武蔵転生記   作:masasoukoku

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第九十九話 【本当の自分】

武蔵は歩みを進めていた。

 

街道には朝の風が吹き、木々の葉が静かに揺れている。

 

ふと一本の大樹の下を見ると、見覚えのある黒髪の女性が腕を組んで立っていた。

 

「お主。」

 

「また待っておったのか。」

 

ナーベはそっぽを向いたまま鼻を鳴らす。

 

「うるさいわね、変態武蔵。」

 

「また変態か。」

 

武蔵は苦笑する。

 

「それで、今日は何じゃ。」

 

ナーベは小さな紙袋を差し出した。

 

「これ、あげるわ。」

 

武蔵は受け取り、中をのぞく。

 

「おお。」

 

「いつもの毒入りか。」

 

「この前のは、たいしたことなかったぞ。」

 

ナーベはふっと口元をゆるめる。

 

「今回は強烈よ。」

 

「一口食べたらコロリ。」

 

「野垂れ死に。」

 

どこか得意げな笑みだった。

 

武蔵は豪快に笑う。

 

「それはありがたい。」

 

「いただこう。」

 

そのまま歩き出そうとした武蔵を、ナーベが呼び止める。

 

「……ちょっと待って。」

 

「なんじゃ。」

 

「それだけ?」

 

武蔵は首をかしげる。

 

「それだけ……とは?」

 

ナーベはしばらく黙り込む。

 

やがて、小さく息を吐いた。

 

「……私の本当の姿を見ても。」

 

「同じことができる?」

 

武蔵は黙って見つめる。

 

次の瞬間。

 

ナーベの身体がゆらりと揺れた。

 

黒髪が溶けるように変化し、人ならざる本来の姿が現れる。

 

ドッペルゲンガー。

 

その異形の姿には、人間とは異なる肌や輪郭が残っていた。

 

ナーベは自嘲気味に笑う。

 

「これが私。」

 

「本当の姿。」

 

「ドッペルゲンガーとしての能力が低いから、普段はナーベラルの姿しか維持できない。」

 

「でも……。」

 

「これが本当の私よ。」

 

少し目を伏せる。

 

「……これでも。」

 

「できる?」

 

「口づけ。」

 

武蔵は一瞬もためらわなかった。

 

「ん?」

 

と短く返しただけで、一歩近づく。

 

そして、相手がどんな姿であろうと気にする様子もなく、そっと口づけを交わした。

 

 

【挿絵表示】

 

 

離れると武蔵は不思議そうに首をかしげる。

 

「何を気にしておった。」

 

「姿など皮にすぎん。」

 

「人も鬼も妖も、会って話し、剣を交えれば同じじゃ。」

 

「わしがお主をナーベと呼ぶのは、その姿だからではない。」

 

「お主がお主だからじゃ。」

 

その一言に、ナーベは目を見開いた。

 

しばらく何も言えない。

 

やがて顔を真っ赤にし、視線を逸らす。

 

「……。」

「……ほんと。」

 

「変態。」

 

だが、その声にはいつもの棘はほとんどなかった。

 

武蔵は豪快に笑う。

 

「はっはっは!」

 

「そう言われるのも慣れたわ。」

 

「それでは行くぞ。」

 

紙袋を肩に掛け、再び街道を歩き出す。

 

ナーベはその背中を見送り、小さく微笑んだ

 

「……気づいてないのね。」

 

「そういうところが、本当にずるいんだから。」

 

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夕暮れの街道。

 

武蔵はふと空を見上げ、小さく苦笑した。

 

「……本当の姿、か。」

 

風が草を揺らし、鳥の鳴き声だけが響く。

 

武蔵が浮かべた表情 どこか遠くを見ているような表情だった。

 

武蔵には、誰にも話していない秘密があった。

 

この世界で名乗る「宮本武蔵」。

 

それは偽りではない。

 

しかし、それだけが自分のすべてでもなかった。

 

自分がどこから来て、何を経てこの世界へ至ったのか――。

 

その真実を知る者は、この世界には誰一人いない。

 

(……誰にも話しておらぬ。)

 

(アインズ殿にも。)

 

(カルネ村の者にも。)

 

(誰一人。)

 

武蔵は静かに目を閉じる。

 

だが先ほど、ナーベは迷いながらも自らの正体を打ち明けた。

 

自分がドッペルゲンガーであることを。

 

受け入れられる保証などないまま、それでも隠さずに。

 

武蔵は小さく笑った。

 

(……ならば。)

 

(次に会うときには。)

 

(お主には話してもよいかもしれんな。)

 

もちろん、その場で口にすることはない。

 

今はまだ、その時ではないと感じていた。

 

ナーベがいたらこう言うだろう

 

「何を一人で笑ってるのよ。変態」

 

武蔵はナーベのふくれっ面を想像し つい笑ってしまいながら街道を歩き出した。

 

武蔵の影は、夕日に長く伸びていた。

 

そしていつものようにシャドウデーモンが影に入ってその身を震わせていた




ナーベのドッペルゲンガー姿 原作でも出てきませんがパンドラズ・アクターに似た姿だと思ってます

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