その報せは、大陸中を駆け巡った。
『リ・エスティーゼ王国とナザリック魔導国、国境画定で合意。エ・ランテル―カルネ村線を両国の国境とする。』
この一報は、各国の為政者たちに大きな衝撃を与えた。
バハルス帝国
帝都アーウィンタール。
執務室で報告書を読んだ皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは、その場で自らの髪を一本引き抜いた。
「……しまった。」
さらにもう一本。
「王国に先を越されたか。」
机を叩く。
帝国こそが最初に魔導国との関係改善を進めていたはずだった。
ところが、王国はさらに一歩先を行き、正式な国境まで確定させてしまった。
「どうする……。」
苦悩する皇帝。
かつてなら相談相手は一人いた。
フールーダ・パラダイン。
しかし、その名を思い浮かべると苦笑する。
「もう、あやつは当てにならん。」
「完全に魔導国側へ心を移しておる。」
しばらく沈黙した後、小さくため息をつく。
「仕方あるまい。」
「……不本意ながら。」
「やはり、あの娘に頭を下げるしかないか。」
脳裏に浮かぶのは、リ・エスティーゼ王国の黄金姫。
ラナーが、にこやかに笑う姿だった。
「くっ……。」
「また借りを作ることになるとは。」
皇帝は天井を仰いだ。
スレイン法国
神都。
最高神官たちの会議は紛糾していた。
「王国が魔導国と友好を結んだだと……。」
「信じられぬ。」
法国は人類至上主義を掲げる国家である。
異形種の国家と同盟を結ぶなど、理解を超えていた。
さらに問題は領土だった。
国境がエ・ランテルからカルネ村まで引かれたことで、魔導国は南へ勢力を伸ばし、法国と直接向き合う形になったのである。
ある神官長が重々しく口を開く。
「以前、カルネ村へ派遣した陽光聖典。」
「その消息は依然不明。」
「しかし魔導国の仕業と見るのが妥当だ。」
部屋が静まり返る。
「あれほどの精鋭が、一人残らず消えた。」
「もし魔導国の実力ならば……。」
「脅威だ。」
別の神官長が言う。
「番外席次を投入するしかあるまい。」
すぐに反論が飛ぶ。
「いや、まだ早い。」
「まずはエルフ国との戦線を整理すべきだ。」
「一時的な不可侵条約を結ぶべきではないか。」
「そんな余裕があるのか!」
結論は出ない。
会議は混迷を深めるばかりだった。
ローブル聖王国
王宮でも緊急会議が開かれていた。
「王国が異形種国家と友好だと?」
「正気なのか。」
聖王国にとって、人類国家が魔導国と手を結ぶという事実は大きな衝撃だった。
地理的にも、リ・エスティーゼ王国は隣国である。
「場合によっては……。」
一人の将軍がつぶやく。
「王国を仮想敵として考えねばならぬ。」
その場の空気は重かった。
魔導国と友好を結んだ王国。
それは従来の勢力図を大きく塗り替える出来事だった。
竜王国
一方その頃。
竜王国では、ビーストマンとの激戦が続いていた。
そのため、王国と魔導国の友好に対する反応は比較的薄かった。
しかし、女王ドラウディロン・オーリウクルスだけは違った。
報告書を読み終えると、小さくつぶやく。
「魔導国……。」
「アンデッド軍団。」
しばらく考えた後、静かに笑う。
「もし、あの国から兵を借りられるなら。」
「ビーストマンへの対抗策となるやもしれぬ。」
外交官たちは顔を見合わせる。
誰もが驚いた。
しかし女王は真剣だった。
「敵を倒すためなら。」
「利用できるものは利用する。」
大陸の勢力図は、静かに、しかし確実に変わり始めていた。
そして、その中心には――
新たに誕生したナザリック魔導国があった。