光の裂け目から現れた
威光の主天使。
巨大。
眩い六枚翼。
手には神々しい神杖。
その降臨だけで大地が震え、陽光聖典の術者たちが歓喜の声を上げる。
「おお……!」
「成功した!」
ニグン・グリッド・ルインは高笑いする。
だが。
アインズはそれを見上げて肩を落とした。
「な~んだ」
「主天使か」
少しがっかりした声音。
第七位階相当。
この世界では規格外。
だがナザリック基準なら中堅程度。
脅威にはならない。
その横で宮本武蔵が聞いた。
「アインズ殿」
「ありゃ強いのか」
アインズは少し考える。
自分基準なら雑魚。
だが武蔵基準はまだ測れない。
「まあ」
「このあたりでは強いんじゃないですか」
武蔵は頷く。
そしてニグンへ向き直る。
「おい」
「そいつは強いか」
ニグンは勝ち誇ったように笑った。
「うははは!」
「驚け!」
「この主天使一体で国が滅びるだけの力があるのだ!」
武蔵の口元が、にまあ、と裂けた。
「ほお」
その目が光る。
久しぶりに見つけた。
少しは斬る意味のある相手。
ニグンが腕を振り下ろす。
「主天使よ!」
「奴らに善なる極激を浴びせてしまえ!!」
威光の主天使が錫杖を掲げる。
膨大な聖光が収束する。
大技。
放てば周囲一帯ごと聖魔法で焼き払う。
その瞬間。
武蔵が消えた。
「――!?」
ニグンの目が追えない。
踏み込み。
一瞬。
主天使の懐へ入り込んでいた。
速い。
アインズすら少し驚く。
(また速くなった?)
武蔵は剣を振り抜く。
ただ一言。
「斬」
音がない。
遅れて空間が割れる。
主天使の身体に一本の線。
次の瞬間。
神々しい巨体が真っ二つに裂けた。
光が吹き出す。
そして崩壊。
塵となって消える。
沈黙。
ニグンの顔から血の気が引く。
「…………は?」
理解が追いつかない。
国を滅ぼす力。
その切り札。
それが一太刀。
武蔵は剣についた光の粒を払った。
「なるほど」
「確かに、そこそこ強かった」
アインズが静かに呟く。
「……物理で第七位階召喚を斬るか」
アルベドですら眉を上げる。
ニグンの膝が震え始めた。
ここでようやく理解した。
自分が喧嘩を売った相手が何なのかを。
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武蔵は、斬り終えた剣を見下ろした。
刃全体に細かなひび。
熱で焼け、歪み、今にも砕けそうだ。
威光の主天使の神聖な力を受け止めた代償。
武蔵は軽く振ってみる。
ミシ、と嫌な音。
「……もうだめだ」
ぽい、と無造作に捨てた。
地面に刺さった瞬間、剣は砕けた。
その光景を見た陽光聖典の召喚士たちは、完全に戦意を失った。
「も、もうだめだ……」
「あんなの勝てるか……!」
「逃げろ!」
隊列が崩れる。
統制も何もない。
蜘蛛の子を散らすように逃げ出そうとする。
だが。
ザッ。
武蔵の足音。
気づけばニグン・グリッド・ルインの目の前に立っていた。
「ひっ……!」
見えなかった。
一瞬。
距離が消えた。
ニグンは腰を抜かし、そのまま武蔵の足元に平伏した。
額を地面に擦りつける。
「も、申し訳ありません!!」
「い、命だけは……命だけはお助けを!!」
声が裏返る。
先ほどまでの尊大さは跡形もない。
武蔵は冷たい目で見下ろした。
そこには興味も怒りもない。
ただ観察。
「で」
「どうする」
その一言。
ニグンは必死に考える。
生きる。
とにかく生きる。
「わ、私は!」
「あなたのしもべになります!」
「役に立って御覧に入れますぅ!」
涙と鼻水を垂らしながら命乞い。
武蔵は無言。
しばらく見下ろす。
その横で
アインズが静かに歩み寄る。
内心では考えていた。
(スレイン法国の情報源として使えるな)
生かす価値はある。
武蔵に任せれば斬るだけ。
アインズは口を開いた。
「武蔵殿」
武蔵が横目で見る。
「その男、少し借りても?」
武蔵は鼻を鳴らした。
「構わん」
「つまらんしな」
命が繋がった。
ニグンは涙を流して何度も頷く。
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます!!」
だがアインズの仮面の奥の眼は冷たかった。
(さて)
(どこまで吐くかな)
逃げ場はない。
陽光聖典の壊滅。
そしてニグンの運命も、今ここで大きく変わった。