座の間に響く。
「その結果――」
「アインズ陛下のご意思により、貴国との友好関係を結んでもよいとの結論に達しました。」
その言葉を聞いた瞬間。
レエブン侯の肩から力が抜ける。
(助かった……。)
(これで王国に希望が残った。)
思わず胸をなで下ろした。
武蔵も静かに頷く。
「よかったの。」
デミウルゴスは続ける。
「ですが。」
「提示された条件には、一つ記されていない事項がございます。」
「行政権についてです。」
アルベドが言葉を引き継ぐ。
「国境線については概ね異論はありません。」
「しかし。」
「エ・ランテルおよびカルネ村周辺の統治権、税制、司法、住民管理などの行政権につきましては、改めて正式な交渉を行わせていただきます。」
レエブン侯は深く頭を下げた。
「承知いたしました。」
「その件につきましては、王国としても正式な使節団を編成し、改めて協議させていただきます。」
アルベドは満足そうに頷く。
「結構です。」
レエブン侯は恐る恐る尋ねる。
「では……。」
「交渉場所はエ・ランテルでよろしいでしょうか。」
アインズは玉座から静かに口を開く。
「うむ。」
「エ・ランテルでよい。」
「互いの中間地点でもあり、もっとも妥当であろう。」
「ありがとうございます。」
レエブン侯は再び深々と頭を下げる。
これで国へ持ち帰るべき成果は得られた。
王国とナザリック魔道国。
両国は正式な国交樹立へ向け、次の段階へと進むことになった。
その様子を見ていた武蔵は、どこか満足そうに笑う。
「やはり。」
「刀を交えるばかりが勝負ではないということじゃな。」
アインズもわずかに頷いた。
「時には言葉で勝つこともある。」
武蔵は豪快に笑う。
「ははは、それもまた面白いものじゃ。」
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レエブン侯は深く一礼した。
「それでは失礼いたします。」
「この吉報、一刻も早く国王陛下へお伝えしなければなりません。」
「うむ。」
アインズが頷く。
レエブン侯は護衛たちと共にナザリックを後にし、王都への帰路についた。
一方。
武蔵だけはナザリックへ残ることになった。
「せっかく来たのじゃ。」
「久しぶりに皆の顔を見ていこうと思っての。」
最初に駆け寄ってきたのは大きなハムスターだった。
「武蔵殿~~!!」
ハムスケである。
勢いよく飛びつき、武蔵の胸へ顔をこすりつける。
武蔵は笑いながらその頭を撫でた。
「元気そうじゃの。」
「はいでござる!」
「聞いてくだされ!」
「それがし、ついに武技を習得したでござる!」
「ほう。」
「見せてみい。」
闘技場に用意された木製人形。
ハムスケは尻尾に巻いた木刀を構える。
「武技――」
「斬撃!」
シュッ!
鋭い一太刀。
人形の胴に深い裂け目が入り、そのまま真っ二つに割れた。
武蔵は嬉しそうに頷く。
「ほほう。」
「ちゃんと武技になっておる。」
「まだ粗削りではあるが筋は良い。」
「精進すれば、もっと威力は上がるぞ。」
ハムスケは胸を張る。
「任せてほしいでござる!」
「武蔵殿に負けぬよう修行いたす!」
「うむ。」
「その意気じゃ。」
続いて武蔵が向かったのは恐怖公の部屋だった。
「武蔵殿!」
「ちょうどよいところへ!」
「新製品が完成したのであります!」
「ほう。」
「試してみよう。」
恐怖公が恭しく皿を差し出す。
そこには黄金色に揚げられた幼虫の菓子が並んでいた。
「カブト虫の幼虫に各種フレーバーを施した一品であります!」
武蔵は一つ摘まみ、口へ運ぶ。
サクッ。
しばらく噛みしめる。
「……。」
「ふむ。」
「これはなかなか。」
「外は香ばしく、中は柔らかい。」
「乙なものじゃ。」
恐怖公の複眼が輝く。
「そうでござろう!」
「吾輩が試行錯誤の末に作った新製品であります!」
武蔵はさらに一つ口へ入れる。
「これは……。」
「カルネ村名物として売っても面白いかもしれん。」
「!!」
恐怖公は感激のあまり震え始めた。
「武蔵殿にそこまで言っていただけるとは!」
「光栄至極!」
少し離れた場所で見ていたルプスレギナは顔を青くする。
「えぇ~~……。」
「勘弁してほしいっす。」
「カルネ村の名物が虫菓子なんてイヤっす……。」
武蔵は笑った。
「案外食えばうまいぞ。」
「遠慮するっす。」
その夜。
アインズの私室。
豪華な食卓を挟み、二人だけの夕食会が開かれていた。
もちろん料理を食べるのは武蔵だけである。
アインズは椅子に座り、その様子を眺めながら話を楽しんでいた。
帝国のこと。
カルネ村のこと。
王国との交渉。
そして旅で出会った強者たち。
話題は尽きなかった。
武蔵が笑えば、アインズも自然と笑う。
「武蔵さんと話していると、不思議と時間が経つのを忘れますね。」
「そうか。」
「酒でもあればもっと話せたの。」
「飲めない体なのが少し残念ですよ。」
アインズは苦笑した。
夜は更けても、二人の会話は続いた。
翌朝。
ナザリック正門。
見送りに来たのはアインズをはじめ、守護者たち、プレアデス、ハムスケ、恐怖公まで勢ぞろいだった。
恐怖公は大きな包みを差し出す。
「武蔵殿!」
「こちらを!」
「新しく焙煎した虫糞茶であります!」
「旅のお供にぜひ!」
武蔵は嬉しそうに受け取る。
「これはありがたい。」
「旅には茶が一番じゃ。」
ハムスケも目を潤ませる。
「また修行の成果を見てほしいでござる!」
「うむ。」
「さらに強くなって待っておれ。」
武蔵は刀を肩に担ぐ。
そしてアインズへ向き直った。
「ではアインズ殿。」
「また会おう。」
アインズも静かに頷いた。
「ええ。」
「武蔵さん。」
「良い旅を。」
武蔵は片手を軽く上げる。
「さらば!」
そのまま朝日に向かって歩き始める。
背中には恐怖公特製の虫糞茶。
行き先は再びカルネ村。
幼虫菓子 なさそうですがガチであります